第21話 見えないカラクリ

美鈴は新堂のデータを見ていた。

データは最初の殺人から美鈴の事件まで念入りに記載してあり、

調書、監視カメラの映像、新堂のメモ、写真まで入っている。

目を閉じると、フォルダが表示される。

見たい資料を選んで、『開く』を選ぶと目の前に表示される。

美鈴は食い入るようにデータを閲覧している。


ベットにドーンと転がった。

んーやっぱり、神崎の証拠は消されていると、考えた方が納得がいくんだよねー。

もう一度、私が神埼とあった監視カメラの映像を出して。

>ハイ。再生シマス


映像を見ながら反芻する。

私はあの日、神埼と待ち合わせをしていたはずなのに、映像では神埼ではなく別の男性になっている。

シンの調べでは、この男性は『重森健司(38才)』埼玉の製造工場で働いている。妻と子供二人で大宮に住んでいた。

当日のアリバイも、いつも通り工場に9時に出勤し定時まで勤務していた。

私が神崎と会っていた13時、重森は製造ラインに入っている。

新宿と埼玉って事は、移動するのはまずありえない。

この事件の後、この映像が流出し住所や勤務先を特定され、重森健司は離婚、退職し二年前に自害したらしい。

絶句した。

可哀想に。この人も神崎に殺された様なもんだ。ナンマイダブ。


美鈴はこの連続殺人犯がネットで異常な人気があるのが気になった。

飯沼が替え玉って事は分かった上で、神崎の名前は出ていないが、『ゴッド』とか言って盛り上がっている輩がいる。

事件が決着してからも、掲示板のスレはオカルト板で今も伸びている。


この先は外に出ないと、どうにもならないな。

まずは自首してきた飯沼って奴に話を聞いてみたい。

三笠組がどう絡んでるか。そこが糸口になりそう。

シンも調べたらしいが、組長にも会えずか。


>三笠組ケンサクシマシタ

>指定暴力団 三笠組、全国ニ構成員約3000名ヲ持ツ。現組長、毒島栄一(62)ハ都内ニ五ツ自宅ヲ所持

>IR法施行ノアト中国企業トノフロント会社『ギャラクシー』ヲ設立

>五年前カラ都内、大阪、那覇デ、カジノ運営ヲ行ッテイマス


中国カジノねぇ。さてどう話を聞こうかな。

飯沼の逮捕時の写真を見ながら、美鈴は思いついた。


[エル]ちょっと試したいことがあるんだけど、飯沼にモーフィングできる?

写真は逮捕時の全身裸、全面と後方、特徴箇所の写真だ。

>ハイ。限界値ヲ超エナケレバ問題アリマセン

>フォトデータヲ演算中


飯沼のプロフィール

飯沼健三(34)若衆、元関東暴走連合総長。若い頃から毒島に預けられたらしい。

恐らく出たアトは、顔を変えて舎弟頭か若頭か。

あ、身長身長。

身長172、体重70㎏。

痩せマッチョタイプ。

顔に一点傷、背中に二点大きな傷有り。

背中に酒呑童子の入れ墨。

丸ボウズ……できるのかコレ。


>演算終了シマシタ

>モーフィング、スタートシマスカ? YES/NO

生理的に厳しいがやってみよう。YESで。


美鈴の身体がいつもの様に、肌が黒くなりグラデーションの光彩が身体中を移動する。

そして、身体が極端に絞られていく。

背中がメキメキ動く。

肩が盛り上がり、首の位置も変わる。

何となく頭がくすぐったい。


>モーフィング完了シマシタ


美鈴は来ていたガウンを脱ぎ、姿見に写すと更に驚いた。

男だ。丸坊主になっている。

自分の頭を触ってみた。ザリザリしている。


あー中学の頃、男友達の頭を触らしてもらったな。この感触は懐かしい。

この髪の毛って仕組みどうなってるの?


>篠原重工製人口毛髪ファイバーデス

>内圧ヲカケルコトデ、ファイバー溶液ガ酸素ト触レ高質化シ

>逆ニ減圧スルト頭部内ニ収納シ一定時間デファイバー溶液ニ戻リマス

>毛髪ノ色ハ……


説明ありがとう。衝撃が凄すぎる。

うつむく美鈴は何かを見つける。

そか。男性タイプだとコレも生えるのか。しかも、リアルすぎて汚い。


気を取り直し、自分の身体を鏡に映し、写真と見比べてみるが違和感を感じた。


この汚い肌とか、この腕の汚い毛とか、カッサカサの肌とかにできる?

>ハイ。スキンテクスチャ、スキャン完了


その途端、肌から艶が無くなり、腕や脛から縮れた毛がワサワサ生えだした。

それ以上に、脇に異変を感じ、見るとヒドラのような縮れた毛が生えている!

その汚さに背中に震えを感じ、思わず『止めて!』と声を上げたかった。


くぅ! なんと汚い!

くっそー飯沼の野郎! 覚えてろよ!


腰が若干砕けながらも、鏡を見てチェックを行う。

特徴箇所を確認しながら自分の姿を見る。

汚いシミ、背中の入れ墨、そっくりだ。うん、どっから見ても飯沼だ。

これなら潜入できると美鈴は確信した。

>オリジナルファイル記録シマシタ


あとは声か。


>ミスズ、職員ガ二人部屋ニ近ズイテキテイマス

え!? なんで、こんな時間に。

21時に来た事なんてないのに!


[エル]直ぐに解除して!

>モーフィング変更完了迄、二分程カカリマス

まじか!


美鈴は慌ててベットに飛び込み布団で全身を隠した。

[エル]も急いで警備モードを解除する。

身体が震える。

まだ、胸毛とかの感覚がある。元の姿に戻っていない。

無いはずの心臓の早い鼓動が聞こえる。

ドアのノック音がする。

「こんばんは」


更にノック音が続く。

「山本さん、入りますよ」


声がうわずる。

「うっ、あ、あの! ちょっと待ってください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る