第19話 七年

美鈴はあの日の事を思い出した。

ああ、そうだ。

あの日、私は単独おとり捜査をする直前、シンに電話を入れた。

自分がどうなるかも解らなかったし、モヤモヤしたままでは捜査に集中できないからだ。

それは、シンにプロポーズされた返事を、返すための連絡だった。


それな

HOST:思い出した。

HOST:シンは、弟みたいなもんだから結婚はしない。しかし喜べ。付き合ってやるよ。

HOST:って、言った


チャットが返ってこない。

HOST:おーい


しばらくしてテキストが打ち込まれた。

GUEST:班長なんですね。本当に

HOST:そうだ

GUEST:生きてたんですね。本当に良かった

GUEST:本当に良かった


美鈴は思わず

【いや、死んだ】

と書きかけた時、[エル]が止めた。


>今ミスズガ死亡シテイル事ヲ伝エルト、現在ノ信用度89%カラ40%ニ低下シマス


確かにそうだ。

HOST:うん、何とか生きてる


テキストだが、何となくシンの感情が分かる。

恐らく泣いてるんだろうか。私からしたらホンの二ヶ月前程度の感覚だが

シンからしたら七年か。長かったな。


GUEST:今何処に居るんですか?

HOST:多分、日本だと思うんだが


美鈴は、とりあえずの状況を新堂に端的に説明した。

身体の事は義足と義手を付けて、何とか生活できる状態になったと伝えた。

ただ、今は施設で隔離されていて、表にも出られない状況とも伝える。


美鈴は[エル]の提案で、今どこに美鈴がいるのかIPアドレスを探ってもらう様に頼んだ。

職員のPCからプロバイダのサーバーにハッキングするのは危険だからだ。


新堂はチャットを返す。

GUEST:班長、場所が判ったら、すぐ迎えに行きますよ!


美鈴は施設から脱走するとき迄、絶対に迎えに来ないように伝えた。

最後に念押しで

HOST:シンと連絡を取り合ってたって事だけで、私の命が危ないから絶対に来るなよ!


新堂はかなり食い下がったが、脱走を手伝う約束で渋々納得してくれた。

気持ちは嬉しいが、バレると解体されてしまう事実も伝えたかったが、まず理解できない。


美鈴は話を変えた。

HOST:で、本題は、あの事件に関して聞きたいんだ。私が死んだ事になって、あれからどうなった


少し間をおいて

GUEST:班長が亡くなった三日目に、犯人が自首してきて解決になりました


wikiは事実か。

GUEST:出頭してきたのは、三笠組の構成員で飯沼ってチンピラです。まぁ間違いなく替え玉なんですが

GUEST:今は15年の実刑で堺の刑務所に入っています。今も生きてます。何回か面会にいったんで

GUEST:世間的には自殺ってなってましたが、フェイクニュースで皆騙されました

GUEST:そのニュースが出たと同時に、上から解決案件にすると命令が来て、捜査本部は解散になり

GUEST:有馬警部補は千葉の所轄に飛ばされました

HOST:桜庭さんは、何て?

GUEST:絶対に継続捜査はするなと

HOST:父親の神崎大臣からか?

GUEST:関与の疑いは晴れていません。でも真っ黒ですよ


神崎の親父は政界の大物だ、バケモノともいわれている。

民間出身でたった三年で議会入りを果たした謎の多い男だ。

有馬さんは私が殉職した責任をとってトバされたか。すみません。


HOST:で、シン。お願いがあるんだ

GUEST:捜査資料は全部揃ってます。あれから独自に調べてたんで。まかせてください

HOST:おお! 少しは仕事が出来るようになったな。ありがとう!

GUEST:やめてくださいよ班長

HOST:すぐに見たいんだけど、送ってもらっていいか


チャットが返ってこない。


GUEST:その……一ついいですか?

HOST:なんだ

GUEST:七年前ですが

HOST:うん

GUEST:俺たち

HOST:ん?


GUEST:付き合ってるんですよね

>ミスズ。体内温度2度上昇シマシタ


むぅ……。

HOST:その話は後だ。後でゆっくり聞いてやる


新堂は慌てたようにチャットを返す。

GUEST:了解です。で、どこにアップすればいいですか?


[エル]どうにかなる?

>施設ト契約シテイルZWSサービスヲ確認。DBヲ1器確保シマシタ

>踏台URLヘノアクセスヲ確認

>サービスヲ一部拝借シ匿名性ノ高い領域ヲ確保シマシタ

>コチラノURLカラ接続シテクダサイ


[エル]ありがとう。いい子いい子。

HOST:確保できたようだ。ではこのURLに送ってくれ


美鈴は[エル]の受け売りを、そのまま判ったように書いてみた。

GUEST:班長って、そんなにパソコンとか詳しかったでしたっけ。凄いっすね

HOST:まーな

凄いな、[エル]は。

>ハイ

そこは謙遜するところでしょ。


GUEST:では、一回確認して送ります

HOST:よろしく

GUEST:あとIPアドレスの件、直ぐに割り出して連絡します

HOST:ありがと、じゃ切るぞ


新堂はチャットを切るのが怖かった。

もしかしたら、もう会えないかもしれないと考えてしまう。

GUEST:あ、もう少しだけ

HOST:駄目だ、切るぞ

HOST:会えるのを楽しみにしておく


[エル]切って。

>ハイ。退出シマシタ。良カッタンデスカ?

うん、良いんだよ。


>サキホドカラ表情筋ニ緩ミガデテイマス。修正シマスカ? YES/NO

これは微笑んでいるんだよ。NOで。


美鈴は、胸がほんのり温まるのを感じた。

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