第18話 新堂

あの日、山本班、新堂幸太郎は泣きながら現場で、山本の身体を探していた。

「班長……。今俺が探して病院に届けますから」


他の捜査員の制止を振り切り、無我夢中で山本が発見された部屋を探していた。

部屋は空き部屋にも関わらずゴミが散乱し、山本が居た場所は血で畳が滲んでいた。

結局、切断された山本の手足は発見できず、新堂は呆然としていた。

その時、新堂の携帯が鳴り、病院の爆発を知ったのだ。


「う! うぁあ!」

午前二時、警務を終え自宅に帰り、布団に包まって寝ていた新堂は飛び起きた。

「ああ……」

また、あの現場の夢だ。

「山本班長、美鈴さん。成仏して下さい。ナンマイダブ、ナンマイダブ」

何も無い部屋には正装のスーツが窓に吊ってある。

先月の美鈴の七回忌に着てそのままだ。

目を閉じ、そのまま手を合わす。

時間を見ると夜中の三時だ。頭から布団に包まる。


『ブブブブブ』

携帯が震える。

バッと布団を跳ね除け、携帯を確認する。

ショートメールだ。

新堂は事件じゃない事で安堵し、携帯を開いてみた。


携帯の番号も書いていない。


ただ

≪シン。ワカルカ?≫

と表示されていた。


新堂は一気に眠気が覚めた!

『シン』って呼び方は美鈴以外は考えられないからだ。


「は、班長?」

新堂が混乱していると、もう一通届いた。


≪ワタシガワカッタラ、ココニアクセスシロ≫

URLが書いてある。


「ま……さか」


新堂は暫く、迷い、混乱しながら、URLをクリックした。




     ◇


>ミスズ、新堂サンニアプローチヲスルナラ、外部チャット掲示板ヲ使ッタホウガ、特定シニククナリマス


なるほど。

美鈴は[エル]の提案は良いと思った。

チャットサービスはビジネスでも使用頻度が高い。

いくつもグループを作れるし、会社側も管理できていない可能性が高い。

つまり、誰かになりすまし、チャットのグループを作るってことだ。

職員が使っているチャットサービスを調べると色々あった。


議論を交わしている部屋もあれば、エロい部屋とか、あーやだやだ男ってやつは。


>コノサービスダッタラ、外部カラアクセスシテモ、危険度5%程度デス。問題アリマセン

[エル]は職員の携帯にウイルスメールを送信し、携帯を乗っ取った。

そして、新堂の携帯にメールを送ったのだ。


美鈴は、何かウキウキしている自分に気付き、気を引き締めた。

私が生き返ったって言っても信じないし、そこが問題だ。


>ゲストガ入室シマシタ


HOST:よう、シン。久しぶりだな


チャットが返ってこない


HOST:私がわかるか?

GUEST:班長?

HOST:そうだ

GUEST:信じられない。既に亡くなっている

HOST:だから、死んだけど戻ってきたんだよ

GUEST:お前誰だ。悪い悪戯もいい加減にしろよ!

HOST:だから、美鈴だっていってるだろ

GUEST:班長は死んだんだ。お前誰だ?


美鈴は新堂の頑固さもしつこさは知っている。

HOST:あれから七年。お前は何も成長してないな

GUEST:なんだと

HOST:さっさと、状況を飲み込んで理解しろ! このデカブツ野郎が!


チャットが返ってこない


GUEST:シンとかデカブツ野郎って、班長以外に言われたことが無い事を、お前何故知っている

HOST:それは私だからだよ!

GUEST:どうだか


美鈴は頭を掻いた。

あーやっぱり難しいか。

七年前に死んでるしな。今更『はい復活しましたよ』って、言われても厳しいか。


HOST:じゃー何でも、私とお前しか知らない事に答えてやるよ。言ってみな

GUEST:そうだな


チャットが返ってこない。

>ミスズ、イライラシナイデ

してない!


HOST:じゃあ、私が教えてやろう

HOST:シン。お前、私に告白してきた事があったろ

HOST:赤羽の飲み屋で、コクッてきやがって。場所ってもんがあるだろ

GUEST:あれは――!

HOST:酔った勢いで告るとか大学生かお前は!


チャットが返ってこない。

GUEST:すいません。あれは自分に勇気を出させる為で

HOST:お前は酒が入らないと、何にも出来ないのか? おい

GUEST:マジ勘弁してください

HOST:ほかにもあるぞ。

HOST:バレンタインに板チョコあげたら、ぼけーっとして現場で証拠ふんずけて、ポカやらかしたり。

HOST:まだまだあるぞ!


今のは結構効いたらしい、直ぐにチャットが返ってきた。

GUEST:いや、信じます。マジですんません!

HOST:本当か

GUEST:はい

GUEST:でも、本当に班長なんスカ?


既に敬語になってる時点で少し心を開いてきたな。

HOST:本当だ

GUEST:一つだけ確認させて下さい

HOST:なんだ

GUEST:その……。班長があの事件で、亡くなる直前に俺に電話して来た時、なんて言ったか覚えてますか?

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