第7話 ReBorn

なんだろう温かい。

「……」

ん? 何?

「山本さん起きてください」

病院? 点滴が見える。

どうやらベットの上のようだ。

ガウンのようなものを着ている。


私は病院の個室にいた。

窓が見えるが、よく見たらチョークタッチの絵だった。

壁は白くて照明は柔らかい。


あれは夢か。

何故か泣きそうになった。

腕が重い。

ゆっくり持ち上げて自分の顔を触ってみた。


美鈴は驚いた。

ん? なんか感触が柔らかい。

スーツってもっと硬いイメージだったんだけど、柔らかいんだ。

ガウンの下は何も着用していない。

少しガウンを開けて自分の身体を見てみた。

なんと! なかなかのボリューム!

スーパークールビューティーともいわれたが、陰では貧乳無駄美人と言われたこの私が!

このバストは! おお!!


いや落ち着け、私。

後でゆっくり調べてみよう。

まずはどこだ? ここ? リハビリ施設か?


看護師らしき女性に問いかける。

「すみません。ここは病院ですか?」


看護師はにっこり微笑む。

「そうですよ。こちらは篠原グループの研究施設です」

美鈴は周りを見渡す。

「山本さんにはご説明済みと聞いていましたが、この施設でリハビリを受けていただきます」

「あ、先日お聞きしました」

看護師は頷く。

「この施設の中は山本様と社の者しかいませんので、何かお困りのことがあれば何でもお聞きください。

 念の為ですが、このProjectはグループの中でも最高機密となっていますので外部との接触は禁じられております。

 勝手に外出とか無理ですので絶対におやめくださいね」


美鈴はこの言葉に引っかかった。

外出って。リハビリしたら出られるんだろうな? 飼い殺しとかないよな。警視監も言ってたし不安だわ。


「外に勝手にでたらどうなります?」

「入口のセンサーが起動し、山本様は強制リセットモードになります」

「リセットですか?」

「強制的にスーツの電源を落とす事になります」

看護師は窓のイラストの前に立って手を広げる。

「また、万が一外部に出たとしても、ここは海に囲まれた施設ですので、どうにもなりません」


笑顔でそんな怖いことをサラッというか?

「大丈夫ですよ。しっかりリハビリスケジュールをこなせば、普段の生活には戻れますので」


言い換えれば、データ取るだけ取れたら帰っていいよって事よね。

今の所、逃げ出す理由もないし。

今は我慢して、この身体を使えるようにするか。

美鈴は自分に言い聞かせた。

「じゃ、頑張ってリハビリします! 早く警察に復帰したいので」

看護師は美鈴の手を握る。

「山本さん、一緒に頑張りましょう。それじゃ、先生呼びますね」


看護師が、ベッドの上のスイッチを押した。

ドアが開き、医者のような白衣を着た、中年男性が部屋に入ってきた。

「ご気分はいかがですか?」

美鈴は、気分はあまり良くないとか言い出すとめんどくさいと思い、

「特に大丈夫です」

「そうですか、それは良かった。では少しずつ身体を動かしてみましょうか」

手を伸ばしたり、足を延ばしたり、医者に言われる通り身体を動かしてみる。

次に医者の腕をつかんだり、ベッドに置かれたペンを指で摘まんでみたりする。

最後に足を曲げたり、延ばしたりするテストをした。


医者は感心した風に頷いている。

「しっかりとシンクロ出来てますね。これは素晴らしい。

 この調子だと、歩行訓練から始められますね。オートバランサー等の具合も見たいので」


美鈴は自分の全体像が見たかった。やはり女性だ。

「すみません。今の姿を見てみたいんですが、いいですか」

看護師は医者を見て確認する。医者が頷いた。許可が出たようだ。

「ちょっと待ってくださいね」

看護師は部屋の隅に置いてあった姿見を、美鈴の前に置いてくれた。

「いかがですか」

美鈴はじっと鏡を見つめる。

そこには、ベッドから足を下ろしている。確かに自分がいた。顔も前のままだ。というか少し幼い感じがする。

背筋を伸ばし、右や左に体をずらしてみる。確かに体形も前に近い。

よく見ると、背中に細いパイプらしきものが、接続されている。

まるで肉体の様だが、やはり機械の体なのかと美鈴は不思議な感覚になった。


「生前と同じ顔が復元できてよかったですね」

生前て、まぁ確かに。これなら本当の人間のように見える。

口元が緩む。

嬉しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る