第3話 お久しぶりです

男と女が大きなモニターを美鈴の前に運んできた。

パタパタと一人の女性が忙しく動き回り、モニターに画像を映す。

映し出されたものは、なにやら設計図の様に見える。

そのモニターの左に、さっきのいけ好かない男、右に女性が並んで、直ぐに笑顔を作った。


「はい、では御説明させて頂く前に、自己紹介からさせて頂きます」


さっきの男が一歩前に出て、頭を下げる。

「まず、私は篠原重工株式会社、AI開発Project OZ(オズ)新規事業部の渡辺と申します」

次に女性が一歩前にでて、同じように頭を下げた。

「で、ワタクシは篠原製薬株式会社、AI開発Project OZ、生体工学部の成瀬です」

釣られて、私も頭を下げたのだが、いつもと何か違和感がある。


美鈴はちょっと気になった。

そんなことより、篠原重工って確か。

んーなんだっけ。


>検索シマスカ? YES/NO


思い出せない。お願いします。


>篠原重工、検索シマシタ

>鉄道、船舶、航空機製造会社

>マタ軍事用ドローン・ロボット兵器産業モ展開

>近年デハ独自ノ宇宙産業プロジェクトニモ着手シテイマス


>篠原製薬、検索シマシタ

>民間用・医療用ノ製薬会社

>近年バイオテクノロジープロジェクトヲ展開

>特ニ介護・障害者向ケノ、パワーユニット販売ガ業界トップデス

>オソラク、軍事用パワーユニットノ技術ノ転用ダト思レマス

>PC細胞研究・ブレインマシンインターフェース(BMI)研究デハ、世界屈指ノ最先端ノ技術ヲ持ッテイマス


なんか、よくわからないけど、御説明ありがとう御座います。


自分達の紹介の前に、私の質問に答えてもらいたいと美鈴は思った。


「ご挨拶ありがとうございます。その前に先ほどからお聞きしたいことがあり宜しいでしょうか」


遮らせないぞ、今度は。まずは、このロボット声について、聞いてみようか。

「すみません、このロボットの声とか検索って何ですか?」


渡辺と成瀬は不思議そうな顔で此方を見る。

渡辺はまたPCを確認しにいった。


成瀬は私に近寄り、聞いてきた。

「ロボット? 『ケンサク』ですか?」


成瀬と渡辺は、少し顔が強張っている。

美鈴は顔をみて思う。

おかしいな。この二人には聞こえてないのか?

美鈴の勘が働く。

んー、いや、これは黙っていたほうが良さそうだ。何となくだが、聞かない方が良い気がした。

ごまかさねば。

「あ、飼ってた犬の、『ケンサク』ってどうしたかなーって。何でもないです。あはは」

美鈴は考える。

まさか、あの声は私にしか聞こえて無いのか?


美鈴は二人の様子を伺う。

渡辺と成瀬は、じっと美鈴の様子を伺っている。不味いと感じた。

この空気は、別の質問に変えたほうがいいな。

「オホン! では、質問ですが、なぜ警察関係者ではない人が、警視庁にいらっしゃるのでしょうか」


それは、と成瀬が答えかけた時、どこからか声がした。

「最後まで聞け、山本!」


美鈴はビクっとした。

む! この声は、桜庭警視監か?

左の視界から、ぬっと男が現れた。近く過ぎてボケている。


成瀬が慌てて声をかける。

「桜庭警視監、もう少し後に下がって頂けますか? 山本さんが見えないので」

「ああ、すまんすまん。こんな感じか?」

桜庭は、後に少し下がって、モニターの前に立った。正装をしている。


「久しぶりだな山本! 元気にしてたか。あ、死んでたなお前。わはは」


桜庭 十蔵さくらば じゅうぞう

警視庁の昼行燈、と言われているが、警察構造の改革派の一人だ。

噂では、政府とも繋がりが深い。


美鈴は桜庭を見ながらこう思う。

相変わらず、掴めない顔だ。

この人は苦手なんだよな。叩いても叩いても、全く効かないタイプ。

殴ってる側だけが疲れるんだよ。

殉職した父と同期だった。

家によく来ていたのを思い出す。

そこからはちょくちょく私の面倒を見てくれた恩義もあるが。

ん? ちょっと疲れているというか、少し老けたか?


「お久しぶりです。桜庭警視監もお変わりなく。お元気でしたか?」

桜庭は上機嫌だ。

「おお、元気だ! お前はちっさくなったな。わはは」

「あははは」

小さくなった?

美鈴はちょっと考えた。

そうか、私は死んだから、骨壺に入っているって事か。

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