第4話 Project OZ

成瀬が桜庭と私の間に入ってきた。

きっとこの人も、振り回されているんだろう。


「桜庭警視監、お席にお戻りくださいませ」

桜庭は失敬失敬と演技臭いポーズをとる。

「お、これは、すまんすまん」

桜庭は美鈴を指を差し、笑っている。

そして腕を組んで、モニターの前から移動した。


成瀬が話しを切って、話し出しはじめた。

「我々篠原グループは、警視庁様のご協力を頂き、前例の無い新しいプロジェクトを、推進させて頂いております」

成瀬と渡辺が、桜庭の方を向き、一礼。桜庭はそれに応える。

成瀬がこちらを向き、話を続ける。

「元々、我々の『マシンユニット事業』では、事故等で障害を持った方々が、健常者と同じように生活が出来るマシンユニットを、開発・販売をさせて頂いており、今や、様々な分野で商品化され、お客様にご利用頂いております。

 今回のプロジェクトでは、今までの技術の結集となる究極のユニットの開発でして、篠原の中でも極めて一部の社員にしか知らされておりません。

 山本様の様に、事故で死亡された方の、リボーン化を行う事が最大の目標としております。

 ――此方をご覧下さい」

成瀬が、モニターに資料を映し出した。『CONFIDENTIAL』と書いてある。

脳から腕、脚等の神経接続の説明図の様だ。

成瀬がモニターを指し、説明を続ける。

「この研究プロジェクトは、10年前からスタートし、我々篠原製薬・篠原重工との共同研究により、生体分野・ソフト・ハードの融合化が可能となりました」


ふむ


「ただ、問題も大きく生体パーツとハードの融合化には、未だ倫理的な問題を多く含んでおり、民間企業では被験者を入手する事が難しいのが現実で御座います。

 また、素材は何でも良いと言うわけでは無く、論理的思考を持ち、身体的にもバランスの取れた素材をベースとしなければ、標準的なデータが取れない問題も御座います。

 我々は、法規的な問題を解決するため、様々な方々にご相談差し上げたところ、警視庁様がお手を上げてくれた、という訳で御座います。先程もお伝えいたしましたが、超極秘プロジェクトのセキュリティ面から、一時的に警視庁様の地下に研究施設を設置する事になりました」


桜庭が口を開いた。

「我々警視庁にとって、有能な警察官が復帰してくれるなら、こんな願ったり叶ったりな事はないからな、喜べ山本!」


ざっと説明を聞いていた美鈴は整理した。

企業と警察の関係は、何となく理解できた。

お上は、殉職警官のスキルを、リサイクル出来るって事か。

篠原は、警察ルートから、被験者の素材確保と、この技術の実証実験データを取ることが出来る。って事だろう。

お互いwinwinってやつか。

確かに、警察官の育成には、金がかかる。警察学校では半年拘束。全寮制。

しかし、死んでも働けってか。警察官も人だぞ。人を何だと思ってるんだ。


美鈴は視線をモニターに移す。

桜庭はもっと話したがったが、成瀬が無理やり話を続ける。

「先程もお伝えいたしましたが、山本美鈴様、貴方は20**年**月**日****病院の大規模爆発に巻き込まれ、既に殉職されております。

 事件の直後、我々はあなたの遺体の一部を回収させて頂きました。

 山本様の頭部は比較的、損傷が少なく、素材としてクリア出来ましたので、脳内全ての記憶データを、我々の技術でそちらの脳へ、全て移行させて頂きました」


成瀬が指す方をみると、液体に浸かっている小さな脳があった。

この中に、私の記憶が入っているのか。記憶をデータみたいに、移動できるのか。

美鈴が桜庭に視線を移すと、笑っている。

これが小さくなったって意味か。


成瀬が説明を続ける

「そちらは、山本様のDNAを元に、PS細胞で作成した生体記録部『αブレイン』で御座います。

 『αブレイン』は、言うなれば山本様自身です。脳に付属しているそちらのユニットによって中間接続処理も出来る仕組みになっております」


まじまじと、自分の脳を見る。よく見ると、横に小さな機械が引っ付いている。

脳自体はテニスボールぐらいのサイズで色んなパイプが接続され、15センチぐらいの透明な容器に入っている。

小さなラベルに『AI-L-RM-TO-2』と書いてあった。

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