第2話 多分、私死んでるんですけど?

ここは、遺体安置所?

ああ、私だ。

美鈴が、自分を上から眺めている。


「幽体離脱?――ああ、そうか。私、死んだのか」


自分を眺めていると、目の前でパラパラとブロックノイズが走る。

フラッシュバック?

事件の記憶が、連続で再生される。


肢体を切断され、蠢く自分が見える。

「痛っっっっっっ」


重い痛みのようなものを、感じる。

そして、ふっと意識が途切れた……




     ◇


――――?

ずっと、何かの夢を見ていたような感覚だ。

頭が重い。


「聞こえますか?」

誰かが呼んでいる。

「山本さん」


どこからか女性の声がする。

美鈴は目を開けたが、真っ暗で何も見えない。

「山本美鈴さん」


美鈴は『ハイ』と返事をしたが、自分の声が聞こえない。


「あ、接続しますね」

声の主が男性に変わる。


>新シイ、ハードウェアヲ認識シマシタ

>SU-VOICE。音声波形機能ヲインストール――成功シマシタ

また、声の主がロボット風の声に代わる。


誰かが話しかけている。恐らく男性の声。

低音で、落ち着きがある声だ。

「何か、喋ってみて下さい」

喋れって? こういう時は困るんだよなー。急に振るなよ。

美鈴は一息ついて「あー」と言ってみた。

自分の声が聞こえる。

声が出た。良かったと思ったが、根本的な違和感に気付いた。

美鈴的には、最優先重要特記事項だ。


「あれ? 私、死んでるんですが。多分」


男性が、美鈴の問いかけに応えた。

「そうですね。あなたは死亡しました」


やっぱりそうなのか。そうだよね。ということは?

「じゃあ、ここは天国ですか?」


男の声は、思いがけない返答だった。

「いえ、ここは警視庁です。ちょっと、そのままお待ちください。音声再生及び言語認識確認」


美鈴は落胆と怒りがこみ上げる。


くー天国に行けなかったのか、私。

凄くショックだ。

悪い事は何も犯していなかったのに、おかしいだろ。

まさか冤罪!

これは、やり直し裁判だ。

警察官の私が言うのもおかしい話だが、地獄も警察もホント腐ってる。

そうだ!

確か閻魔ってやつがいる筈。地獄の警察長官に後で文句言ってやる。


美鈴は、もしかして。と、ある仮定を思いついた。

いや、待てよ。

警視庁って言ってたな。

確かに私は警官だから、おかしくないがおかしいでしょ。

は! もしかして、警視庁と言う名の地獄か?

地獄も犯罪人がゴロゴロいる場所だし、まさか! 私に罪を裁けと、鬼をやれというのか!


暫く考える。

女性の鬼っていたっけ? いや、もう少し話を聞いてみよう。


美鈴が混乱している中、男の声が、左から右へ移動する。

『カチッ』と、何かを接続したような音がした。

「では、このファイルを『見て』ください。見えますか」


>新シイ、ハードウェアヲ、認識シマシタ。GANON-EYE 0029。色覚・空間認識機能ヲ、インストール――成功シマシタ

さっきから、なんだ? またどこかで声がする。


真っ暗な世界が変わる。

目の前が、すーっと明るくなる。

眩しいと美鈴は感じた。

じーっと見ていると、ゆっくりと光と色が増え次第に形を作っていく。

ぼんやりだが、白い壁と机が見えてきた。


美鈴は周りを見てみる。

ここが警視庁? 見覚えがないんだけど。そか地獄だったか。


更にジワーっと、はっきり見えてきた。

壁は白く、窓は見当たらない。

机の上で、モニターが光っている。

その先には、大きなPCが何台か並んでいる。

白衣を着た50代男性が一人、30代女性が一人。

美鈴はじっと二人をみる。

おかしいな、聞いてた話と違うじゃん。

角も無いし赤くも青くもない。

でも女性の鬼はいるのか。


美鈴は地獄の風景を見ようとしていた。

どこだ、ここは。

病院っぽい作りだ。


男の鬼が書類を、美鈴の目の前に出してきた。

書類には死亡診断書とあり、自分の名前が記載されている。

だよね。そうだよね。

「ほら、やっぱり。私、死んでるんじゃないですか?」


男は美鈴に書類を見せた後、奥のモニターに移動し、美鈴の方を見て話し出す。

「それは、先程確認しましたよ。それより、映像が歪んだり暗かったりしていませんか?」


確認って、それはそうだが。映像って特にテレビもないし。

美鈴は、キョロキョロと視点を変えてみるが、いつも通りに見える。

いや、今見ている景色が映像って事かな。

そう言われれば、なんか端っこに視点を動かすと、歪んでいるような。


>画角調整機能ヲ、AUTOニ切り替エマスカ? YES/NO

まただ。

また何かが頭の中で喋っている。

何だか解らないがイエスにしておこう。

>モードヲ、AUTOヘ変更シマシタ


急にハッキリ見える様になった、湾曲していたのか。

凄く自然に見える。

「あ、ちゃんと見える様になりました」


私を見ていた男の表情が、少し和らいだ気がする。

「視覚機能OKですね。では、このカメラに切り替えます」

男が指を差した場所に小さなカメラが見える。


一瞬だが目の前にノイズが走り、その後明るくなった。

さっきより左側から見た。

別の角度の視界になっている。

まだ少しぼんやりしているが男が見える。

「見えてますか?」


さっきと同じ様に、ハッキリと見えるようになってきた。

男の顔までハッキリ見える。

「はい、見えます。ここは、どこですか?」


男がうんざりした声で答えた。

「先程もお答えしましたが警視庁です。貴女が勤務していた警視庁です」


美鈴は意味が解らなかった。

ちょっとまて、じゃここは地獄ではなくて現実なの?

でも、それでは道理が通らない。


美鈴の我慢がきれる。

どうも肝心な事に答えてもらっていないんだが。

この際ハッキリ聞いてやる。

「だから! 私は死んでいるのに、警視庁で貴方たちと――」


美鈴の言葉に、かぶせるように男が話す。

「今から説明しますので、ちょっとお待ち下さい」


このやり取りで美鈴はかなりイライラしていた。

っち、私は正当な理由を聞きたいだけだ。大体、私の質問にきちんと答えていない、あんたに問題があるんだろうが。

「では、私が納得できる説明を手短にお願いします」

ピシャリと言ってやった。


男はまたPCを見ながら、チラチラこっちを見ている。

なんなんだ、一体。

「まぁまぁ、山本さん怒らないで下さい。此方の段取りもありますので。申し訳ありません」

ん?

庁内でスーパークールビューティと言われた私の感情を読んだのか?

なかなか洞察力が鋭いとみた。褒めないけどな。


>感情制御ツールインストール中――成功シマシタ

さっきから、なんか五月蠅いな。

成功するのは良い事だけど、一体何?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る