GHOST GIRL.hack(ゴーストガールドットハック)

東郷 零士

第1章 Reborn

第1話 プロローグ

……

体中痺れている。

ここはどこだ。

キーンという耳鳴りが酷い。

「――」

何か声が聞こえる

「そろそろ、麻酔が切れてくる頃だよね。刑事さん」

「ん……」

だめだ。口が動かない。それどころか身体が動かない。

凄まじい激痛が襲う。




     ◇


冷たい土砂降りの中、闇を赤く染めながらサイレンが近づいてくる。


「急患来ました!」

慌ただしく動きまわる、医師と看護師


「!?」

患者の姿をみて動揺する医師達。


「先生、頼むから救ってくれ!」

患者の知り合いだと思われる男が、泣きながら叫ぶ。

ピーキーな音を鳴らしながら、病院内をベッドが走る。

「血圧80まで下がりました!」

「急患入る。すぐに輸血の準備を!」

「口部が、縫われているのか。いや。何かで接着されているようだ」

「エコーの結果出ました。内臓破裂の疑いもあります!」

「腹部も縫われている。すぐ開けるぞ!」


口を縫われた患者が、必死にもがく!

「山本さん! 聞こえますか。大丈夫、動かないでください。麻酔まだ!」

「18時45分腹部切術式始めます」

患者は更にもがき、まるで何かを訴えているようだった。


病院の駐車場で、傘を広げ二人の男が話をしていた。

「くそ! あんな目にあわせやがって!」

「あいつは最後の連絡で、新宿で人と会うって言ってたんだ」

「恐らく、カンザキの情報を仕入れたんだと思う」

「単独で突き止めたのか、どうかわからんが」


男が、怒りに満ちた声で唸る

「山本班のあの若いの、どこ行った?」

「まだ現場で、手と脚をさがしてるらしい」

「そういや、山本に懐いてたな。そうか……」


刑事の一人が、ライターをポケットから取り出し、煙草に火をつけようとした。

その時、凄まじい爆音と、熱風が雨の夜空を真っ赤に染め上げている。


炎に包まれる病院を前に、刑事達は怒りに満ちた、唸り声を上げた。

その声は、豪雨の中に吸い込まれていった。




     ◇


「今回の事件に関して報告します」


「警視庁捜査一課 山本美鈴(ヤマモトミスズ)警部 殉職 当時27才」

「20**年、10月4日、16時頃、新宿歌舞伎町1-15-** グランドハイツ 202号にて、

火災探知機が鳴ったため、大家 金作大輔(67)が様子を見に行ったところ、山本警部がテープを巻かれた状態で発見」

「山本警部は、****大学病院に緊急車両にて移送」

「なお、202は現在空室」

「部屋に出入りしていた目撃情報を、現在聞き込み中です」


「発見当時、山本警部の肢体は切断され、医術の知識があるものによって、処置をされたと推測されます」

「腹部には切開跡があり、縫合処置されていた模様」

「顔面は両目と口部を、瞬間接着剤で接着され、剥離できない状態でした」

「更に、リード線のようなもので縫合されていたようです」


「緊急手術時、手術室にて今回の爆発火災が発生」

「鑑識の結果はまだですが、恐らく縫合に使われていた、リード線の切断により、腹部に埋め込まれた

爆発物を、起爆したと思われます」


「この爆発が原因で、山本警部は致命的な損傷により、死亡」

「現場では、現在も遺体を捜索中ですが、一部しか発見できていません」


「また、手術室にいた医師2名、看護師合計8名死亡」

「爆発火災による重軽傷者は、医師、看護師、入院中の患者、合計22名」


「山本警部の腹部内に入っていた爆発物は、火災と建物の損壊状況を見て、極めて爆発力が大きいC4爆弾と思われます」

「また、爆発物は山本警部だけではなく、病院にいくつか仕掛けられていた可能性が高いです」

「これは、明らかに計画性があると思われます」

「犯人の特定は出来ていません」


捜査一課長 有馬はうつむきながら目の前の机を蹴り飛ばした。

顔は鬼のように赤い。おそらく憤怒の域を越している。

「これは、警視庁に対する挑戦状だ。このふざけたサイコクソ野郎を、すぐ捕まえろ!」

「いいか、山本の無念を、絶対にはらすんだ!」

捜査員は、仲間を殺された怒りを、応呼にこめた。

刑事たちが会議室から、次々と走り出していく。

その中の若い刑事が机を拳で殴りつけ、上着を握りしめながら部屋を後にした。


有馬は、その刑事の背中を、優しい目で見送った。

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