第4話

改札口を出て、二人は通学路を歩く。

「はぁ。反応が少なすぎる。」

「本当にSNSが好きね陽乃。」

「もっと反応が欲しい!」

陽乃はポケットからスマートフォンを取り出す。

「ちょっと陽乃、危ないから学校に着いてからにしなよ。」

「時間は待ってくれないのよ!」

「……ぶつかっても知らないわよ?」

「平気平気。」

スマートフォンを操作しながら歩く陽乃は、交差点から現れた人物とぶつかってしまう。

「きゃっ!」

陽乃とぶつかった相手は同時に地面に尻もちをつく。

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか……あ!」

「あ……お姉ちゃん。」

「月乃!?」

「姉妹そろって何やってるのよ……。」

あきれ顔のミコ。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ええ。月乃は?」

「平気。」

月乃が先に立ち上がり、陽乃に手を差し出す。

「あんたの力は借りないわ。」

「……またSNSの話の延長線上なわけ?」

あきれる月乃。それでも手は差し出したままだ。

「絶対嫌!」

「いいから早く手でもなんでもいいから借りて立ち上がりなさいよ。」

ここでミコが横から口を挟む。

「嫌よ!」

「ミコちゃん、もう置いて行っていいよ。お姉ちゃんはもうSNSしか頭にない人だから。」

「そうね。」

「ちょっとぉぉ!!」

「……ちやほやされたい症候群。」

「黙りなさいよ月乃。」

「陽乃はなんでそんなに万人にちやほやされたいのよ?」

「私も有名人になりたい。」

ここで陽乃はようやく月乃の手を取り立ち上がる。表情は暗い。

「私は、本当に月乃に負けたくない。姉として。」

「お姉ちゃん。」

「私は何の取り柄も無い。得意な事も無い。だからこそ、何か一つでもいいから自分の自慢できる事を目指したいの。」

「お姉ちゃん、取り柄が無い事と得意な事が無い事って同じ意味なんじゃ……。」

「……。」

「……ぷっ。」

ミコが我慢できず吹き出してしまう。

「ちょっとぉ!!揚げ足取らないでよ!今すごくシリアスなシーンでしょ!!」

「お姉ちゃんがシリアスとか無理だよ、あはは。」

月乃も笑う。

「もう!」

「でもお姉ちゃん。」

「ん?」

「何かに打ち込むお姉ちゃん、私、好きだよ。がんばれ。」

月乃は気恥ずかしいのか、返事を聞く前に一人先に学校へ向けて駆け出してしまった。

「……月乃。」

「行こう陽乃。遅刻するわよ?」

「うん。」

「陽乃。」

「何?」

「陽乃の情緒がよく分からないけど、私も応援するわ。」

「……ありがと。」

恥ずかしそうに顔を俯ける陽乃。

「あ。」

「どうしたの?」

「ミコもSNSやろうよ?」

「私はやらないわよ。そういうの苦手なのよ。」

「ミコって普段何のアプリやってるの?」

「……ひ、秘密よ。」

「なんでよ?教えてよ。」

「誰にも言わない?」

「うん。」

目を輝かせてミコを見つめる陽乃。

「はい。」

スマートフォンを取り出し、陽乃に見せる。

「え?」

写真投稿アプリ。陽乃が見て驚いたのは写真ではない。そのフォロワーの数である。

「え?え?1万2千人?」

「……恥ずかしいから内緒よ?」

「……うぅ。」

「ちょっと、何泣いてるの!?」

「私だけ取り柄が無いの辛い。」

陽乃は親友までも有名人である事を告げられ、ショックを隠せない。

「……が、がんばろう?」

ミコが申し訳なさそうに慰める。

「私もそのアプリ、やる!」

「……SNSで妹に勝つんでしょ?先にそれをやりなさいよ。陽乃はすぐそうやって方向性がブレるから駄目なのよ。」

「……はい。」

しょんぼりしながら素直に返事をする陽乃は、スマートフォンをポケットにしまい、学校へ向けて再び歩き始めた。

「もう。」

ミコも再び呆れた顔をしながら後を追った。

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ちやほやされたい姉と、超有名人の妹 ゆきづきせいな @yukiduki_seina

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