第3話

運よく二人は混雑している中、どうにか座席に座る事ができた。

「ふぅ。」

「若々しくないわね、陽乃。」

「うるさいわよ。」

陽乃はスマートフォンを取り出しSNSを開く。

「返信しなきゃ。」

「世界初のコメントだものね。」

「ちょっとぉ!」

「冗談だって。」

「ミコが言うと冗談に聞こえないの!」

「何て返事するの?」

「どうしよう。」

そう言ったものの、陽乃は既に返信の内容は考えてあった。口に出すのは恥ずかしいので黙ってこっそりと返事をするつもりなのである。

「私もちょっとニュースをチェックするね。」

ミコもスマートフォンを取り出し操作を始める。ミコはいつも陽乃がSNSをチェックする時はスマートフォンを操作するようにしていた。そういう気遣いの上手い子なのだ。

「さて。」

陽乃はアキラというアカウントに「返信」ボタンを押し文字を打ち始める。



『ありがとうございます!アキラさんも頑張ってください!』



陽乃は誤字がないか再度読み直す。

「ちょっと堅苦しいかな?」

最初に考えていた内容に土壇場で違和感を感じた陽乃は、再度頭を巡らす。

「……うーん。」

文字削除キーをタップし、すべて文字を消す。



『ありがとう!お互いがんばろう♡』



「彼氏かっての!!」

自分でノリツッコミをした陽乃は、このあとすぐ口に出していたことに気が付き周囲を見渡す。

「す、すいません。あはは。」

頭をかきながら謝る。

「何やってんのよ、恥ずかしい。」

ミコもあきれたような顔で陽乃を見る。

「いや、ちょっと返信を考えてたら自分でツッコミをいれてたわ。」

「そう。」

興味なさげにミコは自分のスマートフォンへと視線を戻す。



『ありがとう!頑張る!!』



「……対してさっきと変わらないわね。」



『がんばりまするぅぅぅ!』



「チャライわ。」


『アキラありがとっ!』


「馴れ馴れしいわね。」

「うるさいわね。黙って返信しなさいよ。」

「ミコ~!どうすればいいのぉ!!」

ミコに大袈裟に抱き付く陽乃に、再び周囲から視線が飛び交う。

「ちょっ!ちょっと!!離れてっ!」

ミコに強引に引き離される。

「うぅ。早く返信しなきゃ。」

「もう、黙って「ありがとうございます。あなたもがんばってください。」でいいじゃないの。何を悩むのよ?」

「ちょっと堅苦しいかなって。」

「そんな事ないって。最初はみんなそういうものでしょ?」

「そうかなぁ?」

「そうよ。ほら、早く打ちなさいよ。あと一駅で降りるんだから。」

「……うん。」



『ありがとうございます。アキラさんも頑張ってください。』



結局この文面で落ち着いた。陽乃は緊張しながら2、3度読み返し返信ボタンを押す。

「押しちゃった……。」

「よかったわね。」

興味なさそうに自分のスマートフォンを見ながら空返事に近い言い方をするミコ。

「はぁ。疲れたよ。」

「お疲れ様。」

「ちょっとぉ!心がこもってないわよ!」

「込めてないもの。」

「込めてよぉ!」

「はいはい。」

そんな他愛のないやり取りを繰り返し、電車は降車駅に到着したのだった。

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