第2話
早々に朝食を済ませ、二人は別々に家を出る。陽乃と月乃は学校は同じだが一緒に登校しない。家を出た瞬間に別行動をするのが暗黙のルールになっている。玄関でお互いに「気を付けてね」と声を掛け合うのが「いってらっしゃい」と同じ意味を成す。
陽乃は駅で同じクラスのミコと合流する。ミコは陽乃の親友で、毎日行動を共にしている。
「おはよう陽乃。」
「おはようミコ。ねえ、ちょっと聞いてよ。」
「SNSの話?」
「よく分かったね?」
「陽乃っていっつもSNSの話から朝ははじまるじゃない。フォロワーを増やしたいんだっけ?」
「うん。でも、今日はちょっと違うのよ!」
「珍しいわね。」
陽乃は朝の月乃のSNSのフォロワーといいねの話をする。
「……へぇ。」
「ちょっとお!興味なさそうに返事しないでよ!私には最重要な事なんだから!」
「またちやほやされたい病なわけね?」
「そういう言い方やめてよ。」
「妹ちゃんは高校生にして専属マネージャーが付くくらい有名なモデルさんなんでしょ?フォロワーがそのくらい居て当たり前じゃない。」
「そうなんだけど、私も月乃くらいフォロワーが欲しいの!みんなから注目されたいの!」
「だったら舘坂月乃の姉ですって書けばいいじゃない。顔もそっくりなんだし。」
「月乃と同じ事言わないでよ。それだと月乃の力で増えたことになるから負けなのよ。」
「陽乃って本当に面倒くさいわね。」
「ミコまで同じ事言わないでよ!宣言した以上は絶対月乃を超えたいの!」
「何か取り柄あったっけ?」
「……。」
陽乃は取り柄が無いごく平凡な女子校生。それは自他共に思っている事であって、ミコも陽乃の取り柄を垣間見ることはできない。
「つらい……。」
「陽乃もモデルやったら?」
「私は人前だと超あがり症なのはミコだってよく知ってるでしょ!?」
「そうだけど……これを機に克服するとか?」
「無理!」
駅の構内を歩く二人。途中、何もないところで陽乃はつまずいて転んでしまう。
「痛ったぁ。」
「よく何もないところで転べるわね?羨ましいわ。」
「ちょっとぉ!バカにしたでしょ今!」
「褒めたのよ。」
「私でもさすがに褒めてないって分かるわよ!もう!」
怒る陽乃にミコは手を差し伸べる。
「ミコの助けはいらないわ。」
すました顔で断る。
「可愛くないわね。」
「これで超イケメンな男の子に手を差し伸べられてたらひっぱる勢いで手を出すわ。」
「はいはい。」
二人は皮肉を言い合うものの本心ではない。お互いじゃれ合っているといった感じだ。そのくらい二人は仲が良い。その証拠に陽乃はミコの手を取り立ち上がる。
「ちやほやされたい。」
「あのね、助けて貰ったらありがとうでしょ?陽乃って年中それしか頭にないでしょ?」
「悪い?私は有名人になりたいのよ。」
「でも、SNSで知らない人には気を付けなさいよ?今ニュースにもなっているけど、女の子に優しく接してくる男の子に実際会ったら悪戯されたっていう件もあるから。」
「安心して。投稿しても誰からも反応が無いから。」
「……うん、そうだろうとは思ってた。」
「ちょっとぉ!!!」
陽乃は拗ねた顔でミコを睨み付ける。
「とにかく気を付けなさいよ。陽乃だって結構可愛い顔してるんだから。」
「へーい。」
「電車も来たし、早く行きましょ。」
二人は急ぎ足でホームへ向かう。
「あれ?」
陽乃のスマートフォンから通知のバイブレーションが作動する。
「どうしたの?」
「SNSの通知。」
陽乃は通知画面を開き内容を確認する。
「朝に投稿したやつに返事が来てる。」
「何て来てるの?」
『おはようございます。ヒナさんも一日がんばって!』
ヒナとは陽乃のSNSでのアカウント名。本名は基本的に使わないのが常識なので名前の頭だけ使っている。
返事をくれたアカウントを確認すると、それは男の子。同じ高校生のようだ。アカウント名はアキラとあった。
「男の子からだ。」
「本当に気を付けなさいよ?」
心配そうに再度注意するミコ。
「大丈夫だって!ここから私の進撃が始まるのよ!」
「……何と戦ってるのよ?」
呆れた顔をするミコに陽乃はドヤ顔で返す。
「妹よ!」
「……。」
「ちょっとぉ!!黙らないでよ!!」
「はいはい。がんばんなさいね。」
とりあえず電車がホームへ来たのでスマートフォンをかばんにしまう。
「急ごう、ミコ。」
「うん。」
二人は通勤通学で混み合うホームで、慣れた足取りでいつもの車列へと並ぶ。
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