ちやほやされたい姉と、超有名人の妹
ゆきづきせいな
第1話
双子の姉妹、姉の
「ふぁ。」
寝ぼけ眼で布団の中で軽く伸びをする。陽乃には起きてすぐの習慣があった。
「はぁ。今日も増えてない。」
それは「SNSメッセージサービス」というスマートフォンアプリで100文字程度の短い文章を投稿するサービスだ。
「とりあえず投稿しよう。」
陽乃は「おはよう。今日も頑張ろう。」と投稿し、スマートフォンの電源ボタンを押し待機状態に戻した。
「月乃、朝だよ。」
それからいつもの日課になってしまった妹を起こす作業に入る。
「……ん。あと五分。」
「ダメよ。遅刻しちゃうよ?」
月乃を軽く揺さぶる。その時、枕元に置いてある月乃のスマートフォンの画面が不意に待機から通知画面へと切り替わる。
「え?」
通知の件数を見て驚愕する陽乃。
「99+!?」
アプリケーションの通知限界である99件を余裕で超えていたのだ。陽乃はこっそりとアプリを起動する。スマートフォンの暗証番号は知っている。そう、時々こうやって妹のスマートフォンを覗く常習犯なのである。
「そ、そんな……。」
それは「おやすみ。」と投稿しただけの何でもない一言。このアプリには「いいね」という投稿を気に入りましたという意思表示機能があるが、その数なんと6万件。つまり、月乃の投稿は少なくとも6万人の人に見られていたことになる。
「お姉ちゃん、また勝手にスマホ見ないでよ。」
陽乃のオーバーリアクションにようやく目を覚ます月乃。
「月乃は……どうしてこんなに有名人になっちゃったの!?」
「え~?それは半年前に街でスカウトされてモデルさんになったってちゃんと説明したじゃん。」
「そ、そうだけどさ!何で半年でフォロワーが11万7千人なの!?おかしいでしょ!?」
「おかしくないよ。だって、実際にいるんだし。」
「悔しい……私もちやほやされたいの!」
「またお姉ちゃんのちやほやされたい病~?もう、勘弁してよ。」
「月乃はモデルだし可愛いし、私なんて何も取り柄がないのよ!?」
「お姉ちゃんだって双子だけあって顔もほとんど私と変わらないじゃん。」
「胸は私のほうが大きいわ。」
陽乃はドヤ顔をしながら胸を張る。
「……やめてよ、それ気にしてるんだから。」
月乃が自分の胸を触りながら辛そうな顔をする。
「胸を分けてあげるから、フォロワーを私に分けてよ。」
「何言ってるのよもう。そんなにフォロワーが欲しいなら、
「それはだめよ!」
「なんでよ?」
「それは月乃の力でフォロワーを手に入れたことになるじゃない!!」
「さっき分けてって言ったじゃん。」
「そ、そうだけど!なんか負けた気がして嫌なの!」
「面倒くさいなぁ。」
「月乃、私も半年で絶対あなたのフォロワー数を超えてみせるわ!」
「何か策でもあるの?」
「……。」
そのまま固まる陽乃。そんな陽乃を無視して月乃は布団から起きあがり、着替えの準備をする。
「ちょっと!」
「お姉ちゃん、遅刻するよ?」
「私が起こしてあげたんじゃない!」
陽乃も月乃の隣へ立ち、着替えを始める。この部屋に全身を見れる鏡は一つしかない。故に二人はいつも交互に鏡の前に立つのだ。
「お姉ちゃん今日もばっちりだね!」
「月乃も可愛いわよ。」
「ふふっ。」
お互い笑顔を交わす。喧嘩をしても、最終的にはこういう微笑ましい結末で終わる。
「でも、私も何か取り柄を見つけて絶対月乃のフォロワー数を超えて見せるわ!」
「はいはい。がんばってね、お姉ちゃん。」
何かに打ち込む姉の姿が好きな月乃は、優しい笑顔で陽乃の決意を見守る。
「二人とも!遅刻するわよ!早くリビングに来なさい!」
母親の声と同時に、姉妹は仲良く支度を済ませ、リビングへと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます