第228話 電光石火

「ケイタ殿こっちです。そこを曲がればジャガ男爵の館になります」

「了解ー。まぁ、どうせ、また出迎えがあるんだろうね」


 敬太率いるパーレドの一行は、トウヤ士爵の案内に従い、マシュハドの街中を堂々ど練り歩き、ようやくジャガ男爵の館に辿り着こうとしていた。


 15mある100体合体ゴーレムのままだと街中を破壊してしまう事が分かったので、それらを7mぐらいの20体合体ゴーレムにまで小さくしてもらったのだが、それでも街中での威圧には十分だったようで、ここまで誰かに止められるような事は無く進んでこれていた。


「ケイタ、儂らも手伝おうか?」

「いいよドカ、ガツンと一発かましてやった方が相手の心を折りやすいだろ?だから、俺が打って出るよ」


 プラチナランクPTのドワーフ担当のドカは「空間魔法」について造詣が深かったので、道中、話し合う機会が多く、それなりの仲となっており、未だにPTへの勧誘も続いていた。


 敬太は勧誘がある度にキッチリと断っているので、ドカの方も本気度は下がっていて、最早挨拶の様になりつつある感じなのだが、ランクが高い連中からの勧誘は自分が褒められている様にも感じるので、案外悪くない気分であった。




「止まれーーー!!」


 敬太達がジャガ男爵の館に続く通りへと入ると、沢山の兵士が道を塞ぐようにして立ち塞がっていた。


 100人以上はいるだろうか。


 彼らは揃いの鉄の鎧を着こみ、それぞれが槍を手にし、道幅一杯に広がって待ち構え、準備万端といった所だった。


 門番の時にも思ったが、明らかに敬太達の方が人数も多いし、戦闘力も高いと思うのだが、何故か兵士達は頑張って立ち塞がってくる。


 勇敢なのか、責任感が強いのか、それとも想像力が乏しいのか。


 敬太ならば一目散に逃げ出している様な場面なのだが、頭が下がる思いだった。


「ゴーさん解除。いいよー、そのまま止まらないで進んで!【探索】!」


 しかし、それも力が伴わなければ意味が無い。


「【クイック】」


 敬太はゴーさんの鎧を脱ぎ去ると、後ろに続くパレードに止まらない様に指示を出し、【探索】で兵士達の位置をしっかりと確認した後【クイック】を使った。


 ゆっくりと時が進む世界へと入って行く。

 辺りが薄暗くなり、全てが青みがかった世界。

 空気が体に纏わりつき、水の中に居るかの様な抵抗を感じる。


 目の前に立ち塞がる兵士達は、止まっているかのようにゆっくりとしか動かず、その中で敬太だけが普通に動いて行く。


「【亜空間庫】」


 兵士達を【亜空間庫】の範囲内に収めると、狙いを付けて持ち物全てを奪っていった。


 ちなみにこの技も改良されており、ゴールドランクPTに使った時の様に一つ一つの持ち物を奪うのではなく、【亜空間庫】のルールである「命あるものはしまえない」という決まり事を逆手に取った方法を使っていた。

 それは、わざと、「人」そのものに狙いを付けて、口の中の小骨を取る様な感じで【亜空間庫】から「人」だけを吐き出してしまう方法だ。こうすると「人」以外の持ち物を一括でしまってしまう事が出来るのだ。


 これを使うと大幅な時間短縮が出来、こういった人が多い時には大いに役に立ってくれる。


 時間が再び動き出すと、そこのは一糸纏わぬ姿の兵士達が間抜け顔で突っ立っているのだった。


「ゴーさん、捕えちゃって!」


 兵士達が何が起きたか分からず狼狽えている内に、20体合体ゴーレムを何体か溶かし、拘束具の鎧として兵士達に纏わせていった。


 一連の動きは【クイック】を使っていた為、正に電光石火と言った所だろう。


 敬太達400名のパレード一行は、兵士達に足を止める事無く、道を進んで行ったのだった。



 それから少し歩き、ジャガ男爵の館に辿り着くと、そこは思いの外静かで、閑静な住宅街を思わせる様な雰囲気が漂っていた。


「トウヤ士爵。ここで合ってるの?」

「はい。間違いないくここがジャガ男爵の館です」

「そうか、それじゃここなら多少壊してしまっても問題ないね?」

「ええ・・・まぁ、多少なら仕方が無いと思いますが・・・」


 よし、言質は取った。



 ジャガ男爵に近い位置に居たトウヤ士爵。


 敬太はマシュハドの街までの道中、暇だったのもありトウヤ士爵から色々と話を聞かされていた。


 彼は、自分の子供である長女をジャガ男爵の側室として嫁がせたのだが、子供を授かる事も無く、数年の後に死んでしまったのだそうだ。持病も無く、特に体が弱っているという事も無かったので、その死を不審に感じたトウヤ士爵はジャガ男爵に疑いの目を向けて、そこから調べが始まったのだそうだ。


 黒い噂の絶えないジャガ男爵を調べ始めると、あれこれと不正の証拠が見つかり、お金を貯め込み、数々の女を葬っているのがすぐに分かった。しかし、それらではジャガ男爵を追い詰めるには弱く、決定的な悪事を見つけようと更に調べ続けていると、一人の一般人を陥れようと画策しているのを発見したのだった。

 その一般人というのが敬太の事になるのだが、おかげでマシュハドの街に初めて行った時、街の近くで襲われたシルバーランクPTの事もジャガ男爵絡みと分かり、それからゴールドランクPTと今回と。計3回の襲撃全てがジャガ男爵の指示によるものだという事が分かったのだった。


 全ての元凶であり、黒幕であったジャガ男爵。

 これまでに受けた様々な嫌がらせの恨み、晴らさせてもらうとするか。

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