第229話 ジャガ男爵の館

「よーし、それじゃゴーさん。屋根外しちゃって!」

「え?」


 ジャガ男爵の館の前に陣取る敬太達一行は、その敷地の中に20体合体ゴーレムを10体程侵入させ、館の解体から始めた。


「ちょ、ちょっとケイタ殿!?」

「大丈夫、大丈夫。中の人には怪我させない様にするから」


 20体合体ゴーレムの大きさは7m程あり、2階建ての館に手を伸ばせば届く大きさなので、仕返しを兼ねた破壊行動から始める事にした。


 本来ならば、来訪を告げ、面会を求めるといった手順が正しいのだろうが、今回は戦いなのだ。一応、【探索】で館の中の人の動きを見ているが、ミシミシ、バキバキといった大きな音を立てながら屋根を力ずくで取り外していった。


「いいよー、それはこっちに頂戴」

「あああ・・・」


 一際大きな破壊音が鳴る響くと、無事に屋根を取り外す事が出来たようで、敬太はそれを【亜空間庫】にしまうべくゴーレム達に指示を出す。


「館がつぶれるぞー!逃げろー!」

「助けてくれー!」

「はい、確保して確保ー!」


 あまりの音の大きさにビックリしたのか、玄関と思しき所から武器を持たない館の使用人らしき人達が飛び出してきたので、すぐに取り押さえた。


「この中にジャガ男爵はいる?」

「違います!私らは使用人です」

「私は料理人です!」

「ケイタ殿、この中にはおりませんよ・・・」


 敬太はジャガ男爵の顔を知らないのでトウヤ士爵に確認したのだが、なんだかちょと呆れられている感じがした。


「じゃあ、トウヤ士爵探してきてよ」

「そうですね・・・」

「あ、でも殺しちゃダメだよ。従士のスイートも付けるし、後・・・」

「ケイタ!儂らの出番だろ!」

「あ!いい所に来たね。それじゃドカ達にも付いてってもらおうか」


 館の中から兵士が飛び出して来なかった事から、これ以上の手駒が居ないのだろうと考え、ジャガ男爵の顔を知っているトウヤ士爵に館の中に入って捕獲して来てもらう事にした。プラチナランクPTの5人も行ってくれるようだし、安全面は問題ないだろう。


「それじゃ、壁も壊しておくから、そっちはよろしくね」

「・・・はぁ、分かりましたよ」

「わはは、貴族の館をこうも豪快に壊すとは、ケイタは面白いな!」


 こうして、少し順番がおかしくなったが、ジャガ男爵の捕獲に向けて動き出したのだった。




「おい!放せ!俺を誰だと思ってるんだ!ジャガ男爵だぞ!」

「うるさい奴だな、さっさっと歩かんか!」


 敬太が2階の壁を壊し終わり、2階の床の部分に手を付け始めた頃、ようやく捕らえたのか、煩わしい声が玄関の方から聞こえて来た。


「誰だお前らは!いい加減に・・・ぶふえぇ!」


 連れて来られたジャガ男爵が敬太の前に押し出されると、勢いが強かったのか、一人で転び地面に這い蹲っていた。


「き、貴しゃま!」

「あー、ちょっとうるさいなお前。静かにしてくれ」

「なっ!だ、誰に向かって――」

「ああ、そういうのいいから黙ってくれ。次に騒いだら生爪を剥ぐからな」


 地面に膝をつきながらも喚き散らす太った醜い男に、敬太は冷たく対応する。


「何て言い草だ!お前なんてすぐに――」


 しかし、状況が分かってないのか、抵抗しているのか。

 ジャガ男爵がまた騒ぎ始めたので、宣言通り右手の爪を全て【亜空間庫】にしまい、そのままジャガ男爵の口の中に出して、そのうるさい口を塞いでやった。


「ひぃ・・・エボォーーー!!」


 ジャガ男爵は爪を剥がれた右手の痛みと、口の中に現れた異物に気が付いた様で、盛大に口から自分の爪を吐き出していた。


「次に騒いだら、自分の目玉の味を味わわせてやるからな?」

「ひぃぐぅ・・・」


 痛みと自分が口から吐き出した爪を見て、ようやく状況が分かって来たのか、今度はジャガ男爵も黙っていた。


「よし、それじゃあ聞くが、お前がジャガ男爵で間違いないな?」

「・・・」

「答えなくてもいいけど、そうすると今度は自分のキンタマが口の中に入る事になるぞ?」

「お、俺がジャガ男爵だ・・・」


 ジャガ男爵は爪が無くなってしまった右手を抑えながら震える声で答えた。


「そうか。それじゃあ、俺が誰だか分かるか?」

「・・・分からない」

「そうだ、そうやって分からなくても答える事は良い事だ。いいか、俺はお前達が『ゴーレム使い』と呼んでいた者だ」

「・・・あぁ」


 ここら辺でジャガ男爵も「どうしてこんな目に遭っているのか」という事が分かって来たようで、見る見る顔色が悪くなってきていた。


「俺はお前のせいで大分迷惑したんだぞ。分かってるのか?」

「・・・す、すまないと思っている」

「はぁ~、まったく。何度も何度もちょっかい出しやがって。いいか!二度と俺に手を出すなよ!分かったか!」

「わ、分かった!すまなかった、許してくれ!」


 ジャガ男爵に先程までの威勢は既に無く、頭を垂れ、完全に心が折れていた。


「まぁ、いいや。俺からは以上だ」

「は、はい!すいませんでした!」

「正し、次に何かあったら問答無用で殺すからな」


 敬太はジャガ男爵を許し、敬太の話はこれで終わりとなった。


 これはトウヤ士爵から話を聞いた時から考えていた事だし、敬太の手打ちとして納得出来る範囲の事だ。


 ここからは、地元民に任せるのが一番良く収まるだろう。


「後はトウヤ士爵にジャガ男爵の処遇は一任する」

「なっ!」

「はい!ありがとうございます、ケイタ殿」


 右手の爪を全て剥がされた事で終わったかと思っていたジャガ男爵は大いに狼狽え、任されたトウヤ士爵は嬉しそうな声で返事をしていた。

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