第227話 パレード

 道中、捕虜達のまとめ役になっていたトウヤ士爵とも話をしたのだが、彼は今回の黒幕であるジャガ男爵に個人的な恨みがあるらしく、どうしても討ち取って欲しいと懇願されてしまっていた。

 

 敬太は「売られた喧嘩を買う」程度の認識で攻め込んで来ているので、別にどうでもいい話だったのだが、色々と策を提案したりしてくるので途中から面倒臭くなり、他の人の迷惑にならなければ好きにしていいと突き放し勝手にさせていた。


 すると、村々に先に帰す予定だった農民兵を威圧の為のハリボテの兵としてジャガ男爵の館まで同行させる事になっており、今も街に攻めて来ているはずなのに何故かマシュハドの街の門番と平和に押し問答をしていて、そんな様子を眺める事になっていた。


「だからダメですってトウトウ門番頭!」

「そこを何とか通してもらえませんか!」

「そうしたら私らのクビが飛んでしまうじゃないですか!」

「大丈夫ですって、そうはならない様にしますから!」


 マシュハドの街の壁は、石を野面積みにされた5m程の高さがある壁なのだが、15m程ある100体合体ゴーレムにかかれば簡単に崩せる程度のものなので、敬太としてはさっさと突破してしまいたいのだが、捕虜の中に居たトウトウ門番頭という人物が前に出て来て、かれこれ15~20分ぐらいになるだろうか、未だに話し合いをしているのだ。


「なぁ、これ何時まで続けるんだ?」

「ケイタ殿、もう少し待って下さい。今トウトウ門番頭が説得してますので」

「説得ねぇ・・・」


 隣に立っているトウヤ士爵に話しかけるが、返ってくる答えは待ての一手。


 地元民には地元民の考えがあり、後々の事とかも考えているのだろうけど、俺のとは違うんだよなぁ。


『あーあーあー』

「ケイタ殿!」


 焦れてしまった敬太が【亜空間庫】からメガホン型拡声器を取り出すと、トウヤ士爵が声を上げるが知ったこっちゃない。


『えー、そこの門番達に告ぐ。今から1分以内に門を開けてそこを離れて下さい。離れない場合は敵とみなし、殺します』

「なっ、ふざけるな!」

「そんな事言われて通すわけないだろ!」

「みんな、今すぐ離れて!逆らっちゃダメです!」

『はーい、トウトウって人は下がってくださいね。残り30秒ですよ』


 敬太が実際に残虐非道な行いをする所を見て来ていたトウトウ門番頭は、部下達、いや元部下になるのか分からないが、その彼らを必死の形相で止めていた。


『はい、10・・・9・・・8・・・』

「マジかよ!」

「逃げろ!」


 カウントダウンと共に【亜空間庫】から100体合体ゴーレムをどんどんと出して行くと、トウトウ門番頭のマジ顔も効果があったのか、応援を呼び20~30人程集まっていた門番達がクモの子を散らす様に逃げていく。


『3・・・2・・・1・・・0っと、はい通りますよ。邪魔しないで下さいね』


 結局、最後まで門が開く事は無かったが、門の前に立ち塞がっていた門番達がいなくなっただけでも良しとしよう。


 100体合体ゴーレムがゆっくりと歩き始め、足で門を蹴とばすと、5mはある頑丈そうな門がおもちゃの様に壊れ、吹き飛んでいった。


『よーし、進むぞー!』


 門が破壊され、押し寄せるゴーレムの群れは、誰にも止める事が出来なかった。




 マシュハドの街に南門から入り、街の大通りを進んで行くと、すぐに冒険者ギルドがあり、何事かと中から冒険者達が顔を出して来たのだが、ゴーレム軍団によるその異様なパレードに口を開けたり、顔を青くしたり、後ずさりをするだけで、皆一様に動けなくなってしまっていた。


 先頭には100体合体ゴーレムが4体、列の後方に3体、合わせて7体。そして、それに挟まれる形で400体からなるゴーレム軍団がいるパレード。


 100体合体ゴーレムの15mという大きさは5階建てに相当するので、高くても3階建て程度しかないマシュハドの街の中に入るとその異常な大きさが良く目立った。何せ100体合体ゴーレムより高い建物が無いので、阻むものなく、ゴーレムの頭が建物の間から飛び抜け、街の全てを蹂躙出来てしまいそうな雰囲気があるのだ。


 400体のゴーレム軍団の、その中身は捕虜達な訳なのだが、街の中に入る際に頭の部分まで覆う様に変形させ、よりゴーレムらしく見せかける事によって威圧感を高めていた。


「ケイタ殿!ケイタ殿!」


 マシュハドの街に居合わせた誰も彼もが、道の端で怯え、驚き、興奮した様子だったので、気持ちよく街中をパレードしていると、トウヤ士爵が慌てた様子で敬太に話しかけて来た。


「どうかした?」

「ちょと、あの大きなゴーレムはどうにかなりませんか?彼らが歩いた後の地面が滅茶苦茶なんですけど・・・」


 そう言われて、前を歩く100体合体ゴーレムの足元を見ると、確かに石畳が割れていたり、地面が足型に陥没していたりと、元の綺麗な石畳を破壊して歩いていた。


 敬太は、マシュハドの街がどうなろうと別に構わないと思っていたので「またトウヤ士爵が何か考えてるな」ぐらいにしか思わなかったのだが、そこでサミー率いるゴールドランクPTによって破壊されてしまった崖の門やダンジョンの中の罠の事を思い出した。


 自分で丹精込めて作った物を無残に破壊されてしまった時の虚無感。

 あれは、他人に味合わせていいものではないだろう。


 敬太はすぐにゴーさんにお願いし、100体合体ゴーレムを20体合体にまで小さくしてもらった。

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