第224話 リーダー候補

『あーあーあー。ちょっと聞いてくれ、あっ、いいよ列から動かなくていいから、そのまま並びながら聞いてくれ!』


 鉄の壁沿いに簡易シャワーを設置し、トウヤ士爵にシャンプーやボディソープの使い方なんかを教え、一組目のシャワーが済んだ所で、拡声器を使い列を成している捕虜達に声をかけた。


『初めに言っておくが、これは強制ではなく、自主的な希望者を募りたいだけだ。これを拒否したからといって罰は無いし、お前達が家に帰れるのは変わらない。その上で、聞いてくれ』


 敬太には考えがあったので、話に少し前置きをした。


『えー、少し辺りを掃除したいと思っているのだが、手伝ってくれるって人はいるか?目に付くゴミを拾ってくれるだけでいい』


 ここで何故、敬太がいきなりゴミ拾いしてくれる人を募っているかという疑問には、少し説明が必要になるだろう。



 捕虜達のマジックバッグと食料問題が片付き、彼らは自前の持って来ていた食料で何日か過ごしてもらっていたのだが、捕虜達は、捕まってしまった事により、予定より伸びてしまった行程を考え、一日分の食料の分量を減らして凌いでいた。


 敬太がその事に気が付いたのは2日目の夜で、「あんまり食べないな」と思いインカ士爵に話しかけたのがきっかけだった。


「なんかみんな、あんまりご飯食べないね」

「あっ、いえ、これは・・・」

「ん?訳ありな感じ?」

「・・・実は、我々はそこまで食料を持って来ておらず、帰り道の9日分しかなかったのです。しかし、ここに何日間拘束される事になるのか、今の所予想が付かないので、やむなく一日の量を減らしているのです」


 捕虜達が持って来ていた食料は、敬太から見るとあまりにも酷く、パンは見るからに固そうで石ころのようだし、干し肉も木片を齧っているのかと思う程マズそうなものを口にしているのに、それに加え量が少ないというのは、敬太の同情を寄せるには十分な効果があった。


 敬太的には【クイック】を覚えてからはダンジョン探索は順調で、お金にも余裕が出来ていたので、あまりにも酷い捕虜達の食事を見てしまうと、襲われた事なんかは忘れてしまい、改善してあげようと考えたのだった。


 しかし、ここで問題が浮き彫りになる。

 敬太達の食事は改札部屋のデリバリーで済ませているのだが、抱えられるぐらいの大きさの白い箱がテーブルに付いていて、そこから1人前ずつ出てくる感じなので400人という大人数では処理が追い付かず、ネットショップの方は生鮮食品が扱われていなかったのだ。


 何か適当に見繕って渡すだけと考えていたので、少し当てが外れてしまったのだ。


 仕方が無いので、ネットショップで売っているシチューなどのレトルト食品を大量に買い、大きな寸胴で温めて渡すという事にしたのだが、これがゴミが散乱している原因となってしまったのだ。


 手渡す時に「食べ終わったゴミは持ってくるように」と言いつけていたのだが、そこら辺にウンコを垂れ流す様な連中には無駄だったようで、レトルト食品の容器が悲しいぐらいあちこちに落ちているのだった。



『掃除をやっても良いと思う者は、列を抜けこちらに進み出て来てくれ!』

 

 敬太が拡声器で声をあげると、少ないながらも数人が動き出してくれた。

 人数的には11人。どれも見た事が無い顔だ。


「悪いな、こんな事をやらせちゃって。よろしく頼むな」


 敬太は特に説明をする事もなく、人数分のゴミ袋を押し付けるようにして渡した。

 それに対し、集まってくれた捕虜達はちょっとの間顔を見合わせていたが、結局何も言わずにゴミ袋を受け取ると、自然と散開していった。


 敬太はそんな彼らの後姿をしばらくの間ジッと見つめていた。



「ケイタ様、こちらの布地はどうしたらいいですか?」


 そんな敬太の姿を見て手が空いていると思ったのだろう、シャワー係となっていたトウヤ士爵が話しかけて来た。


「『様』付けはやめてくれトウヤ士爵。くすぐったくてやりづらいよ」

「そうですか、ではケイタ殿でよろしいですか?」

「まぁ・・・いいか。それで、そのバスタオルがどうしたの?」

「はい、こちらの布地が大量に置いてあったのですが、どうすれば良かったんでしょうか?」


 トウヤ士爵にはシャンプーやボディソープの使い方は教えたが、バスタオルの扱い方も教えなければいけなかったようだ。


「それは体を拭くものだよ。体を拭いたら捨ててもいいし、持って帰ってもいいし、好きにしてくれて構わないよ」

「こ、このような高価そうな布地をですか?」


 10枚2,980円の安売りバスタオル。


 何となくあった方が良いかなって思って置いただけで、それを回収して洗濯してまで使い回そうとは思えない程度のものだ。多分、使った物を突っ返されても捨ててしまうと思う。


「うん、それは沢山あるから遠慮しなくていいよ。それより、ちゃんとコーヒー牛乳かフルーツ牛乳を選ばせて飲ませた?」

「ええ、そちらも皆、喜んでおりました。ありがとうございます」

「ははは、お風呂の後は喉が渇くからね」


 簡易シャワーの方を見ると、初めてダンジョンに来たモーブ達の様に、中々泡が立たず、洗うのに苦戦している人が多くいて、なんだか懐かしい気持ちになった。

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