第223話 仮設トイレ

 勢い任せに戦い、大勢の人間を捕虜とした敬太だったが、実際にやってから気が付く事とは多いもので、マジックバッグと食料問題から始まり、捕虜達の帰る先問題、黒幕のジャガ男爵問題と沢山の問題が浮上してきてしまい、それらをどうにかする為の準備に時間がかかり、あっと言う間に3日が経過してしまっていた。


 だが、そのおかげで捕虜達をマシュハドの街の近くに点在する村々の中でも大きいニイ村、ハチ村、ヨン村に送り届け、その後、希望者達だけでジャガ男爵を討ち取るという所まで話は進んでおり、そろそろダンジョンから旅立ってもいい頃合いになっていた4日目の朝。


 敬太はいつも通り鉄の壁の外へとやって来ると、一瞬だけ地面を見つめ、決意を固めたような顔をすると、捕虜全員に話をする為にメガホン型拡声器を手に取った。


 馴染みになりつつある「ピューイピューイ」といった電子音を鳴らし、拡声器に向かって言葉を発する。


『あーあーあー。集合ー!、集合ー!。速やかに集まってくれー!』


 前日の夕方にも拡声器を使って話をしていたので、捕虜達はまた何か話があるのだろうとゾロゾロと集まって来ていた。


 あまり遠くへ行かないでくれと言っていたのもあるし、もし遠くに行かれても【同期】スキルが切れるようになっているし、なんなら中の人間を無視してがわのゴーレムが歩き出せば、中の人間を強制的に歩かせる事が出来るので、集合にはそれ程時間がかからず、足で地面をいじって待っていると、いつの間にか捕虜達が全員集まって来ていた。


『えー、お前達に話があったので朝から集まってもらった。何の話か分かるか?』


 敬太はそこで一旦話を切り、誰が誰だか分からないという苦情を受けたので顔の部分は覆わない事にした、揃いの「のっぺら坊」の鎧達を見渡す。(顔の部分が無いのに「のっぺら坊」とは?となると思うが、ツルツルとした表面で装飾も一切ない鎧なので表現的には合っていると思う。)


 しかし、見渡した捕虜達は一様に何の話か分からないらしく、頭に「?」マークが浮かんでいる様な顔をして呆けているので、敬太はガツンと言ってやる事にした。


『お前ら!臭いんだよ!あちこちで適当にウンコしやがって!』


 そう。鉄の壁の外は臭かったのだ。


 捕虜達は四六時中、拘束具としてゴーレムの鎧を纏う事になっているので、排泄の時は下半身の部分が開く様にしておいたのだが、それが仇となったのか、400人以上の人間が所構わずブリブリ、チョロチョロと垂れ流すのだ。


 1日~2日では気にならなかったが、3日目の昨日から少し匂いだし、今日などは、鉄の壁の外に一歩出た途端、踏んづけてしまったのだ。


 いくら異世界と文化が違うとはいえ、これだけは許せなかった。


『いいか!これからトイレはあの箱の中でする事!これは絶対だ!』


 敬太は鉄の壁沿いに出しておいた10個の仮設トイレを指差しながら叫んだ。


『使い方はトウヤ士爵にでも教えておくからちゃんと言う事を聞く様に。今後、その辺で垂れてるのを見つけたら、罰として生爪剥ぐからな!分かったか!』

「「「はい!」」」


 独りでエキサイトしている敬太の姿を見て、空気を読み、何を言ってるか分からないけれど返事だけはするといった処世術を身に付けている捕虜達が、大きな声で返事をする。


『それから、お前ら、揃いも揃って整髪料で髪型を整えてると思ったら、それ頭の脂じゃねーか!今日、出発するつもりだったが、それじゃ臭くて敵わん!水は用意するから、しっかりと洗い落とせ!』

「「「はい!」」」

『今日は「お風呂の日」に変更だ!』


 これも匂い関係として気になっていたのだ。

 折角なのでどちらも解決してしまおう。


 400名という大人数だったので、飲み水はあるが生活用水までは準備出来ておらず、捕虜達は少なくとも3日間は体も洗っていない状態なので、それなりに体は汚れ、匂ってしまっていた。


 本当は村々に送り届ける道中に使おうかと、昨日からゴーレム達に手伝ってもらい改札部屋の風呂場とキッチンの水道から、生活用水として、白いポリタンク2,000個に水を貯めて行ってもらっていたのだが、それらを使い400名からの体を綺麗にしてやろう。



「ゴーさん、壁沿いにあのトイレみたいな箱を作ってもらえる?」


 早速敬太はゴーさんに指示を出し、鉄の壁沿いに急造のシャワー室みたいなものを作ってもらう。


 足元には簀の子を置き、水の入った白いポリタンクからはポータブルシャワーを伸ばす。

 このポータブルシャワーというのは、キャンプやマリンスポーツによく使われるもので、ポンプが付いたシャワーの事だ。吊り下げるタイプや空気圧で水を出すタイプもあるが、ソーラーパネルとバッテリーを覚えた敬太は強気の電動ポンプタイプにした。これがあればどこでもシャワーが浴びられるのだ。


「サミー、女はそっちを使わせて、ついでに面倒を見てやってくれ」

「あー、分かったっす」


 捕虜の中には2人だけ女がいたので、その世話を暇そうにしていたサミーにまかせる。


 わざわざ王都という所から出張って来た強い冒険者らしいのだが、流石に男と女は分けておいた方がいいだろう。


「よーし!お前らはこっちに並べ!全員綺麗にするんだぞ!」

「「「はい!」」」


 こうして、400人という大人数の集団シャワーが始まった。

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