第225話 リーダー候補2

 それから3~4時間後。


 敬太は一度ダンジョンの中へと戻り、モンスターの殲滅作業や細々としたものなどの買い出しをしてから地上へ戻ると、簡易シャワーの前に出来ていた列は残り少しとなっており、空になった白いポリタンクが大量に積み上げられていた。


 敬太は白いポリタンクを【亜空間庫】にしまいながら、簡易シャワーの周りを適当に片付け、そういえばと思い出す。


 頼んでいたゴミ拾いの方はどうなったのだろうか。


 周りに目を向けると、落ちていたゴミはすっかりなくなっていて、満杯になっているゴミ袋が一か所に纏められていた。どうやらしっかりとやってくれたらしい。


『おーーーい!もういいよ、戻ってきて!』


 遠くの方を見ると未だにゴミを探している人達がいたので、すぐに拡声器を取り出して声を上げた。


 敬太的にはちょっと頼んだつもりだったのだが、切り上げ時が難しかったのだろうか。小学校の先生に「掃除に終わりは無い」と言われた事を思い出した。


「いや、悪かったね。どうも命令とか頼み事には慣れてないものでさ・・・いや、違うか、ありがとうが先だな。ゴミ拾いありがとう、助かったよ」

「いや・・・」

「そんな・・・」


 敬太が心の内を吐露しながら戻って来た一団に声をかけると、袋が足らなかったのか、両手にレトルト食品のゴミを抱えながら、力ない返事をしてきた。


「ゴミはここに入れてくれ。それと、この作業に参加してくれた心意気には応えるから期待していてくれ。まぁ、その前にシャワーかな。そろそろ全員終えている頃だろうし、さっぱりした所でまた話をしよう」


 急な話に付いて行けないのか、敬太が【亜空間庫】から取り出した新しいゴミ袋に拾ってきたゴミを入れながらも彼らは訝しげな顔をしていた。


「ゴーさん、彼らの鎧のデザインをいじりたいんだけどいいかな?自主的に動いてくれた彼らは特別扱いしなきゃいけないだろ?」


 それは、少し芝居がかった言い方で、敬太に親しい人が見たら「何をやってんだ」と突っ込みたくなってしまっただろう。


 急に拡声器を使ったのもあり、シャワーを浴び終え思い思いの場所で寛いでいた捕虜達が、敬太達の事を注目をしていたのが分かっていたので、わざと大袈裟にやったのだ。


 【通信】スキルで敬太のイメージを読み取ったゴーさんが、すぐに彼らの「のっぺら坊」の鎧の肩の部分をイジり、右側だけ肩パットがあるような感じにしてくれた。これならば、全員が揃いの「のっぺら坊」の鎧の中でも目立つだろう。


 突然、鎧のデザインが変わってしまった11人は驚き、嬉しそうにしているのが半分と、微妙な顔をしているのが半分と言った所だろうか。遠巻きに見ている連中も「何だあれ」といった感じだ。まぁ、そんなもんだろう。


 しかし、ゴミ拾いをしていたメンバーがシャワーを終えた所で、お礼としてワクドナルドのハンバーガーセットとアップルパイが入った袋を渡し、それが「おやつ」だと分かると物凄い笑顔で喜ばれた。


「また、何かあったら手伝ってくれ」

「「「はい!」」」


 この時の11人の返事には気持がこもっており、周りで見ていた捕虜達も羨ましそうに見ていた。


 400名という大人数を纏め、敬太の手伝いをしてくれるような人を集める為に行った「餌付け」だが、シンプルが故に、その効果も高かったようだ。




 夕方になり、夜ご飯の準備の時間になると、新しい戦力を得た敬太は、ゴミを散らかさせないようにレトルト食品を容器のまま配る事をやめ、米を炊いてみる事にした。


 マシュハドの街でさえ馬のフンが道端に落ちているような世界なのだ。

 そんな異世界人に「ゴミを捨てるな」といっても、その意味が分からないのだろう。

 それでもゴミを捨てさせたくなければ、ゴミが出るようなものを与えなければいいだけだ。


 早速、先程ゴミ拾いをしてくれた11人を再び召喚し、423人分である423合の米を炊く準備にはいった。


 ちなみに、1合150gで計算にすると、10kgのお米で約66合となるので、大体70kgのお米を炊く事になる。


 8升(80合)炊きの羽釜とかまどを7つずつ用意し、それぞれに10kgのお米を入れて火を起こした。これは、厳密に計算すると462合になってしまうが、残った場合は【亜空間庫】にしまってしまえばいいので問題は無い。


 お米を炊く際に「始めちょろちょろ、なかぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな」という言葉があるが、火加減なんてそこまで気にする事は無い。普通にかまどで火を焚いて、適量の薪を燃やすだけでいい。まぁ、その適量の薪の量というのが慣れないと難しいのかもしれないが、その辺は敬太が面倒を見ればいいだろう。


 後はお米が炊けるまでに、大きな寸胴にレトルトカレーを470個程、封を切り流し込んでおく。


 そうして温めて、お皿に盛りつけてやればゴミが散らかる事ないだろう。


「お前ら並べー!」


 お米が炊きあがる頃には、辺りにはいい匂いが漂い、沢山の捕虜達が近づき、見学に来ていたのでキチンと並ばせる。


 外で食べるカレーは美味いのだ。

 心して食べるがいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る