第220話 決戦4

 今まで使う事が出来なかった【クイック】という時間魔法を使った敬太の頭の中に、「9・・・8・・・7・・・」と、数字がカウントダウンされていっていた。


 相手が陣形を整えようと固まっていてくれたのが幸いし、ここまでに32人を切る事が出来ていたが、そろそろ魔法の時間が切れる時が迫って来ていた。


 最後にもう1人だけ切り裂き、3秒を残した所で敬太は立ち止まり、【亜空間庫】からハイマジックポーションを2本取り出して一気にグイっと煽った所で時間切れとなった。


 その瞬間、再び世界が動き出した。


 辺りからはベチョともドサッとも聞こえる水分が多い物が地面に落ちた音と、武器などの金属が地面に落ちた音が折り重なり、何とも言えない音が多数聞こえてきた。


 消費MPが200と、とんでもない消費量なのだが、1秒を60秒に伸ばす事が出来る【クイック】は、それに見合った効果をもたらしてくれただろう。



 しかし、これで終わりではない。


「【探索】―【蜻蛉の目】―【亜空間庫】」


 敵陣深く切り込んで来ていた敬太は、複数のスキルを一気に使い、辺りの残党を片付けに掛かった。


 これは、モーブ達と決めていた事で、しっかりと追っ手達を殺し、後腐れを残さないようにすれば、その分、子供達も安全になるという考えからだ。


 【探索】でゴーレムの攻撃から逃れた者の位置、倒れているが息のある者の位置を割り出し、新しく取っていた【蜻蛉の目】というスキルで視野を広げ、複数の物に狙いを付ける。そして、最後に【亜空間庫】でその者達の目玉と脳みそを【亜空間庫】にしまってしまう。


 これも本当は脳みそを取るだけで人を殺すという事ならば十分なのだが、残虐性を分かりやすく見せつける為に、わざわざ余計な目玉も取っている。


 これにより、辺りに立っていた14人が声も上げずに崩れ落ち、地面に転がっていた7人も静かにその息を止めた。


 そうして、毛色の違う一団。ポテトウ傭兵団150名は全滅したのだった。


「ゴーさん、セット!」


 敬太はその場で再びゴーさんの鎧を纏い、ゆっくりと歩き出すと、乗って来ていた100体合体ゴーレムの元へと戻って行った。




「やい!今のは何だ!?どうやって倒したんだ!?」

「分からないですね・・・」

「ちょっとあれはヤバそうだねー」


 ゴーレム使いの捕獲という依頼を受けていたプラチナランクPTの面々だが、先程の敬太の動きを見て、その難易度の高さに頭を抱えていた。


「一瞬、消えたようにも見えたが、あれは移動系のスキルか?」

「ポリフにも見えなかったのですか・・・ポカリは見えましたか?」

「ううん。私にも見えなかったねー」


 PTリーダーであるネルは一番目が良い斥候役のポリフと、一番戦闘力が高い大戦士のポカリに聞いてみたのだが、ゴーレム使いが使ったであろうスキルの糸口さえ見えずにいた。



 プラチナランクPT「暗黒の微笑」が、依頼を受ける際に聞いていた話では、体長が5m程のハイゴーレムという情報だったのだが、実施に来てみると見た事が無い15m近い超大型のゴーレムが10体も現れたので、もらっていた情報が信用出来なくなってしまっていた。その為、戦場で小競り合いが始まっても「けん」に徹していたのだが、それが幸いし、ゴーレム使いの攻撃を受ける事が無かったのだ。


「どうしますか?ネル。私は依頼を破棄しても構わないと考えていますよ」

「いや、待てよ修道女シスター。プラチナランクの俺らがこのまま尻尾を丸めて逃げるって言うのか?」

「まぁまぁ、ポリフ。勇敢さと無謀さを履き違えてはダメですよ。今は具体的な対策を立てなければならない時です」


 副リーダーである元修道女のリコが依頼破棄を提案してきたのだが、それにポリフが噛みつき、リーダーのネルが宥める。

 PTのブレーキ役とアクセル役の意見がぶつかってしまうのはいつもの事なので構わないのだが、今はすぐにでも結論を出して動き出さねばならない状況下にあるので、これ以上の討論は勘弁して欲しい所だ。


「ドカは何か分かりましたか?」


 そこで、普段口数が多くなく、決まった事には素直に従う性質である大剣使いのドカにも意見を求めてみた。


「ネル、儂は絶対に反対だ。何があってもゴーレム使いに手を出してはならねぇ!」


 すると、予想外にドカが荒々しい語気で反対をしてきた。


「あれは『空間魔法』を使いやがったんだ。儂らには防げる類のものじゃねぇ」

「ドカ、そんなにヤベえのか?」


 ドカが反対意見を述べるという異常事態にPTメンバーもすぐに気が付き、自然とドカの話に耳を傾ける姿勢になっていた。


「ポリフ、悪い事はいわねぇ。今回は儂に従ってくれ。空間魔法には空間魔法持ちがいなければ防ぐ手立てがねぇんだ。PTメンバーがむざむざと死ぬような所は見たくねぇ」

「ドカ。ゴーレム使いとは、そこまで戦闘能力に差があるという事なんですね?私達では絶対に敵わない、そういった解釈でいいんですね?」

「そうだ・・・あれは無理だ」

「分かりました。今回はゴーレム使いに降伏するとしましょう。皆いいですね?」


 ドカのただならぬ雰囲気からリーダーのネルがPTの方針を決定すると、メンバー全員が頷き、従う事を了解した。


 この判断が吉と出るのか凶と出るのか。

 それは、ここにいる誰にも分らなかった。

 


 それから、しばらくすると再び聞き慣れない「キュイー」といった電子音が辺りに響いていた。


『あーあーあー。えー、最終通告です。あなた達には二つの選択肢がありますが、私に敵対したくない、または戦いたくないと思っている人は、速やかに武器を放棄し両手を上に挙げて下さい。一時、拘束させてもらう事になりますが、必ず無事な姿で家へと送り届ける事を約束します」


 敬太がメガホン型拡声器を手に取り、再び投降を促していた。


 既に陣形も無く、100体合体ゴーレムに囲まれているだけの捕獲隊は、先程のように野次や騒ぎは起こさず静かなまま、敬太の言葉を受け入れていた。


 陣の隅の方では大きく手を挙げている「風の団」がおり、その側には不承不承といった面持ちで手を挙げている「暗黒の微笑」のメンバーの姿があった。

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