第219話 決戦3
100体合体ゴーレム達の大暴れによって、戦場は大きく混乱してしまっていた。
逃げ出そうとする兵士達に押され、指揮系統が機能しなくなると、隊列は乱れ、ゴーレム達が暴れている陣形の右側が空白地帯となり始めた。
そこに動く者が見えなくなってきたゴーレム達は前進をし、包囲網を狭めようと動き出す。
このまま100体合体ゴーレム達だけで兵士達を抑え込むことが出来そうな雰囲気が出始めていたが、世の中そう甘くはないもので、数の力が抑え込まれると見えてくる別の力が姿を現していた。
「【斬鉄刃】!」
「【業火】」
それは個の力だった。
ポテトウ傭兵団の団長であるアンデスが大剣を振るいながらスキルを使うと、100体合体ゴーレムの脛の部分が切断され、地面に転がされてしまい、副団長であるビンチェが魔法を唱えると、大きな100体合体ゴーレムが炎に包まれ、その動きを止められてしまっていた。
「お前ら、飲み込まれるな!あんなのは単なるでくの坊だ!恐れる事はねぇ!」
「「「おおお!」」」
「俺とビンチェで道は作ってやる!遅れずに付いてきやがれ!」
「「「おおおーーー!」」」
100体合体ゴーレムを倒す事に成功したポテトウ傭兵団はにわかに息を吹き返し、団長のアンデスと副団長のビンチェを中心にゴーレム達の猛攻を凌ぎ切った、生き残りの精鋭達を再び集め、陣を構え直そうとしていた。
その時、敬太は未だに腕を組んだまま戦場を見ており、その動きに気を張っているだけだった。
兵士達を襲わせた100体合体ゴーレム5体の内2体が動けなくなっており、もう1体動きが怪しくなっているのがいるので、計3体やられてしまった事になるのだが、それらは想定内の出来事だったからだ。
最悪な展開としては、一瞬で100体合体ゴーレム達が全滅させられてしまう事だったのだが、そこまで相手は強くなかったらしい。
内心では冷や冷やした気持ちで戦闘の様子を見ていたのだが、これならば次の段階へと進む事が出来るだろう。
「ゴーさん、解除!」
敬太は組んでいた腕を静かに解き、身に纏っていたゴーさんの鎧を自ら外してしまった。その中は、戦闘に備えた装備などはしておらず、普段着のシャツにズボンだけだ。
明らかに戦場に似つかわしくない格好なのだが、そのまま、ゆっくりと歩を進め、【亜空間庫】からミスリルソードを取り出すと、前に立ち塞がっていてくれた100体合体ゴーレムの脇を抜け、走り出した。
戦場は未だに混乱の中にあり、100体合体ゴーレムから逃げようとする者、それを押し留めようとする者、そして、ゴーレム達に立ち向かおうとする者。それらがごちゃ混ぜになっており、戦場が動き出すまでは、まだ幾許かの時間があるだろう。
ならば、今のうちだ。
今のうちに力を見せつけ戦場を支配しなければならない。
「おい!誰か近づいて来るぞ!」
「近づくな!止まれ!」
敬太が少しまごついていたポテトウ傭兵団の側まで走ってくると、それに気が付いた団員が声を上げた。
しかし、敬太はそれに構う事無く走り続け、グングンとその距離を詰めていく。
「構わん、撃てー!」
40~50人と大分規模が小さくなってしまった傭兵団だが、それでも遠距離攻撃が出来る人は残っていたらしく、問答無用の号令と共に敬太に向かって遠距離攻撃を放って来た。
だが、それらは敬太に通用するはずもなく、一瞬で【亜空間庫】にしまわれ、マジックのように目の前から消え去ってしまう。
「ゴーレム使いか!?」
それを見ていた団長のアンデスが声を上げ、前に出て来た。
しかし、敬太は何も答えず走り続ける。
「面白れぇ、相手になってやる。かかって来やがれ!」
敬太がミスリルソードを手にしているのに気が付いたのか、嬉しそうな顔をして大剣を構えだし、生き残った精鋭の団員達もそれぞれの武器を構えだしていた。
「【クイック】」
そこで敬太は、ある魔法を使った。
この魔法は、ATMで魔法を取得出来るようになった時に「ボーナス」としてもらっていたもので、ずっと使い方が分からなかったものなのだが、最大MPが200を超えた時に初めて使えるようになった魔法だった。
何故使う事が出来なかったのかと言うと、消費MPが200と馬鹿のように消費するものだったからだ。そして、それに見合った効果がある魔法でもあった。
敬太が呪文を唱えると、頭の中に「60秒」と時間が表示され、カウントダウンが始まる。
すると、辺りが薄暗くなり、少し青みがかった世界が目に映った。
体の周りには空気が纏わりつくのが分かり、それはプールの中で動いている様な感じに近いだろうか。
目の前にいる大剣を構えた人間は、動きが止まったかのように動きが遅くなっており、世界がスローモーションになっていた。その為、敬太から相手に近づいて行かなければならないのだが、摩擦力の働きが悪くなっているのか、足元がズルズルと滑りやすくなっており、踏ん張り気を付けないと、上手い事前にも進めない。
そんな世界の中で、ミスリルソードを振り回すと、やはり水の中のように抵抗を受けるが、その切断力は大きく上がっているらしく、大剣を構えた相手を粘土のような手応えで真っ二つにしてしまう事が出来た。それは、体だけでなく装備していた皮の鎧ごとであり、それどころか構えていた大剣ごと叩き切ってしまえる程だった。
敬太ならば相手の装備品を【亜空間庫】にしまってから攻撃という事も出来るのだが、今回は力を見せつける為のデモンストレーションになるので、あえて鎧ごと、大剣ごと叩き切って見せている。
切られた相手は、胸の辺りを横一閃にしたので輪切りにされている状態なのだが、未だに明後日の方向を見ており、切り離されている体も少し宙に浮いたまま、まだ地面には落ちてはいない。
体の切れ目からは、ゆっくりと血飛沫が上がり始めているが、まだ敬太の所にまでは届いて来ていないので、これならば、普通に歩き去れば避ける事が出来るだろう。
「悪いな。子供達の為だ」
敬太は震えそうになる手を握りしめ、ズルズルと滑ってしまう足元を気にしながら、次の標的へと向かって行った。
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