第218話 決戦2
巨大ゴーレムに囲まれ、兵士達が緊迫し緊張している場に、突如としてガガガッ、ピヒョー、キュィーといった聞き慣れないノイズ音が辺りに響き渡った。
『あーあーあー。テス、テス・・・』
音の発生源を見ると、そこには巨大ゴーレムの頭の上に乗り、ラッパの様な物を手にしていて、ぴっちりとしたスマートなプレートアーマーのような鎧を纏っている人物がいた。
『えー皆さん、ご静粛に。私が件のゴーレム使いです』
メガホン型拡声器を使い600人の群衆に向けて言葉を届けている敬太だった。
「お前かー!」
「頼む!殺さないでくれ!」
「助けてくれー!」
敬太が名乗った事により、途端に辺りは騒がしくなってしまったが、敬太はそれに慌てる事無く手元の拡声器をいじりサイレンボタンを押した。
すると「ピューイピューイ」といった異世界には無いであろう電子音が爆音で鳴らされる。
「「「うぐわー」」」
敬太から近い位置にいる人々は耳を抑え、それ以外の者達も「何事か」と警戒し、一瞬にして話し声が止まった。
それらを見た敬太はひとり頷くと、飄々として話を続け出した。
『えー、皆さんには二つの選択肢があります。それは捕虜になるか死ぬかです』
敬太が一言話すと、またしてもヤジが飛んで来てしまう。
「ふざけるなー!」
「なんだ!偉そうに!」
それを聞いた敬太は、再び拡声器のサイレンを鳴らし、強引に静かにさせた。
『次、うるさくしたら殺しますからね。これは冗談ではなく本気ですよ』
今度は静かなままだった。
敬太は拡声器で話を続ける。
『えー、私に敵対したくない、または戦いたくないと思っている人は、速やかに武器を放棄し両手を上に挙げて下さい。一時、拘束させてもらう事になりますが、必ず無事な姿で家へと帰します』
「ほ、本当かー!」
「俺は戦わないから助けてくれ!」
「罠かもしれんぞ!」
この騒ぎには何も言わない。
皆で相談して決めたいという思いはあるだろう。
敬太は静かに騒ぎが収まるのを待つ事にした。
「俺達は屈しないぞ!」
そんな時、捕獲隊の右端に布陣していた毛色が違う一団から大きな声が聞こえて来た。彼らは先程サミーが教えてくれたポテトウ傭兵団という奴等だろうか。
「こんな所で躓く訳には行かないんだ!いくらナリがでかかろうと、俺達ならやれるはずだ!」
一団のリーダーらしき男が、声を張り上げ兵士達を煽っている。
しかし、こうやって騒ぎ出し、強硬策に出て来る事など想定済みだ。
敬太は焦る事無く注意を与える。
『えー、歯向かってくる場合は「死」あるのみです。絶対に許さないので、そのつもりでいて下さい』
「うるせー!行くぞお前ら、俺について来い!」
「「「おおおーーー!」」」
それでも、右端の毛色の違う一群は動き出してしまった。
「ビンチェ、後衛に付いて援護射撃を頼む!」
「了解、団長」
「前衛組は突撃だー!あの鎧野郎を引きずり下ろしてやれ!」
「アンデス団長に続けー!」
膠着していた場に動きが生まれ、100人越えの毛色の違う一団が動き出すと、釣られて動き出しそうな一団があり、加勢しようとする一団が目に入った。その他にも迷っている一団、見守る一団と、にわかに戦いの場全体が動き出しそうな勢いがあった。
敬太は10体の100体合体ゴーレムという未知の脅威で兵士達を縛っていたのだが、実際に600人からの兵士に攻められてしまうと、スキルや魔法がある異世界では、どうなるか分からない。
なので、この勢いを止める為にも、敬太は想定通り全力を出す事にした。
圧倒的なチカラを見せつけ、動きを止めてやるのだ。
「ゴーさん、俺を下に降ろしてから攻撃を始めてくれ!」
15mという高さがある100体合体ゴーレムの頭の上にいる敬太に向かって、既に、矢や色々な属性の魔法が飛んで来ているので、それらを【亜空間庫】にしまいながら、100体合体ゴーレムの手に乗って地上へと降りて行く。
敬太は、矢などの飛び道具類はおろか魔法さえも【亜空間庫】にしまう事が出来てしまうので、これぐらいの遠距離攻撃ならば簡単に無効化出来るのだった。
「怯むなー!撃て撃て!」
何故か一瞬にして消えてしまった矢や魔法に気を取られ、遠距離攻撃の手が止まりかけたのだが、ポテトウ傭兵団のビンチェ副団長の大きな声によって、後衛組の遠距離攻撃が再び開始された。
そんな中、敬太が地面に降り立つと、既にポテトウ傭兵団の前衛組がすぐ側まで詰め寄って来ていたので、予定通り、まずは100体合体ゴーレムのチカラを味わってもらう事にする。
「ゴーさん、よろしく!」
兵士達を逃がすまいと陣の右側に立ち塞がっていた100体合体ゴーレム3体と、陣の後ろにいる100体合体ゴーレム3体のうち1体。あとは敬太を降ろした前方の100体合体ゴーレム1体の、計5体の100体合体ゴーレムが、敬太の指示によって一斉に動き出す。
ドスン、ドスンと地響きを立てながら兵士達に向かって行き、群がる蟻を相手にするように兵士達を踏み潰したり、砂場のお山を壊すかのように短い腕を地面に叩きつけ兵士達を吹き飛ばしたり、駄々っ子の様に地面を転がり兵士達を圧し潰し始めた。
表現的には可愛い動きなのだが、これが3階建ての一軒家ぐらいの大きさがあり、ジャンボジェット機2機分の重さがあるゴーレムがやるとなると、その破壊力は凄まじかった。
ゴーレム達の巨大な腕や足が振り下ろされる度にドスンといった低い地響きがし、地面が爆ぜて土や石や肉片が辺りに飛び散り、後にはクレーターの様な穴が残る。
地面を転がるゴーレムの後には、漫画のように薄く潰れた人間が、泡の様なドロっとした血で溜まりを作っていた。
辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、兵士達の体の各部位や原型の無い肉片があちこちに飛び散り、地面は血で泥濘、最早現実とは思えない光景が広がっていた。
「「「わぁあああああああ」」」
悲鳴のような叫び声がそこら中から聞こえ、周りにいた兵士達は100体合体ゴーレム達から逃げる様にして遠ざかって行く。
敬太は腕を組み、その一部始終をしっかりと目に焼き付けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます