第221話 戦後処理

「おい、ここから早く逃げ出せ!」

「だから、無理ですってナベージュギルド長。私らが動こうとすると、あのでかいゴーレムも動くんですから。簡単に潰されちゃいますよ」

「それでも何とかしろって言ってんだ!」


 プラチナランクPTの「暗黒の微笑」とシルバーランクPTの「風の団」が、ゴーレム使いの呼びかけに応え、両手を上に挙げていると、ギルド関係者として陣の左端に固まっていたシルバーランクPT「星の音」と、彼らに護衛を依頼して現場に付いて来ていたナベージュギルド長が、言い合いを始めていた。


「王都から来たプラチナランクの人達だって無理だと手を挙げてるんですから、私らでは絶対に無理ですって」

「お前ら、ギルド長に逆らうつもりか!街に帰ったらランクを降格にするぞ!」

「いやー、そもそも帰れるんですかね・・・」


 「星の音」のリーダー、フラットがナベージュギルド長を一生懸命宥めているのだが、どうにも周りが見えていないようで中々収まらず、それは斥候役のシャープが突っ込みを入れてしまう程だった。


 全くもって状況を理解してない自分勝手な言い分なのだが、驚く事に陣のあちこちでも同じような言い争いが起こっているのだった。


 主に、身分が高い者が「逃がせ」「助けろ」「戦え」と、自分の部下や兵士達に無茶ぶりをしているのだが・・・。



 そんな様子を、敬太は100体合体ゴーレムの頭の上から眺めていた。


 一応、最終通告と伝えたのだが、そこかしこでワイワイ騒いでいる連中には意味が分からなかったのだろうか?

 騒いで仲間を誘導している事が敵対行動にならないと思っているだろうか?

 それとも、自分だけは大丈夫と勘違いをしているのだろうか?


 負ける事を想像もせずに敵地に乗り込み、実力差も分からず無闇矢鱈と喚き散らす。無能の極みだ。


 敬太は拡声器のサイレンボタンを押して「キュイーキュイー」と爆音で鳴らし、捕獲隊の注目を集めさせた。


『えー、歯向かう場合は殺すと宣言していたのですが、忘れてしまったんですか?』

「うるさい!誰に向かって口をきいている!」

「早くあいつを捕まえてくるのである!」


 敬太的には、身分なんかを使い誘導されると全体がまとまらないので止めて欲しかっただけなのだが、間髪をいれずにそんな返しをされてしまうと、示さねばならなくなってしまった。どちらが戦場を支配しているのかを・・・。


「はぁ~」


 独り小さなため息を吐き、折角登りなおした100体合体ゴーレムの頭の上から、また降りていくと、魔法の効果範囲が敬太だけという縛りがあるのでゴーさんの鎧を脱ぎ捨てる。


「【クイック】」


 そして、再び時間魔法を使った。


 騒いで兵士達を誘導していた人達の事は【探索】でマーキングをしていたので、見失う事は無い。


 止まったかのようにゆっくりとしている世界の中で、迷う事無くその人達に近寄って行き、粘土のように切り裂いていく。



 そして、60秒のカウントダウンが終わり、再び時間が動き出した時には11個の首が地面に落ちていっていた。


「「「うわああああああ!」」」


 今まで喋っていた指揮官達の首が、突然落ちてしまった事に兵士達は驚き、恐怖し、叫び声を上げていた。


 敬太は戦いが始まってからずっと兵士達の観察を続けていたので、今の一撃で指揮官的ポジションにいるであろう人物は一掃出来たと思う。


 ここまでは想定内であり、ここまで力を削いでしまえば、後はもう烏合の衆も同然となるだろう。


 今度こそ仕事が終わったと言わんばかりに、もう一度100体合体ゴーレムの頭の上に登っていった。




 敬太の【クイック】を使った見えない攻撃により、捕獲隊を率いていたインカ士爵を始め、ホッカ士爵、トワレ門番頭、ナベージュギルド長と主だった連中が首を飛ばされると、予想通り、それ以上反抗する者は無く、そこからは武装解除からの拘束とスムーズに戦後処理を行っていく事が出来た。


 陣から少し離れた位置にゴーレムで囲った場所を作り、そこに10人ずつ入って来てもらい、【亜空間庫】で武装解除を行って、敷鉄板1枚分(800kg)のゴーレムの鎧を纏ってもらうといった感じだ。


 少しデザインの違う「のっぺら坊」の鎧を纏わせた兵士達が、逃亡や反逆をしようとすると、すぐにゴーレムが【同期】スキルを切って800kgの重しになってもらうように言ってあるので、拘束具として十分な役割を果たしてくれるだろう。




「それでは次の10名入って来て下さい!」


 戦いが終わってから結構な時間が過ぎていたが、敬太は未だに戦後処理をせっせとやっていた。


 なんだかんだと150名以上は惨殺したのだが、それでもまだ400名近く残っているので、こんな作業でも一苦労になってしまっている。


 人手不足の為、戦闘が終わるとすぐにゴーさんの【通信】スキルを使って、鉄の壁の中にいたモーブとサミーを手伝いに呼んだのだが、モーブは護衛として横にいてもらい、サミーには知っている顔や分かる事があったら教えてもらう事にしたので、作業の効率的には変わらなかった。


 しかし、人手は意外な所からやって来た。

 追っ手達の中から「士爵」を名乗る人が出て来たのだ。


 敬太は偉そうに指示を出している奴は全員殺したつもりでいたので、貴族だと名乗って来た時には疑い、すぐに【鑑定】をかけたのだが、それが本物だったのだ。


 その彼はトウヤ士爵といい、貴族なのに農民兵と見分けが付かないような格好で、その上、随分と腰が低く「兵達の命を助けてもらうお礼だ」と自ら手伝いを買って出てきたのだった。


 武装を解除させて、ゴーレムの鎧を着せても「当然だ」と言った顔をしているし、今も兵士達の呼び込みみたいなことをして貰っている。


「それでは次の10名、どうぞ!」


 追っ手達の間では顔が知れているらしく、呼び込んで武装解除をしていく流れがスムーズになっていた。


 彼の狙いは一体何なのだろうか?


 敬太は考えながらも、新しく入って来た人達の装備を【亜空間庫】にしまっていった。

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