第217話 決戦

 ヤスメ副長らギルド関係者が「崖の砦」に訪れ、敬太達と会談し、宣戦布告してから38日後。

 

 ついに、捕獲隊と名付けられた兵士600名からなる軍隊が「崖の砦」を越え、ダンジョン入口付近の畑を囲った鉄の壁前までやって来ていた。


 彼らは「呪いの森」を抜ける際も一度として戦闘をしておらず、元気なまま辿り着く事が出来ており、血の気が多い連中が「戦闘はまだか」と騒ぎ出してしまう程、士気は高かった。



 午前10時。


 鉄の壁まで100m程の距離まで近づいて来た捕獲隊は、目の前に聳え立つその鉄の壁の大きさや完成度に圧倒され、すっかりと浮足立ってしまっていた。


「こんな壁どうやって超えるんだよ!」

「金属製の壁なんて見た事がないぞ!」


 兵士達は動揺を隠せず騒ぎ出し、指揮官たちが声を上げ布陣を促しても、それは収まる事が無かった。


 鉄の壁の高さは20m程あるだろうか、それは王都の城壁に勝る高さであり、ルシャ王国内では見た事が無い程の高さだ。そして、全てが金属で出来ているからなのか、その表面は磨かれた様に滑らかで、決して人力では登れない事が見ただけで分かるものだった。


「ええ~い!静まらんか!」


 すると、中々静まらない兵士達に業を煮やしたのか、捕獲隊を率いている立場であるインカ士爵、自ら声を上げ始めた。


「あんな壁など恐れるに足らん!見た目に惑わされるな!」


 剛の者をして知られるインカ士爵の統率力は流石な物で、あれだけ狼狽していた兵士達が落ち着きを取り戻し始める。


「我々には数の力があるのを忘れてはならんぞ!まずは、布陣を整えるのだ!」


 インカ士爵の声には力があり、兵士達が耳を傾け始めたのが見えた所で、指揮官達がここぞとばかりに声を張り上げインカ士爵に続いた。


「お前ら並べー!」

「こんな所で狼狽えてどうする!しっかりせんかー!」


 こうして、ようやく捕獲隊は鉄の壁から100mという位置に兵士を配置したのであった。





 一方その頃、敬太達は眼前にまで迫って来ていた兵士達を、鉄の壁の上に伏せ、見つからないようにしながら眺めていた。


「こうやって見ると、結構多いですね」

「うむ。そうじゃな。しかし、所詮は数が頼りの烏合の衆じゃ。ちょいと押してやれば、あっという間に崩れるじゃろ」

「あっ、あれ。あっちに集まってる少し毛色が違うのがポテトウ傭兵団っすね。参加してたんすね」


 兵士達が「崖の砦」を通過する時に、砦になっているゴーレム達に人数を数えてもらっていたので、兵士達の数は把握しているし、その後の進み方も小石に擬態したゴーレム「偵察部隊」を作り、逐一情報を得ていたので、迎え撃つ準備は万端だった。


 ちなみに兵士達が通過した後に「崖の砦」の門は閉めているので、この「呪いの森」から一人たりとも逃がす気は無い。

 

 流石の敬太も今回ばかりは頭に来ているらしく徹底抗戦をする構えなのだ。

 その為の覚悟もしている。


 仲間の命を脅かす輩は一掃してやる心積もりなのだった。



「【探索】・・・まぁ問題無いか」


 最終確認の為に【探索】を使い周囲を確認するが、やはり12人だけが鉄の壁の後ろや脇に回り込んで来ているだけで、その他は全て正面の布陣に組み込まれているのが確認出来た。これは、「偵察部隊」で分かっていた事なので、あくまでも最後の確認に過ぎない。


「よし、ゴーさん、そろそろいくよ!」


 敬太の鎧となり、頭の部分に変形しているゴーさんにゴーサインを出す。

 すると鉄の壁から100m程離れている敵の陣地の後ろから3体、両脇からも3体ずつ100体合体ゴーレムが現れる。


 この100体合体ゴーレムというのは、モーブが呟いた事をヒントに作られたもので、約15m程の高さがあるゴーレムだ。ゴーさんの拘りなのか、大きくなっても雪だるまのような姿は変わらず、丸い球の上に丸い球が乗っていてそこから短い手足が生えているという形はそのままだ。

 本当はもう数体ぐらいは合体させる事も出来るのだが、これ以上合体させる数を増やすと、自重によって足の方が潰れてしまうらしく、丁度キリが良い100体という所で大型化実験を終えたゴーレムだった。


 そんな巨大ゴーレムが9体、捕獲隊を囲むように、突如として地面の中から現れると、鉄の壁の上に居ても聞こえるぐらいの悲鳴が上がっていた。


「それじゃあ行ってくるね」

「うむ。気を付けるんじゃぞ」

「こっちはまかせておくっす」


 今日は、戦いという事なのでモーブとサミーにもゴーレムの鎧を着せているのだが、そんなゴツイ恰好をした2人に普通に見送られると、何だか笑ってしまいそうになってしまう。


「う、うん・・・【亜空間庫】、じゃあね」


 敬太は笑いを誤魔化しながら【亜空間庫】を使い、100体合体ゴーレムをもう1体取り出すと、鉄の壁の外に置き、その上にピョンと飛び降りる。


 100体合体ゴーレムの頭の上に着地した敬太は、そのままゴーレムに進んでもらい捕獲隊の元へと進んで行った。




 ズン、ズン、と地響きを立てながら近づいて来る巨大ゴーレム。

 後ろや両脇にも巨大ゴーレムが立ちはだかり、捕獲隊には最早逃げ道は無い。


「なんだよこれ、話が違うじゃねーかよ!」

「お終いだー!」

「命だけは助けてくれー!」


 急遽戦闘の為に村々から寄せ集められた農民なんかの一部の兵士達は、既に戦いを放棄し、武器を手放し立ち尽くしている。中には地面に座り込んだり、そのまま土下座をしている者さえいる。


 指揮官達もどう指示すればいいのか分からず狼狽えるばかりで、真面に戦えそうなのは冒険者達とポテトウ傭兵団ぐらいだった。


「はは・・・こいつはハイゴーレムじゃないですねぇ」

「これは、見た事も聞いた事もないゴーレムだなぁ」

「私達で倒せるかねー・・・」


 ハイゴーレムが7体だと聞いて来ていたプラチナランクPTの面々は、突然現れた10体もの巨大ゴーレムに驚きはしているが、まだ諦めてはいないらしく、その鋭い眼で色々と探っているようだった。


 彼らの後ろでは、こっそりと「風の団」が両手を上に挙げていた。

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