第216話 斥候2

 探りに出ている斥候役達が「呪いの森」の情報を【念話】で共有し、戸惑いを解消する事が出来たので、明らかに怪しい太い轍を中心に、それぞれが【捜索】を使い、警戒しつつも、どんどんと「呪いの森」の奥へと入って行っていた。



『すいませーん。そろそろ限界です』

『了解だ。それじゃあ本隊と連絡とっちゃおうか』

『分かりました』


 「崖の砦」があった場所から小一時間ぐらい奥へと入って行った辺りで、ポテトウ傭兵団の1人から【念話】で連絡が入った。


 どうやら彼らの【念話】レベルはまだ低いらしく、今の距離で【念話】が届く限界らしい。


「よし、ストップだ!ここらで一度、本隊に連絡入れちゃうから待っててくれ」

「分かり、ました・・・」


 ポリフをリーダーとしたギルド関係者の斥候役達も走っていた足を止め、ポリフの指示に従う。


 走りながら【捜索】を使い、そして辺りを警戒するといった作業は、シルバーランククラスの面々には少々きつかったようで、全員が汗を流し息を切らしていた。

 

 一方、【念話】を使って本隊と連絡取っているであろうポリフをみると、まだまだ余裕なのか、息すら切れておらず、涼しい顔をして遠くを見つめていた。


「流石ですね・・・」

「そう・・・ですね・・・」


 「風の団」のジェットと「星の音」のシャープは顔を見合わせ苦笑いをする。


 やはり、こういった基礎的な部分でも大きくプラチナランククラスと離れていた事を実感し、お互いに「まだまだだな」といった感想が出て来ていたのだろう。


 シルバーランククラスの面々は、眩しい物を見る様な顔をして、ポリフの事を見つめるのだった。




「よし、こっからは本隊も入って来るから、並足でゆっくり進むぞ」

「「「分かりました」」」

「【捜索】だけは怠るなよ」

「「「はい」」」


 【念話】で連絡を取り終え、次の指示を出して来たポリフに、一同が尊敬の眼差しを向けながら返事をした。


 それに対し、ポリフは方眉を上げたが、特に何も言ってこなかった。

 おそらく、こういった事にも慣れっこなのだろう。


 実際に自分の目でその動きを見てみて、凄さを実感するといった事は、何処の世界でも同じらしい。



「ポリフさん。ここからは本隊から先行しつつ進んで行く感じになるんですか?」

「ああ、そうだ。本隊とこの距離を保ったまま、俺らが目となり先行していく」


 600人からの本隊の移動速度に合わせて、斥候役達もここからは歩きながら進んで行くらしく、幾らか余裕が出来た「風の団」のジェットがポリフに話しかけていた。


「それよりも、お前ら見たんだろ?ハイゴーレム」

「え!はい、見ました」

「どうだった?」


 余裕が出来たのはポリフも同じだったのか、軽い調子で雑談をし始める。


 「風の団」は、約1か月前にヤスメ副長らがゴーレム使いと交渉を行った際、護衛として付いて行っていたので、間近でハイゴーレムを見たし、なんならゴーレム使いの素顔も拝んでいる。なので、先程のポリフの問いに対しては見て思った事を素直に伝えた。


「そうかー、本当にハイゴーレムっぽいな」

「ええ、兎に角、大きかったです」

「なるほどなぁ・・・。しかし、お前ら、良くそんなもの見たのにまた付いてくる気になったな」

「いや・・・これは・・・」


 ジェットは何と答えていいのか詰まってしまい、「風の団」のメンバーに目を向けながら愛想笑いをするのが精一杯だった。


「ああ・・・。あのギルド長だろ?見るからに使えなそうだもんな」

「は、はぁ・・・」

「お前らも護衛するの大変だろ?」


 上役の悪口になってしまっているので、軽はずみな返事が出来ず、再びジェットが口ごもっていると、ギルド長ナベージュの護衛役として依頼を受けてここに来ていた「星の音」のシャープに話を振っていた。


「本当、大変ですよ。偉そうに口だけですし、今回付いて来たのだって絶対ジャガ男爵に媚を売る為ですよ。『私はやってますよー』ってアピールしたいだけなんですよ。普段は何もしてないクセに」

「わはは、随分と溜まってるな」

「そりゃそうですよ。奴は護衛と奴隷の区別がつかない愚か者なんですから。あれやれーこれやれーって護衛として付いて来てる私達に命令するんですから、たまったもんじゃないですよ。私たちは下僕じゃないんですよ」


 すると、「星の音」のシャープはここぞとばかりに不平不満を口にし、日頃の鬱憤を吐き出していた。


「ああ、上がそんなんじゃ、やる気も削がれちまうな」

「そうなんですよ!」

「ギルマスも頑張っているんだが、ギルドも一枚岩じゃない。大きな組織ってのはどうしても歪が産まれちまうらしい。まぁ、だからって我慢しろなんては言わないが・・・今はこの戦いの事を考えるべきかな」

「そうですね・・・」


 プラチナランクのポリフに何か助言を貰えるかと期待した、不満を抱えている一同は、少し残念そうな表情になってしまう。


 しかし、ポリフの言う事はもっともな事であり、正論だった。

 今は戦いの事を考えるべきで、しっかりと探索していくのが自分らの仕事だと。

 そう考え、一同は納得しかけていたのだが、ポリフの話にはまだ続きがあった。


「戦い、いや今回は戦争とも言える規模だよな。そういった場では誰も予想もしないような事が多々起きるもんだ。例えばハイゴーレムが相手では、お前らシルバーランククラスでは手も足も出ないだろう」

「ええ・・・」

「そんなものに襲撃されちまったら、護衛相手を守れなかったしても、それは仕方が無い事なのかもしれないよなぁ」

「・・・」

「今回は俺達『暗黒の微笑』がハイゴーレムを受け持つ事になっているが、もしハイゴーレムの数が予想より多かったり、ゴーレム使いの手勢が多かったりしたら、流石の俺達でも手に余ってしまうかもしれんよなぁ」

「そ、それは・・・」

「まぁ、そういった手もあるって事だ」


 予想に反し、プラチナランクのポリフは凄い事を提案してきた。


 シルバーランククラスの一同は目を合わせると、ゆっくりと頷きあっていた。

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