第215話 斥候
冒険者ギルド側からは7名、兵士側からは12名が斥候役として集められ、何故か最初から開いていた門の先を探っていく事になった。
その中でも、やはり頭一つ抜けているプラチナランクPTのポリフが自然と指揮を取る事になり、まずは「崖の砦」の捜査から始まった。
「ありませーーーん!」
「こっちにもないです!」
しかし、不思議な事に「崖の砦」の中に入る入口が何処にも見つからず、「風の団」のジェットなんかは焦ってしまっていたのだが、ポリフは落ち着いたもんで特に何を指示をするでもなく、腕を組んだまま佇んでおり、みんなが一通り調べ終わったらそれで「崖の砦」の捜査を終了としてしまった。
「いいんですか?」
「まあな、どうせ何もない事は分かっていたからな」
心配になったジェットがポリフに尋ねてみると、まるで知っていたかの様な答えが返ってくる。
ジェットを始め「風の団」の連中やシルバーランククラスだと、風魔法の【捜索】が上手く建物の中にまで入って行かないので、「崖の砦」のような壁が厚い場所だと、中の様子は自分の目で見ない事には確認のしようが無いのだが、プラチナランククラスになると、その内部まで見る事が出来るのだろう。
「なら、どうして調べたんですか?」
「ん?お前らも調べれば納得するだろ?口で言うよりかは安心出来るはずだ」
「確かに・・・その通りですね。・・・なんか、すいませんでした」
「いやいや、気にするな。こうやって急に組む事になると良くある事だからな」
なるほど、伊達にプラチナランクをやっている訳では無いようだ。
こういった合同でやるような大きな依頼を何度となく受けた事があるのだろう。
「よーし、集まってくれ!」
そうして、斥候役の皆がある程度納得するまで「崖の砦」を調べ終わった頃を見計らい、ポリフが声を上げる。
「今見てもらったように、あの建物には入口も無ければ、中にも何も無い。何で門が開いていたかは知らないが、罠も仕掛けも無いのが確認出来ただろう」
ポリフが集まった斥候役達の顔を見渡すが、特に意見は出て来ない。
「よし、それじゃあここからは、この先にある『呪いの森』とかいう所を進んで行く事にする。そこで、3つか4つぐらいに班分けをしたいと思うのだが、この中に【念話】を使える者はいるか?」
ポリフがそう言うと、ポテトウ傭兵団から来ていた2人が手を挙げる。
「あー、2人もポテトウ傭兵団か。出来れば別々の班になってもらいたいんだけど大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
「問題ないです」
ポテトウ傭兵団から来ている【念話】を使える2人は、すぐにポリフが言わんとしてる事が分かったのか、すんなりと同意してくれた。
この【念話】というのも風魔法の一種になり、遠く離れた仲間と話をする事が出来る魔法だ。一流と言われる斥候役は必ず持っていると思っていいだろう。
ちなみに、この【念話】の上位互換となるのが、光魔法の【通信】になる。
本来、【通信】とは音声と見ているものを共有出来る魔法なのだが、使い手であるゴーさん達が喋れない為、画だけの共有になっているのだった。
「それじゃあ、冒険者ギルド関係者は俺の班に、その他はポテトウ傭兵団の2人をリーダーとし、班を作ってくれ」
こうして、3つに班分けされた斥候達は、ばらけながらも【念話】が届く距離を保ちながら「呪いの森」の中を駆けていった。
「おかしいですね、何もいませんよ」
「そうだな、モンスターはおろか獣一匹として【捜索】に引っかからねえ。それどころか鳥の声も虫の声も一切聞こえて来ない・・・正に『呪いの森』と言った所だな」
「確かに、生き物の気配や声が全然聞こえませんね」
斥候達は「呪いの森」に入って行くと、すぐに見た事が無い程太い独特な轍を発見したので、その轍を中心に探索する範囲を広げていく事にしたのだが、「呪いの森」の中に一切の生き物がいない事が気持ち悪く、少々戸惑ってしまっていた。
「あー、確か、うちの爺ちゃんが言ってたんですけど、動物や森の恵みが無い事から『呪いの森』と呼んでいるだけで、本当の『呪い』といったものとは無関係らしいですよ」
しかしそこで、マシュハドの地元民だけで組んでいるシルバーランクPT「星の音」の斥候役、シャープが情報をもたらしてくれた。
「子供の頃から『近づいても中に入ったらいかん』と言われていたので、何でだろうと思っていたのですが、何も無い危険というのが大人になってから分かりましたよ」
「なるほどな・・・情報感謝するぞシャープ」
「いえいえ、お役に立てたなら良かったです」
モンスターや獣、それに鳥や虫といった動物までもが一匹もいなく、その上、木の実やキノコや果実など、そういった森の恵みすらも存在しない「呪いの森」。
大きさは直径120kmといった広大な土地なので、一度中に入り迷いでもしたら、何も無い砂漠を歩くのと同じような事になってしまうだろう。
水場も無く、同じ様な景色で迷いやすい。「呪いの森」と呼ばれるのにはそれなりの理由があったのだ。
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