第214話 捕獲隊

 翌朝。


 ジャガ男爵の館にあるサッカーが出来そうなぐらい広い庭に、武装をした大勢の人達が立っていた。


 彼らは街の外に野営をしていたのだが、早朝に叩き起こされ、訳も分からず整列させられている。

 大きな館の庭に来ているのは分かるのだが、これから何が行われるのか戦々恐々といった心境だろうか。


「静まれーーー!」

「静かにせんか!」


 しばらくすると、指揮官たちが大声で叫び始めた。


 その声にワイワイガヤガヤとしていた庭が静まり返る。


「注目ぅーーー!」


 そして、静かになった庭にまた大きな声が響く。


 皆がその声がした所に注目すると、そこには周りを守られながら少し高い台の上に立っている、太った人が居た。


「ジャガ・イーモ男爵だ」


 その男が名乗ると庭がざわめいた。

 本物の貴族などに会った事がない人も多いのだろう。


 華やかな服を着て、でっぷりとした体。

 醜く歪んだ顔からは品性下劣な内面が滲み出ている。


「いいかお前ら、良く聞け!ゴーレム使いはオレの顔に泥を塗りやがった」


 再び、庭が静まる。


「オレの領地にいるクセに、この貴族であるオレの話を断りやがった。舐めてるよなぁ?・・・ここでは、オレが法律なんだ。その貴族に逆らうと、どういう目に遭うか知らしめてやらねばならんなぁ?」


 庭に集まっている600人の兵士達は、ジャガ男爵の話に顔が青ざめる。


「殺しちまうのは面倒になるが、それ以外なら何をやっても構わない、オレが許す。しっかりと自分の立場を思い出せるように、地獄を見せてやれ、いいな!」

「「「はっ!」」」


 ジャガ男爵の言葉に、側にいた士爵の3人が大きな声で応える。


 それを聞いたジャガ男爵は満足そうに頷き、台をゆっくりと降りて行くと、そのまま執事のサダバラを伴って館の中へと去って行ってしまった。


「それでは、ポテトウ傭兵団から進め!このまま出陣だ!」


 その後、ジャガ男爵が去って行くのを見届けたインカ士爵が声を張り上げ、館の庭から兵士達を送り出して行く。


 わざわざ早朝に兵士達を集めてやりたかった事とは、これだけだったらしい。

 ジャガ男爵が顔を出し、貴族のチカラを見せつける。


 「お前達も逆らえばこうなるんだぞ」と言外にほのめかした訳なのだが、こういった組織的な所では必要な事なのかもしれない。


 こうして、兵士達をひと脅ししてからゴーレム使いの捕獲作戦が開始された。





 1週間後。


 何事も無く1週間の行軍を終えた捕獲隊は「呪いの森」にある「崖の砦」まで辿り着いていた。


「これはどう言う事だ?」

「いや、私にも分かりません」


 しかし、彼らは大いに困惑する事になっていた。

 何故なら「崖の砦」の門が大きく開いていたからだ。


「前に来た時は閉まってましたし、ここで話し合いをしたので、中の様子までは分かっておりません」


 案内役として付いて来ていたシルバーランクPT「風の団」のリーダーであるジェットは、額に汗をかきながら捕獲隊を率いているインカ士爵に説明をする。


「そうか、分かった。下がってよいぞ」

「はい・・・」


 「風の団」としては、前回来た時にハイゴーレムを間近で見ていたので、絶対にゴーレム使いと敵対したくないと思っているのだが、ギルド長直々の依頼を断れる訳もなく、本当に嫌々ながら今回も付いて来る事になってしまっていた。


 出来る事なら戦闘を避け、道案内だけを済ませたら端っこで小さくなっていようとPTメンバーと話し合って来ていたのだが、着いた早速の非常事態。


 これからどうなってしまうんだろうと、嫌な予感しかしないジェットであった。




「よし、ギルドからはポリフ、シャープ、後『風の団』は全員行ってくれ」


 そして、嫌な予感とは当たるもので、門が開いている「崖の砦」の先がどうなっているのか探って来る為に、捕獲隊から斥候が得意なメンバーを出す事になり、全員が得意である「風の団」は全員が行く事になってしまったのだ。


「ちょっと、ギルド長!話が違うじゃないですか」

「まぁいいじゃないか、ちゃんと追加報酬は出してやるから行ってこい」


 命の危険を感じ出た「風の団」のジェットが、何故か現場に付いて来て偉そうにしているギルド長のナベージュに詰め寄ったのだが、軽くあしらわれてしまった。


 ヤスメ副長のように現場からの叩き上げなら分かる事なのだが、このどこかの貴族の三男坊らしいギルド長のナベージュは何も分かってないのだ。

 ハイゴーレムがいるかもしれない場所を探ってくる事が、どれだけ大変な事なのかが。


 ジェットは前々からギルド長には良い印象を持っていなかったが、こんな人の命を何とも思っていないような対応をされてしまうと、最早1mmも信用する事が出来なくなってしまった。



「やい!お前らが『風の団』だな。行くぞ!」


 そして、そんなときに現れたのが「風の団」と同じく斥候役に命じられたプラチナランクPTの斥候役であるポリフだった。傍らには「星の音」の斥候役であるシャープもいる。


「いや・・・でも・・・」


 「風の団」としては、このまま抜け出してしまおうかという所まで話し合いが進んでいたので、少し返事に戸惑ってしまい、明らかに挙動不審になってしまう。


「大丈夫だ!まかせておけって」


 しかし、ポリフは「風の団」の様子を気にした素振りも見せず、気持ちの良い笑顔を見せていた。


 格上であるプラチナランクPTの斥候役にそう言われてしまうと、「風の団」には付いて行く以外の選択肢は無いのだった。

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