第210話 聖水

「おい!ヨシオ、あれは一体どう言う事なんだ!?」

「なんだシン、突然うるさいだシンよ」


 敬太は改札部屋へと引き上げてくると、真っ先にダンジョン端末機ヨシオに声を掛けていた。


 ヨシオは「ダンジョンの事なら何でも知っている」と豪語するだけあって、ダンジョンの事に関してはかなりの知識を持ち合わせている。なので、先程遭遇したオーガの事について聞きたいと思ったのだ。


「ああ、21階層に行っただシンね」

「そうだ、そこにオーガっていう強いモンスターがいて、5体合体ゴーレムが10体も、一瞬でやられちまったんだ」

「しょうがないだシンよ。このダンジョンはまだ若いだシン。だからその分作り込みも甘いだシンよ」


 ちなみに、敬太がまだ行った事が無い階層や、取得していない魔法やスキルなんかの情報は何一つとして教えてくれないとうケチな仕様になっているが、一度でも足を踏み入れた階層の事ならば詳しい情報を教えてくれるようになるのだ。


「だから、間が抜けてるというシンか、中間層がまだ育ち切っていないというシンか、迷路で言えばスタート地点とゴール地点しかまだ作れていない状況、みたいな感じだシン」

「お、おう・・・」

「ケイタが体験した事を分かりやすく言えば、全部で50階層あるダンジョンで20階層から一気に41階層辺りに飛んじゃったって感じだシンかね?本来あるはずの21階層から40階層がまだ作られていないからジャンプしちゃって突然深い階層に繋がってしまったって感じだシン」


 なるほど。何となくヨシオが言いたい事が分かった。


 前提としてダンジョンが成長するものという知識が無ければ分からなかったかもしれないが、それが理解出来た事で、突然強いオーガが出て来てしまった理由にも納得が出来た。


 それならば、オーガの強さ辺りも聞いておきたい所だ。


「じゃあ、今の俺でもオーガって倒せるものなのか?」

「うーん。そもそもケイタはまだまだレベルが低いだシン。それでも倒そうと思うなら光魔法の【レイ】ぐらいは必要だシンね」


 可能性はあるらしい。


「その【レイ】ってのは、いくらぐらいする魔法なんだ?」

「それは教えられないだシン」

「じゃあ、何番目の光魔法なんだ?」

「それも教えられないだシン」

「なら、【光玉】の次には何て名前の魔法が出てくるんだ?」

「だからそれも教えられないだシン」


 クソが・・・。


 ヨシオのガードは相変わらず固かった。



 ヨシオにそれ以上聞く事が無くなり、今日はこれ以上ダンジョンに挑戦する気にもならなかったので、少し一服してからモーブ達の手伝いに行こうと、テーブルに座ってお茶を飲んでいると、物置のランプがチカチカと点滅しているのに気が付いた。


「よっこいしょっと」


 年寄り臭い掛け声と共に立ち上がり、ススイカ(改)を使って物置を開けると、中には思っていた通り、黄色い液体の入った小さな小瓶がポツンと置かれていた。



『鑑定』

少女の聖水

これを飲ませると裏切れなくなる

ただし、相手の素顔、本名、年齢を覚え、自分の恥ずかしい秘密を一つ打ち明けなければ効果が発揮されない


飲み物や汁物に混ぜて飲ませても大丈夫だが、効果は1瓶につき1人だけ

1瓶を複数の人が口にしてしまうと効果が出ない

飲み薬です



 オーガの事で頭が一杯になり、すっかり忘れていたが、20階層のボスであるブラウンベアーが落としたものだろう。


 中に入っている液体は、かき氷にかかっているレモンのシロップぐらいの黄色で、敬太が記憶している「尊師の聖水」より大分明るく、飲みやすそうな印象を受けた。


 なので、実際に【亜空間庫】から「尊師の聖水」を取り出して、色味を見比べてみたのだが、「尊師の聖水」の方が黄色に茶色が混ざった様な色をしていて若干疲れたような印象を受け、「少女の聖水」の方は爽やかさがありゴクゴクと飲める感じがした。


「ヨシオ、これにも隠し設定があったりするの?」

「ないだシンよ。ケイタの【鑑定】に見えている内容で合っているだシン」


 相手の素顔、本名、年齢を覚え、自分の恥ずかしい秘密を一つ打ち明けるといった条件の他に隠し設定まであったら使えたものじゃないと思ったのだが、流石にそれはなかったらしい。


 相手を信じる事が出来なければ発動しない「尊師の聖水」と、相手に秘密を暴露しなければならない「少女の聖水」。


 一応、使いやすくはなっているのだろうが、もう少し何とかならないものかと思う敬太であった。



 

 敬太は改札部屋を出るとジープを使い、地上へと走って行って、早速モーブに今日あった事を話した。


 オーガの事、ダンジョンが成長する事、「少女の聖水」の事。


 モーブは黙って「うむ、うむ」と頷いて話を聞いていて、敬太の話が一通り終わってから、ゆっくりと口を開いた。


「うむ。オーガとは、また厄介な者が出て来てしまったな・・・」

「やっぱり、そうなんですか?」

「うむ。わしも詳しくは知らんのじゃが、相当強いモンスターであるという話は良く聞いていた。オーガが現れると街ぐるみで対応するぐらいでの、高ランクの冒険者を集め、兵隊を集め、そうしてようやく対抗できるといったものらしいぞ」

「うわぁ・・・そこまでですか」

「うむ。だが、まぁこの話は冒険者をしていたサミーの方が詳しいかもしれんな」

「あぁ・・・それじゃ、サミーにも聞いてみますよ」


 今まで、ダンジョンに出て来たモンスターの話をすると、その対処法や弱点、攻撃方法なんかを教えてくれて、知らなくても何かしらの役に立つ情報を教えてくれていたモーブだが、今回のオーガについてはそこまでは詳しく知らなかったらしい。


 モーブが知らないモンスター。

 出現頻度が低いのか、それとも情報が残らない程の破壊をもたらす者なのか。


 新しく現れてしまったオーガ。

 一筋縄ではいかない相手なのだなと、改めて思った。

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