第209話 戦闘

 敬太が【亜空間庫】からミスリルの槍を取り出しながら、横になったまま動けないでいる鎧を着たヒグマに近づいて行くと、気を利かせたゴーレムが兜の部分を移動させヒグマの顔を外に出してくれた。


「ブォォーーー!」


 顔だけが自由になったヒグマは、恨みがましい目を敬太に向けながら吠えてきた。


「【奥突き】」


 しかし、敬太は気にする事なく刺突系第三のスキルを放つ。

 大きく開いた、その口に向かって。


 高速回転のかかったミスリルの槍はヒグマの喉を突き破り、後頭部へと抜け、重要な器官をズタズタにしていった。


 ヒグマは一度だけ体をビクンと痙攣させると、口から紫黒の煙を吐き出した。




「ふぅ~。上手くいったね」


 20階層のボスという事でそれなりに緊張していた敬太だったが、ぶっつけ本番になったゴーレムによる拘束も上手くいき、あっけない程簡単に倒せた事に安堵していた。


 サミーの言葉がヒントになり、ドロリと溶け出したスライム状のゴーレムに拘束をさせてみたのだが、この作戦は大成功だったようだ。

 ただ、拘束した時の鎧のデザインが今一つだったので、その辺りは後でゴーさんと相談しようと思う。


「さて、次行こうか」

「ニャー」


 作戦があまりにも上手くいったので、もう少し色々な拘束のパターンを練習しておきたいと思い、次の階層へと進む事にした。


 20階層のボスを倒し、進めるようになった21階層へと。



 ブラウンベアーが塞いでいた扉を開き、下り階段を下りて行こうと思ったが、やはり天井が低くなっていたので、敬太は後ろを振り返りゴーレム達に声を掛けた。


「全員、5体合体に戻ってから下りてきてー!」


 ボスの体が大きいからなのか、ボス部屋の天井は他の所より高くなっているので10体合体ゴーレムを運用出来たが、ここからは天井に頭を擦ってしまうので小さくなる必要があった。



「ゴーさん、ちょといい?」


 ゴーレム達の変形が完了するのにそれ程時間はかからないが、思いついた事があったのでゴーさんに声を掛けた。


「今度拘束する時はさ、相手の鎧をのっぺらぼうにして欲しいんだよね。俺と同じデザインだと、誰が誰だか分からなくなっちゃうでしょ?」


 敬太は先々の事を考え、同士討ちなどが起きない様にデザインの変更をゴーさんに要求した。しかし、ゴーさんの方を見ても、いつもの様に敬礼ポーズをする様子もなければ、動きもしなかった。今の説明では通じなかったのだろうか。


「のっぺらぼう・・・う~ん、凹凸が無くてツルツルな感じかな、それで装飾とかは何も無くていい。兎に角、敵と味方が見分けが付く様にして欲しい」


 一応、自分なりに噛み砕き「のっぺらぼう」の説明をした所、今度はシュタっと敬礼ポーズをして了解をしてくれた。


「良かった、それじゃあよろしくね」


 そうして、ゴーさんと相談している間にゴーレム達の変形が済んだようなので、改めて21階層へと向かって階段を下りていった。



「【探索】」


 踊り場まで下りて来たので、いつも通り【探索】を入れてみると、やはりこちらもいつも通りらしく頭の中の地図に数え切れないほどの赤い光点が現れた。


 新しい階層には、溢れんばかりのモンスター。最早定番となっている。



『鑑定』

オーガ

地上最強の生物の一角

背筋が打撃に特化した形状に変化しており

その形が鬼の貌に見えることに由来する

カンフーシューズを愛用する個体が多い


弱点 麻酔銃



 階段を下りきった所にいた一番近い奴に【鑑定】をかけると、このような情報が出て来た。


 見た感じは、上半身裸で筋骨隆々な姿は強者感が滲み出ている。

 ファンタジーの世界では有名な名前なので聞いた事はあったが、人型のモンスターはこのダンジョンでは見た事が無かったのもあり、少し尻込みしてしまう。


「よし!拘束を頼む!」


 それでも、進まないと始まらないので、まずはゴーレム達に行ってもらう事にした。


 このオーガはどれぐらいの強さなのか。

 まずは何体か倒してみて、この階層の攻略方針を決めたいと思う。


 階段で横に並び3-2-3-2の隊形で、すぐ下にいる3体のオーガを拘束してきてもらう。


 足並みを揃えて階段を下りていっているゴーレム達を、両手を上に挙げた体勢で待ち構えるオーガ。


 もう2~3歩でゴーレム達が溶けて出して拘束し始めるかなといった距離で、先にオーガの方が動き出したようで、瞬く間にゴーレム達に詰め寄るとドスン!ドスン!といった鈍い音を不規則に辺りに響かせ始めた。


 何が起こったのかと敬太が目を凝らすと、送り込んだ5体合体ゴーレム達の動きがピタッと止まり、そのまま全員倒れてしまった。


「ゴーさん!」


 ゴーレムが倒れて動かなくなるなんて事は、今までに真っ二つにされてしまった時以外なかったので、直ぐにゴーさんに確認を取ると、ゴーさんはゆっくりと首を振っていた。


 階段を下り切った場所ではオーガが3体、何事も無かったかのように佇んでいる。


 考えられる事としては、打撃による衝撃でゴーレムの中の核が割られたぐらいしか思いつかない。しかも、あの一瞬で送り出した10体全部をだ。


「ゴーさん、撤退だ!急いで戻ってくれ!」


 まさか、これ程までにチカラの差があるとは思ってなかったので、敬太は全力で逃げる事にした。

 


 こうして、この日は倒されてしまったゴーレム達を回収も出来ずに、撤退していくのであった。

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