第211話 オーガ

「えっ!オーガっすか!?」


 モーブが言っていたので、「ゴーレムの核」を運んでいたサミーを捕まえて話をしてみたのだが、物凄く驚かれてしまった。


「あ、あのカンフーシューズを履いてて、プロレスの力比べの時の様に腕を上に挙げたまま襲い掛かって来るオーガっすよね?」

「そうだけど・・・やけに詳しいな」


 それは、敬太が実際に目にした時に感じた特徴を、そのまま言葉にした感じだった。


「うちも実際に見てるっすからね」

「そうなのか!それでその時はどうしたんだ?」


 流石、元冒険者と言った所だろうか。


 一度会っていて、今もサミーが生きているという事は、何かしらの対処をして生き延びたという事になるので、その対処方法を教えてもらえないかとサミーに詰め寄る。


「えっ、いいっすけど~(チラチラ)その~ちょっと小腹が空いたかな~なんて(チラチラ)思ったりするんすけどね~」

「はぁ、分かったよ・・・みんな呼んで一服しよう」


 ちょっと敬太が真剣だという事を感じたサミーは、ここぞとばかりにお菓子を要求してきた。別に頂戴と言われれば普通に渡すし、用意もするが、何故か腹が立ってしまったのは仕方が無い事だろう。


「それで、その時はどうしたんだ?」

「モグモグ・・・そうっすね―――」


 みんなで一服という事になったので、ダイニングテーブルを出し、お茶やジュースやお菓子を並べ、みんなが何かしらに手を付けたのを見計らってからサミーに話を促した。


 話によると、サミーはマシュハドの街を根城にする前にムクリムという街で活動していたらしく、そこでオーガを見たという事だった。



 ある日、ムクリムの街からそう遠くない山でオーガの目撃情報があると、街の中は蜂の巣をつついたような騒ぎになったが、冒険者、兵士、有志の住民らを領主自らがまとめ上げたので、次第に町は落ち着きを取り戻し、皆で力を合わせて退治するという事が早々に決まった。

 翌日には、討伐隊が編成され、そのまた翌朝には討伐隊は街から討って出ていった。

 当時はまだシルバーランクだったサミー達は、直接の討伐には参加出来なかったが、食料が積まれた馬車の守りというポジションで参加する事になる。


 一泊だけの行軍を終えた討伐隊は、目撃情報があった山へと辿り着き、そこから大々的に山狩りを行った。大きく4つの部隊に別れ、山の中でオーガを探して回る作戦だ。

 サミー達は一番端を行く部隊の後ろについて行き、ヴァルチャルという鳥型契約獣のパッキーを上空に飛ばして空からオーガを探すのを手伝った。


 しばらくすると、部隊の斥候役がオーガを発見したらしく、その情報を聞いたサミーはパッキーに近くまで飛んでいってもらい【通信】スキルで戦闘の様子を眺める事にした。


 大きな火魔法を上空に放ち、散らばっている他の部隊にもオーガの居場所を知らせると、それに気が付いたオーガが走って近づいて来てしまったので、そのまま戦闘が始まった。


 手始めに、遠距離攻撃が得意な弓や魔法をこれでもかって程放つが、オーガはそれらを難なく避けながら接近してくるので、仕方なく討伐隊は前衛を前に出した。


 お互いが接触すると、オーガに殴られた人間が面白い様に空を飛び始め、あっと言う間に死傷者が溢れ返る。


 前衛達は負けじと攻撃を繰り出し続けるが、こちらの攻撃は掠りもせず、陣形はすぐに崩れ出し、全体が浮足立ってしまう。


 オーガは歩みを止める事無く、人間をぶっ飛ばし続けながら本部隊に近づくと、その怪力と素早さで全てを蹂躙し始めた。


 そうして、後方にいたはずのサミー達の側までオーガがやってきてしまったのだが、あまりの凄まじさにサミー達は足が竦み動けなくなってしまっていた。


 しかし、そこで一組の冒険者PTが何処からか現れ、オーガに戦闘を仕掛けていった。彼らの首には金色の認識票がある事からゴールドランクの冒険者なのが分かった。


 颯爽と現れ、自分達よりもランクが上であるPT。そんな彼らでも簡単にオーガに殴られ吹き飛ばされてしまっていたのだが、彼らには珍しく回復役がいた為、戦線を維持する事が出来ていた。

 

 殴られては回復し、回復しては殴られ。いわばソンビ戦法の様な泥臭い戦い方だが、命を削りながらもオーガの注意を引く事に成功し、一瞬の隙を突き一人の女戦士がオーガの脇の下を切り上げ、大きなダメージを与える事が出来た。

 

 それから程なく、散らばっていた部隊からの援軍が続々と駆け付け始めたが、脇の下から大量の血を流しているオーガに先程までの精細な動きは既に無く、徐々に数の力に押し込められていき、なんとか仕留める事に成功した。


 こうして、サミーがいた部隊はほぼ全滅し、死者300名を超える大損害を出したが、オーガの討伐を成し遂げたのだった。




「なるほどな~。確かにそれぐらいはやりそうな強さだったな」

「うむ。聞きしに勝る強さじゃの」


 敬太が聞きたかった有効な戦闘方法や弱点なんかは分からなかったが、遠距離攻撃は避けられてしまうって事だけは知る事が出来た。


 後は、オーガ1体で300人もの人間を殺す事が出来てしまう化け物という事も分かった。


「サミーはどうすれば倒せると思う?」


 長い話に疲れたのか、それとも昔の仲間がいた頃の話で思い出してしまったのか、飲み物を飲んでボケっとしているサミーに問いかけた。


「いや、無理っす」

「だよな~、何かもっと凄い魔法とか、あの速いパンチを捌ける人が居ないと無理か・・・」

「そうっすね、少なくとも、うちらのPTでは無理だったっすね」

 

 思ったよりも軽い調子で話すサミー。


 吹っ切れる事ができたのだろうか?

 もう過去として清算できたのだろうか?

 

 出来る事なら前を向いていて欲しなと思う敬太であった。

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