第201話 電力不足解消

 翌日。


 連れ出したサミーと共に9階層までの罠の修復を終わらせた。

 サミーは「腰が痛いっす」だの「膝が痛いっす」だの文句を言いながらも器用な所を見せ、綺麗に電線を張ってくれていた。


 本当ならばこの後、壊されている11階層の罠へと向かいたい所なのだが、電力不足の問題が未解決のままなので、先へは電気を通さず、異常が無かった9階層までで一旦作業を中断する。


「それで、どうするっすか?」

「そうだな、ここからは『電力不足』を解消しなくちゃいけないから、モーブ達の所に戻って、そっちで作業しようか」

「はぁ、そうっすか」


 異世界人であるサミーに電気の事を言っても分からないと思うので、特に説明はしなかった。別にサミーがお馬鹿さんだからって訳では無く、敬太が電気の無い異世界で一から電気の事を説明して納得させる自信が無かったからだ。


 サミーも興味が無さそうな顔をしてるので、特に問題は無いだろう。


 9階層までは罠が修復されているので、以前と同じ様にダンジョンの中は動くモンスターがいない状態になっている。なので移動の際は【亜空間庫】からジープ取り出しダンジョンの中を走って行く。




 サミーと共にジープに乗って外へ出てくると、今日の分として新たに買っていた敷鉄板500枚の山に黙々と「ゴーレムの核」を埋め込んでいるモーブに声を掛けた。


「モーブ。あの一角にこいつらを並べたいんですけどいいですかね?」

「うむ。何かしようとして場所を空けていたんじゃろ。それを今更とやかく言うほど野暮じゃないわい」

「はは、お見通しでしたか」


 モーブが作っている畑の邪魔にならない位置で、なおかつ日が当たる場所。そんな場所を予め計算して空けておき、畑を囲う壁の縄張りをしておいたのだ。


「それが『電力不足』とやらを解決する物なんじゃな」

「そうですね。多分解決してくれると思います」


 敬太の傍らには、モーブに見せようと思い【亜空間庫】から出しておいた黒い板を抱えたアイアンゴーレムがいる。


 870mm×665mm程の大きさの黒い板。そう、ソーラーパネルだ。

 敬太はダンジョンの内の電力不足を解消するためにソーラーパネルを設置しようと考えていたのだ。


 電力自由化が決まった頃にもてはやされ、賛否両論の声があったソーラーパネル。

 結局、家に付けた方が良いのか、付けると損するのか結論が出ないまま忘れ去られてしまっていたのだが、昨今はソーラーパネルとそれに付随する機器の性能が良くなったのもあり、キャンピングカーに付けたり、キャンプの際に設置したり、または自分でカーポートの上や屋根に取り付け一部の電力補ったりと、趣味の延長として案外使われているらしい。


「別に危険な物じゃないんですが、壊されると面倒なので子供達には触らないように言っておいてもらえますか?」

「うむ。そうじゃな、伝えておこう」


 少し離れた位置で壁になったゴーレムから核を長押しして抜き出している子供達の方を見ながら、モーブに頼んでおく。簡単に壊れる事は無いと思うが念の為だ。




 久々に外で自由に歩けるのが楽しいのか、行先も分かってないであろうゴルが先頭を歩き、先程言っていた「空けた場所」へと移動していく。


 ゴルは時たまこちらを振り返ると「こっちだよ」という顔をしているのだが、何処に向かって歩いていっているのか分かっているのだろうか。


「ゴル、こっちだよ!」

「ニャー」


 結局、行きたい方向とずれると敬太が修正するのだが、当のゴルは「知ってたもん」という顔をしながら小走りし、中々先頭を譲ってくれない。


 隣を歩いているサミーはそんな様子を優しい顔で見つめていた。



 縄張りの端の位置。「空けた場所」へと到着すると、早速作業へ取り掛かる。

 あんな顔をしていたサミーにかける言葉は持ってないので、そこには触れずにおいた。


「よし!ゴーさん小屋をひとつ頼む」


 ダンジョン内での移動の時に【亜空間庫】に入ってもらっていたゴーさんと10体合体しているアイアンゴーレムを取り出し、コンテナハウスのような形をした小屋に変形してもらう。


 これは、ソーラーパネルで発電された電気をリチウムイオンバッテリーに充電する事になるのだが、そのリチウムイオンバッテリーを置いておく為の小屋になる。


「うわー!凄いっすね」


 目の前で5m程の大きさのある10体合体アイアンゴーレムがスライムのように溶けだし、徐々にコンテナハウスのような形に変形していく様は正に圧巻なので、サミーが驚いたような声を上げている。


 敬太が殺してしまったサミーの契約獣だった大きな鳥。きっとゴルの様に可愛がり大切にしていたはずだ。簡単に忘れる事なんて出来ないだろう。


 今は、おどけた感じを演じてくれているのか、それとも素で単純に驚いているのか。その胸中はサミー本人しか知る事は出来ないが、今回はそのおどけた感じに乗らせてもらう事にしよう。


「ふふふ、そうだろ?」

「いやー、ゴーレム舐めてたっす。あんなのに飲み込まれたらひとたまりもないっすね」

「・・・なるほど。悪くないな」

「へっ?」


 サミーの何気ない一言で、ゴーレムを拘束具として使う新しい道が見えた。

 役に立たないと思っていたサミーだが、たまには役に立つことも言うらしい。


「お前もたまには役に立つんだな」

「な、なんすかそれ!」


 そう敬太が冗談っぽく話すと、サミーは不満そうな顔をしているが、先程の様な寂しげな感じは無くなっていた。

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