第200話 作業開始

 突然のサミーの変わりようにモーブ共々驚いたが、暫く考えた後、結局受け入れる事にした。

 理由としてはサミーがゴールドランクPTで斥候をしていた時と比べると丸々と太っており、素早さを活かした動きが出来なくなっていて、完全に弱体化しているのが見て分かるからだった。


「お前さ、子供には手を出すなよ」


 敬太は確認の為に以前にもしたような質問をサミーにする。


「子供は守るものっす。そんな事を考える様な奴はうちが始末してやるっすよ」

「お、おう・・・」


 返ってきた答えは100点満点の答えなのだが、釈然としない気持ちになるのは何故だろうか。

 

 後部座席をバックミラー越しに見てみると、後ろに座っているモーブも苦笑いしていた。





 ダンジョンに戻ってからは、1か月後に来ると予告された追っ手を迎え撃つ為に、作業の日々が始まった。

 

 最初に手を付けたのはダンジョンの入口付近にある畑を丸ごと囲う壁作りだ。


 モーブ達が手塩にかけて耕し、広げていっている畑。


 これは、差別にあっている獣人達が隠れて暮らせるようにと、そしてそこに敬太の介入が無くても自立していけるようにと、高尚な言い訳を掲げて作ってもらっているのだが、実際のところは敬太が異世界に来れなくなっても問題が無いように保険として作ってもらっている。


 そんな訳で大事な畑となるので、荒らされないようにしっかりと囲っておきたい。


 畑の周りに余裕をもって縄張りをし、壁を作る位置を決めて行った。


「おーい!もうちょっと右!」

「こっちっすかー!」

「そうそう、ちょいちょい、はい!いいよー」


 本来ならば測量機器などを使って正確に測りたい所なのだが、今から作ろうとしている壁は大きなゴーレムともなりえる物なので、最悪動かせると思っている。なので、そこまでは慎重にならなくても良いが、出来る限り直線、直角でトラロープを張って行く。


 一辺の長さは100m~150mぐらいになっている。日差しを考え畑より少し大きめにしておこう。


 途中途中に、皆で杭を打ち込み、ロープが垂れないようにする。

 少し適当過ぎる気もするが、こんなもんで縄張りは完成とした。


「ゴーさん。皆に『ゴーレムの核』の扱いを任せたいんだけど大丈夫かな?」


 敬太は新しくネットショップで買ってきた壁の材料、敷鉄板500枚(約4,000万円)の前で、手持ちの「ゴーレムの核」を敷鉄板に押し込み新しいアイアンゴーレムを作りながら、隣でそのアイアンゴーレムに【同期】をしているミスリルゴーレムのゴーさんに話しかけた。


 ゴーさんはすぐに敬太の方に向き直るとシュタっと敬礼ポーズしてくれた。

 「ゴーレムの核」の扱いについては特にこだわりはないらしい。


 しかし、おかげでこの作業をモーブ達に引き継ぐことが出来る事になった。


「モーブ!ちょっといいですかー」


 案外凝り性な所を出し、未だに子供達と縄張りのロープをより真っ直ぐにしようと悪戦苦闘しているモーブを呼んだ。


「うむ。わしらの仕事はこっちか?」

「はい、ゴーさんの許可が出たのでこっちをお願いします」


 モーブが子供達を伴い、うず高く積まれた敷鉄板の前までやって来たので、早速やってもらいたい作業の説明をする。


 新しい敷鉄板に「ゴーレムの核」を埋め込み、壁へと変形したゴーレムの核を長押しして回収してくる。簡単な作業だ。


 本当ならば壁を作るのに必要な敷鉄板の枚数分「ゴーレムの核」があれば、一々こんな自転車操業の様に「ゴーレムの核」を取ったり付けたりしなくても良いのだが、今の所、まだそこまでの数を生み出せていないので、ここはモーブ達の手に任せなければならない。


「大丈夫そうですか?」

「うむ。これぐらいなら問題ないわい。しかし、途方もない数になりそうじゃな」

「まぁ、大きい壁になりますからね。ここはモーブ達に任せるんで、お願いします」

「うむ。分かった」


 未だに懐きもしないウサギの子リンが自分より小さい狸族の妹分、4歳児のテンシンの後ろに身を隠しながら鋭い目つきで敬太を見ている中、モーブに50個程「ゴーレムの核」を渡し、壁を作る作業を任せた。


 ちなみに、リンが11歳だという事はハイポーションを飲んで寝ている時に【鑑定】をしているので知っているが、やはり奴隷という環境が良くなかったのか現代社会の11歳とは違い、背が低く、痩せ細り年齢よりも幼く見える。


「クルルン、テンシン、リン。みんなもお願いね」

「はーい」

「は~い」

「・・・」


 仕事を頼む事になったので子供達にも声を掛けたのだが、やはりリンからの返事は貰えなかった。


 分かっている、気にしてはいけない。


「よし、じゃあサミーはこっちだ」

「えっ?うちっすか」


 敬太は気を取り直し、子供達の脇で腰の後ろに手を組み保護者面してウンウンと頷いているサミーに声を掛けた。こいつにもやってもらいたい事があるのだ。


「そう、お前は俺と一緒にダンジョンの罠の修復だ」

「はぁ・・・」


 太ったサミーは「罠」という物にピンと来なかった様で、ひとりで変な顔をしているが、敬太はそれに構わずダンジョンの中へと引きずっていった。


 今までは敬太しか出来なかった作業。


 モーブは片腕がないので細かい仕事は出来ないし、ゴーさん達も丸い手を必死に変形させて頑張って作業したが、細い電線を操る作業というのは難しいらしく、やはり出来なかった。当然、子供達には難しい。


 しかし今、両腕がある普通の人間が現れたのだ。


 少しお馬鹿さんな感じがするが、精々使い倒してやるとしよう。

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