第202話 電力不足解消2

 将来、壁が出来たら日陰になるであろう縄張りの端に、アイアンゴーレムが変形して作られた小屋がある。


 中にはリチウムイオンバッテリーの大きさに合わせて作ってもらった棚があり、そこに30個のリチウムイオンバッテリーがずらりと並べられている。

 

 ダンジョンに仕掛けた罠がどれぐらいの電気を使い、ソーラーパネルが1日でどれぐらいの電気を発電出来るのか。やってみなければ分からない事ばかりなので、とりあえずの30個だ。その為、これから数が増えても対応出来るように小屋は大きく、棚も多めに作ってもらっている。


 小屋の外にはソーラーパネルを抱えたアイアンゴーレムが30体、微動だにせず規則正しく並んでおり、太陽に向かってソーラーパネルを掲げている。

 そこから伸びている配線は纏められ、作った小屋の中のリチウムイオンバッテリーへと繋がっている。


 リチウムイオンバッテリーの先にはインバーターという四角い箱が繋がっていて、そこに電気コードを差し込めば罠や蛍光灯に電気が使えるようになるらしい。


 インバーターという謎の箱は日本語にすると逆変換装置と言うらしいのだが、やはり日本語にしても良く分からない物だった。


「それで、このコードをダンジョンの中に引っ張って行って、11階層の罠に繋げよう」

「はぁ?」


 一応サミーに、ここからの作業の流れを説明したのだが意味はなかったようだ。 




 【亜空間庫】を使える様になってからは、全ての工具や材料を持ち運べるので電気工事はかなり楽になっていた。その上、今回は「もう一本腕があったらいいのになぁ」と思える場面で使える助手のサミーがいるので、1日足らずで電気コードを11階層まで伸ばしていく作業を終える事が出来た。


 勢いそのままに電気工事を推し進めて行くと、2日後には11階層の罠の修復が完了し、そのまた2日後には13階層まで電気コードを伸ばしていって13階層の罠部屋まで作り上げる事が出来た。



「はぁ・・・これで倒せるんすねぇ・・・」


 一通り、電気の流れ通りに作業をして来たサミーが、13階層の罠の作動確認を終えた時にポツリと漏らした。


「まあな。俺らの世界だと、この『電気』を使って色々な事をしているんだ。お前の小屋の中の蛍光灯の明かりもそうだし・・・」


 ここで、敬太は電気の話をしてやろうかと思ったのだが、サミーが知っているであろう電化製品が、寝起きしている小屋の蛍光灯ぐらいしか知らないのに思い至り、説明を諦めた。


「まぁ、兎に角そうなんだ・・・」

「はぁ・・・」



 こうして、ギルド職員達が訪れ、追っ手が1か月後に来ると言われてから1週間後。ようやく敬太達も防衛施設に手を出せる状況になったのだった。



 朝、サミーを除いたメンバーで朝食を食べ、少し食休みをしたら、いつものように全員で地上へと出て行く。

 もう既にサミーの事は改札部屋に入れてもいいかなと思っているのだが、何となく言い出せず、今まで通りご飯は別々のままだ。そのうち何か機会があれば皆で話し合う時間を作ろうかと思う。



 地上へと向かう道中、まだぎこちなさが残るヨチヨチとした歩き方が目に付いたので、何となくリンの後姿を眺めていた。もちろんハイポーションを飲んで回復したばかりの頃と比べれば大分しっかりとした足取りになっているのだが、噛み千切られてしまった筋肉が完全に元に戻らなかったのか、それともバランスが悪いのか、理由は分からないがとても歩き辛そうな感じだった。


「リン、歩くの大変か?」


 敬太はリンに嫌われているのは分かっているが、一応保護者的な立場でいるつもりなので、聞く事は聞こうと話しかけた。


「・・・」

「うんとね、リンね~、上手く動かせないんだって~」


 しかし、リンは敬太の声が聞こえると、体をビクッとさせ歩みを止めてしまい、それに気が付いたテンシンが代わりに答えてくれた。


「痛くはないんだな?」

「・・・」

「痛いっていうこともあるけど~、たまにだよ~」


 またも答えはテンシン。


 医者ではないので話を聞いた所で原因は分からないけど、たまに痛いというぐらいなら重大なトラブルでは無い気がする。多分このままリハビリを続けて行けばそのうち元気になると思えた。


「それじゃ、たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん歩く練習すれば大丈夫だな」

「・・・うん」


 ちょっとビックリした。

 初めてリンが敬太に返事をしたのだ。


 それはとても小さな声だったが、年相応に幼い声で、少し嬉しそうでもあった。


 そして、その声を聞いて気が付いた。


 リンはまだ幼く、怪我をしてしまった事に不安になり、上手く歩けない事を一番気にしていたのだと。


「テンシンも手伝うよ~」

「そうだな。テンシンもお願いね」


 リンのたった一言の言葉に敬太は涙が溢れそうになり、テンシンに適当な返事を返すのが精一杯だった。


 11歳とまだ幼いのに体が動かせない程の大怪我をし、知らない所に連れて来られ、嫌いな人間が近くにいる。そして、飲めば治ると言われた薬を飲んでも、体が思う様に動かせない状態のまま日々が過ぎて行く。


 それは、どれだけ不安だっただろうか。どれ程心細い事だっただろうか。


 もっと早くに気が付き、もっと早くに「大丈夫」だと声を掛けてあげればよかった。


「リン、大丈夫だ。絶対に良くなるからな」

「・・・うん・・・ひっく・・・ひっく、うええ~ん」


 敬太はグッと奥歯を噛みしめながら膝をつき、リンを優しく抱きしめたのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ソーラーパネルについて。


ソーラーパネルを設置するには、本当はもう少し細かな部品が必要だったりするのですが、今回はあえて省いて、全体的にぼやかして書きました。


何故ならダンジョンに仕掛けた罠がどれぐらいの電気を使うのか分からなかったからです。


罠に使うのは1回○○Wで、発電量から計算すると○○Wのソーラーパネルが何枚必要で、○○ahのバッテリーが何個で、○○Wのインバーターが何個とか細かく書きたかったのですが無理でした。すいません。


なので、今回のソーラーパネルは「外に作った大きな電源」であり、今後、改札部屋にコンセントが新たに現れるまで電力が持つ電源として考えて下さい。


ご都合主義で申し訳ないのですが、今後ともよろしくお願いします。

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