第197話 話し合い

 「崖の砦」の中にいる3人の間には、何とも言えない空気が漂っていた。

 普段は事なかれ主義で、何処か距離があった敬太の啖呵に、吐いた本人も含め全員が驚いたような表情を浮かべ、時間が止まったように誰も動けなくなってしまっていたのだ。


「・・・後悔するやもしれんぞ」

「後悔ならヤムンとチャオが死んだ時からしてますよ」


 そんな中沈黙を破り、向かい合うモーブから発せられた絞り出す様な言葉に、敬太は薄笑いを浮かべながら返す。


 モーブと敬太が初めて出会った頃、子供は4人いたのだが、その内2人が追っ手の手によって殺されてしまった事があり、その時の犠牲者が今話に出て来たヤムンとチャオだった。


「・・・そうじゃな、奴らの分まで生きなければ罰があたるな」


 それは敬太にとってトラウマに近い程の衝撃をもたらした、現実世界と異世界の違いを嫌と言う程知る事になった事件だった。そして、この事件をきっかけに助けられるものなら助けたいという気持ちが強くなったのだった。


「だからモーブもそんな簡単に諦めないで下さい。迷惑だなんて思ってませんから」

「うむ。・・・感謝する」


 この時モーブの目に光るものがあったが、きっと鎧の中の敬太の目も似たような事になっていただろう。


「なんか・・・いいっすね」


 最後にサミーの呟きが聞こえた気がするが、何と答えていいか分からなかったので無視すると、再び「崖の砦」の中を歩き出した。




「ニャー」


 「崖の砦」の外に出ると、ゴルがひとりで留守番をしている4WDのジープの中で騒いでるのが見えた。


「ごめんねゴル、もうちょっと待ってて」

「ニャーーー」


 ゴルは明らかに嫌がっているのだが、今から向かい合う相手がどんな者なのかまだ分からないので、万が一戦闘になった時にゴルを守れる余裕があるのか分からない。なので、残念ながらもう少しだけお留守番をしてもらうしかないのだった。



 5体合体ゴーレムを7体程【亜空間庫】から出してから、ゴーさんに合図を送り「崖の砦」の門を開けてもらった。


 すると、ゴギギギギ・・・と辺りに金属が擦れる重たい音が響き、門がゆっくりと開いて行く。




 頭から首にかけて青みがかった金属、その他を鉄で覆われた全身鎧が、3m程あるアイアンゴーレムを7体引き連れ、傍らにはマスクとゴーグルをして槍を持ち、片腕が無い獣人と、フードを深く被り見慣れない弓を持った太った人を携えてやって来る光景は、冒険者ギルドの関係者にはどの様に映るのだろうか。


「すいません、お待たせしました」

「・・・いえ」


 そんな事を考えていた敬太だったが、その光景は思っていたよりも威圧的だったようで、ギルド職員を守る役目であろうシルバーランクPTの奴等の腰が引けているのが遠目からでも分かってしまった。


 本当は【亜空間庫】の範囲に入ったら武具を取り上げてしまおうかと思っていたのだが、相手の反応を見ているとやり過ぎな気がしてしまったので、このまま何もせずに距離を詰めて行く。


 そして、相手と5m程の距離になったのだが、冒険者達が後ろにギルド職員を庇った態勢のまま固まってしまっていたので、とても話し合いが出来るような状況では無かった。


 仕方が無いので、一瞬後ろを向き【亜空間庫】から2代目ハードシェルバッグを取り出し、空っぽのバッグの中から取り出す様に【亜空間庫】を使い、ダイニングテーブルと人数分の椅子を取り出し、席に座る様に促した。


「どうぞ、座って下さい」

「・・・はい」


 そう言って、手本を示す様にまずは敬太が席に着き、その隣にサミーが座り、モーブは2人を守る様にその後ろに立つ。そして、ゴーレム達はそのまた後ろで控えている。


 こちらの準備が整うと、ようやく向こうが動き出した。

 冒険者達の後ろに居たギルド職員の2人が「大丈夫です」と言いながら席に着き、その後ろにシルバーランクPTの面々が立っている。


「さて、では改めまして敬太です」


 相手側が少し緊張している様に見えたので、敬太の方から話を始め、名乗りと共に軽く頭を下げた。


「え~っと、冒険者ギルド職員のモモカンです。あ、あの、いきなりで申し訳ないのですが顔を見せてもらえませんか?」 


 てっきり先程バルコニーで話をしていたヤスメの方が話し相手になるのかと思っていたのだが、発言をしてきたのはその隣に座っているモモカンの方だった。

 

 このモモカンは敬太が見覚えがあった若い女の子で、ショートカットで目がクリンとしていて、こうやって近くで見てようやく思い出したが、確か冒険者ギルドで敬太の対応をしてくれた事があったはずだ。


「そうですね、分かりました」


 こうやって全身鎧を纏っていては、中身が誰だか分からないというのは当然だと思うので、敬太は迷う事無く了解し、敬礼をする様にして顔の部分のバイザーを上にあげた。その際、後ろにいるモーブが少しだけ敬太に近づいたのが分かり、それが頼もしく感じる。


「どうですか?」


 ついでに2代目ハードシェルバッグから取り出す様にして【亜空間庫】から冒険者ギルドで貰っていたカッパーランクの認識票を取り出しテーブルの上に置いた。


 それから、本人確認を望んだモモカンと目を合わせると、モモカンは大きく頷いてから認識票を手に取り、それも確認していた。


「え~っと、間違いないですヤスメ副長。カッパーランクのケイタさんです」


 最後にモモカンは小さく何度か頷いてから、ようやく敬太本人であると太鼓判を押してくれた。

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