第196話 本心
敬太が「崖の砦」にあるバルコニーに出ると、門の外に居る人達は既に警戒態勢をとっており、こちらを見上げていた。
見た目だけだと冒険者なのか、街の人なのか、まったくもって分からない。一体、何の集まりなのだろうか?
「何か御用ですか?」
高さ的に言えば優に10m以上、3階か4階ぐらいの高さにあるバルコニーからの声掛けなので、敬太は下に居る人に聞こえる様に大きな声で尋ねた。
すると、馬車の影に隠れていた女がひとり前に進み出て来て、こちらも大きな声で話し始めた。
「私は冒険者ギルドマシュハド支部、ギルド副長を務めますヤスメと申します。この度はカッパーランク冒険者ケイタに話があって参りました。こちらにケイタはいらっしゃいますでしょうか?」
なるほど。どうやら冒険者ギルド関係だったらしい。
制服を着ていないので気が付かなったが、馬車の後ろで顔だけを出している若い女は、冒険者ギルドの受付をしていた女だったはずだ。道理で見覚えがある気がした訳だな。
ちらりと後ろを伺うと、しゃがんで隠れているサミーが大きく頷いていた。
こいつも冒険者ギルド関係で間違いないと言っているのだろう。
「私がケイタです。どの様な話でしょうか?」
サミー達ゴールドランクPTが追っ手としてダンジョンに来た時から、敬太=ゴーレム使いというのはバレてると思うので、ここは堂々と名乗っておく事にした。
「・・・」
しかし、前に出て来ているヤスメという女は、敬太が名乗ると少し考える様に黙ってしまった。これは、まだ敬太がゴーレム使いではないかと疑っていた段階だったのかもしれない。
「ケイタさん・・・実はジャガ男爵様がケイタさんを雇いたいという話があるのですが・・・」
敬太が名乗った事を少し後悔し始めていた所、再びヤスメが話し始めたのだが、その話の途中で何故か尻つぼみになっていってしまった。
「あ~。ちょっとそっちに行くので待ってて下さい」
その様子から、何か込み入った話があるのではないかと思い、大声を出して話し続けるのも面倒だなと思った敬太は、下に降りて行く事にした。
バルコニーから引っ込み、「崖の砦」の中に戻ると、直ぐにサミーが話し始めた。
「冒険者ギルドのヤスメ副長と職員のモモカン。それにシルバーランクPTの『風の団』が5人っすね」
それは思っていたより大きな情報で、役立たずのサミーにしては上出来な話だった。
「『風の団』は斥候系の連中が集まっているPTなので覚えていたっす。うちの元PTよりは弱いっすけど、安定して依頼を熟す様な奴等っす。後、ヤスメ副長は元プラチナランクだったという噂があるっす。本当かどうかは知らないっすけど、強い感じはするっすね」
「へぇ~、よく知ってるんだな」
「そりゃ、マシュハド一のゴールドランクPTだったっすからね。冒険者関係ならまかせて欲しいっす」
「そうか・・・もう一人の女の職員は?」
「ああ、モモカンっすね。彼女は単なる事務員っす。戦闘経験はあんまり無いと思うっすよ」
なんだか急にペラペラと喋り出したサミーが気持ち悪いが、有用な情報なのでしっかりと吐いてもらった。
ヤスメ副長というプラチナランクの腕前がどれ程の物かは分からないが、現役ではないし、今回はハイポーションも持って来ているので、即死しない限り何とかなるのではないかと思っている。
「ケイタ、ジャガ男爵なんじゃが・・・」
その後、「崖の砦」内を移動していると、今度はモーブが話し始めた。
「実は、わしらが逃げ出してきた鉱山がそのジャガ男爵が治める所だったのじゃ。だから今回はわしら絡みかもしれん」
「そうだったんですか・・・」
「うむ。なので、もし何かあった時はわしを差し出すんじゃぞ」
「何を言ってるん・・・」
「いいんじゃ。ここまでケイタの世話になり、その上迷惑をかける様な事になってしまったら、わしが耐えられんのじゃ」
「そんな、今更迷惑だなんて・・・」
「ケイタ!貴族というものはわしらの命なぞ何とも思っとらん連中じゃ。体裁を重んじる貴族に目を付けられれば冒険者を送り込むだけでは無く、金に物を言わせて兵隊をも送り込んで来るかもしれんのじゃぞ。それこそ一国と戦争をすようなものじゃ。いくらケイタがゴーレムを使えようと、数のチカラには勝てんのじゃぞ」
確かに、十人や百人ぐらいならば敬太ひとりでも対応出来るだろうが、それが千人万人となってしまうとどうだろう。十万人百万人、最早想像すらつかない。
しかし、モーブはそれぐらいの可能性が貴族にはあると言っているのだろう。それが回避できるのならば自分の命など安い物だと。
敬太はモーブの言う通りだといわんばかりに肩を落とし、歩みを止めると、グルリと振り返った。
その眼にはチカラが無く、全てを受け入れた様な顔をしている。だが、敬太の腹の底からはまた別の感情が湧き上がって来ており、頭で理解するより前に勝手に口が動いてしまった。
「モーブ・・・モーブこそ舐めんじゃねえぞ!俺はモーブの事もクルルンやテンシンの事もリンの事も、みんな家族だと思っているんだ!それぐらいで命がどうとか言ってるんじゃねぇ!そういうのはもっとしっかり足掻いてからにしろ!」
勢い任せに口を衝いたのは敬太自身も驚く程の言葉だった。
しかしそれは、普段から心の底で思っている本当の言葉だったのだろう。
いざとなったら改札部屋に籠ればいいし、ダンジョンを捨てる事になってしまってもモーブの命の為なら惜しくはない。既に、自然とそう考えられるぐらいにモーブ達の事は大事に思っていたのだ。
何十万の人達が攻め込んで来ようと、まだまだゴーレム達にも可能性はあるし、やり様によっては跳ね返せる可能性もある気がする。
命を諦めるなんてのは、その全てがダメになってからでいいだろう。
これが、現実世界で全てを諦め、それでも必死に生きて来た敬太の本心だった。
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