第195話 崖の砦

「モーブ!崖の外に人が来ているみたいです」

「うむ。また追っ手か?」

「いや、分かりません。今のところ『崖の砦』の前で馬車を止めて休んでる感じなので、ちょっと様子を見て来ます」


 敬太はダンジョンの中から4DWのジープで乗り付けたまま、窓を開けてモーブと話していた。

 

 モーブは畝を作った畑の様な場所でクワを握っており、傍らにはその手伝いをしていたであろうクルルンがいる。

 妹分のテンシンは畑の端で、先日ハイポーションを飲んで治ったばかりのウサギの子、リンの手を引き、歩行訓練みたいな事をしていた。


「うむ。そうか・・・ケイタ、わしも乗せてってくれ」

「・・・分かりました。お願いします」


 敬太は子供達にも1体ずつ付いてる連絡係兼護衛係のアイアンゴーレムを見てから返事をした。モーブには子供達の世話をとも考えたが、やはり一緒の来てもらった方が心強い。


「クルルン、テンシン、あとリンも。何かあったらゴーレムが教えてくれるから、ちゃんと言う事を聞くんだよ」

「分かったよおっちゃん」

「わかった~」

「・・・」


 モーブが体の泥を払いながら後部座席に乗り込んでいる間に子供達に話をすると、クルルンとテンシンは素直に返事をしてくれたが、リンは相変わらずの無言だった。


 ハイポーションを飲んで怪我が治ったリンは、起き上がれるようになってから一度だけ、モーブに促されて敬太にお礼を言ってくれた事があったのだが、それ以来口をきいてくれていない。根深い人間嫌いという理由があるらしいので気にしてはいないが、クルルンとテンシンが元気で素直なだけに少し寂しく感じてしまう。


 こればっかりは、言って聞かせるものでもないので、時間が解決してくれる事を待つしかないのだろう。


「何となく向こうは様子見な感じもするんですが、まぁ、いざとなったらこいつも使って何とかしてきましょう」

「うむ。そうじゃな」

「こいつって何すか!」


 こうして、敬太が用意出来る最大の戦力を揃えると、ダンジョンから出発して行くのだった。





「ふごごごごーーー」

「おい、起きろ」

「んあ!ご飯すか?」

「寝惚けんな、着いたんだよ」


 ダンジョンを出てから、ひたすら車を走らせる事3時間。

 ようやく「崖の砦」に到着した。


 車に乗った当初はわーわー独りで騒いでいたサミーも、時間が経つにつれ飽きて来たのか、強請ったドーナツを食べると早々に鼾をかいて寝てしまっていた。


「うわっ!何すかこれ。うちらが来た時には無かったっすよね?」

「うむ。これは大きいのう」


 しかし、車から降り、目の前に立ち塞がる「崖の砦」を見上げると、途端にひとりで騒ぎ出していた。

 何気に初めて見る事になったモーブも、その大きさに目を見張っている。


 アイアンゴーレムを55体も使って作り上げた「崖の砦」。

 25体でダンジョン入口の門と同じ厚みの門を作り、残りの30体で崩れた崖を塞ぐようにして作ったのだが、ゴーレムを隠して置ける部屋を作ったり、来訪者を迎える部屋やバルコニーの様な物を作ったりしていたら、いつの間にか大きな建物となってしまい、やぐら門というのだろうか、建物の1階部分に門があるようなものが出来上がってしまっていたのだ。


「向こうは7人ですね。とりあえず中に入りましょう」


 敬太は自分で作った物なので特に感想は無く、冷静に【探索】を使って相手方の動きを見ていた。


「ゴーさん、開けて」

「おぉ・・・」

「凄いっす・・・」


 ゴーさんに門の方では無く、門の建物に続く扉の方を開けてもらう。

 この「崖の砦」は大きな建造物なのだが、ゴーレムの塊でもあるので、扉を動かして貰う事など朝飯前なのだが、自動扉を知らない異世界人にとっては驚くべき事だったらしく、付いて来た2人は揃って口を開けていた。


 一応ダンジョン入口の門も同じように開け閉め出来るのだが、モーブは見た事がなかったのだろうか?




「それで、どうするっすか?」

「うん。最初に俺が矢面に立って話を聞いてみるから、二人は見つからない様に話だけ聞いてて。それで、話にならない様だったら一気に皆で攻めて制圧しちゃおう」

「出来るっすか?」

「まぁ、サミー達に通用したんだから出来ると思うよ」

「そ、そうっすね・・・」


 敬太達は建物の中に入り、最後の打ち合わせをしていた。


 敬太が考えを述べると、皆がそれに頷いたので、それぞれに催涙スプレーとスタンガンを渡し、それからモーブにはミスリルの槍を、サミーにはクロスボウを渡しておいた。

 いまいち信用しきれない態度のサミーだが、車で居眠りするような奴を警戒しすぎるのもどうかと思い、モーブに一言相談してから渡しておいた。


 弓が得意だと言っていたサミーは渡されたクロスボウを楽しそうにいじっている。


「撃てそうか?」

「余裕っす。連射は出来なそうっすが、威力はありそうなので問題ないっす」

「モーブは大丈夫ですか?」

「うむ。槍は満足に扱えんが、コレがあれば何とかなるじゃろ」


 モーブは渡した催涙スプレーを見せながら答えた。


「よし、それじゃあ行きましょうか。ゴーさんセット!」


 最後に敬太がゴーレムの鎧を纏い、バルコニーへと続く扉を開け放ったのだった。

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