第194話 停電

「ヨシオ!電力不足って本当か?」

「当たり前だシン。『コンセント』ひとつでバカスカ電気を使っておいて、何で大丈夫だと思っていただシンか。危うくヨっちゃんも巻き込まれる所だったシンよ」

「うっ・・・それは悪かったな」


 確かに、筒型スピーカーのヨシオが言う通り、敬太は何も考えずにダンジョン内に蛍光灯を無数に取り付け、電気柵の罠をホイホイと増やしてしまっていた。不思議な異世界というのが頭の何処かにあったからなのか、普段なら気を付ける様な事だったのだが、今まで消費電力なんてまったく気にしていなかった。その為、一般家庭で言うと電子レンジを使いながらドライヤーを使った時みたいにバチンとブレーカーが落ちてしまった感じになってしまったのだろう。


 まぁだが、ここで停電の原因が分かったのは僥倖だった。

 本来ならば、断線だったのか、漏電だったのか、電力不足だったのか。停電に至った原因を追究する膨大な作業があったのだが、それらが解消できたのは大きい。


「えっと、それじゃあ『コンセント』を増やせばいいのかな?」

「そうだシン」


 電力不足という原因が分かったのだから、その解消法は簡単だった。その分供給を増やしてやればいいだけだ。


「その『コンセント』は、いつ頃『レベルアップボーナス』に出てくるの?」

「それは教えられないだシン」


 改札部屋に増えていったデリバリー付きのテーブルや自動取得が付いた物置みたいに、不思議なチカラで電力が供給されている謎多き「コンセント」。「レベルアップボーナス」で手に入れる事が出来るもので、買ったり作ったりで増やす事が出来ない類のものになる。なので、一応ヨシオにお伺いを立ててみたのだが、案の定ガードが固く、にべもなく一刀両断にされてしまった。


 次に「コンセント」を増やす事が出来るのはいつになるかは分からない、という事が分かったって所だろうか。


 教えられないというヨシオの返答によって、今後の大まかな方針が決まる。


 消費電力を抑えるか、別の電源を作るか。そんな所だろう。


「・・・えっと、モーブ達はお昼ご飯食べました?」

「うむ。わしらは適当に済ませたぞ」

「そうですか、それじゃ特に問題は無かったみたいなので、自由にしてもらって大丈夫ですよ」

「うむ。そうか、それでは畑に行ってくるとしよう」

「あっ、ダンジョンの中は暗いままなのでライトを持って行った方がいいですよ」

「うむ。それではそこのを2つ3つ借りて行くぞ」


 ヨシオにはこれ以上の情報はないと感じ、モーブ達に話を振ってみると、モーブ達はモーブ達で異世界人にはよく分からない「電力不足」という言葉で、改札部屋に留められていたのがそれなりに不満だったようで、敬太が声を掛けるとさっさと準備を始め、この間ハイポーションを飲んで歩けるようになったウサギの子のリンも引き連れて、全員で改札部屋を出て行ってしまった。


「はぁ~」

「ニャー」


 そうして、一人と一匹残された敬太とゴルは、随分と遅くなってしまったお昼ご飯を食べ始めるのであった。





 それから1週間後。


 停電になってしまった為に、リポップしたモンスター達によって内側から破壊されてしまった各階層の罠部屋を、独りでシコシコ直していると、不意にゴーさんから【通信】が入ってきた。


 伝わって来たイメージを見ると、どうやら「崖の砦」に人が来ているらしい。


 ダンジョンの入口を中心に、広大な「呪いの森」を取り囲む様に聳え立つ崖があり、その一部が崩れてしまっていた場所に、アイアンゴーレム達で作った門と呼ぶには大きすぎる、砦の様なものがある。それは、鉄で出来た構造物に見えるのだが、アイアンゴーレム達が集まり、変形した物なので、呼び鈴要らずの高性能な識別機能が付いた自動扉となっているのだ。


 知らせを聞いた敬太は、9階層まで進んでいた復旧作業の手を止め、改札部屋の方へと戻って行く。



「おい、仕事だ!」

「な、なんすか、藪から棒に」


 「崖の砦」のゴーレムから伝わるイメージを見ると、何となく見知った顔があった様な気がするので、それに詳しいであろう元ゴールドランクPTのサミーを連れて行こうと、改札部屋の扉の側にある小屋へとやって来ていた。


「いいから、多分マシュハドの街の人が来てるみたいなんだ」

「え?誰が来てるんすか?」

「知らん。それを確認する為にも、お前は付いて来い」

「そうすか。まぁ、いいっすけど・・・」

「ほら、さっさと着替えて準備してくれ」


 サミーの扱いは、かなり雑になっている自覚があるが、別に辞めようとも思わない。


 敬太の拠点としているダンジョンに、追っ手としてやって来たゴールドランクPTを返り討ちにし、その際、情報や「尊師の聖水」というダンジョンのアイテムの実験の為、それに下心もあって、唯一生き残されたがサミーだった。

 そのサミーは「尊師の聖水」を飲ませてみたのだが、大した情報を吐かず、言う事もあまり聞かないままだったので、段々とご飯を与えるだけの存在となってしまい、挙句そのご飯に注文を付け始めた頃から、敬太の中ではどうでもいい存在となってしまっていた。

 最近では誰よりもご飯を食べ、ダンジョンに来た頃よりも一回りは大きくなってしまっている。


「おやつは、あの茶色い輪っかがいいっすね」

「あぁ・・・ドーナツね・・・分かったよ。早く準備してくれ・・・」


 高ランク冒険者だったからなのか、それとも元々逞しい性格なのか、あっと言う間に監禁生活に慣れ、逆に楽しんでる節さえあった。


 「これキツイっすね」と言いながらパツパツになってしまった服を着ながら外に出て来たサミーを伴い、4WDのジープに乗ってダンジョン内を走って行ったのだった。

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