第193話 電気

 時刻は午前3時50分。

 敬太は11階層の右奥の部屋の前にいた。


 3日前に13階層まで進み、ハイポーションを手に入れて一段落つける状況になったので、新しく罠を仕掛けるべく電気工事おじさんに戻り、9階層から電気を通し蛍光灯を取り付けていき、昨日11階層の罠が完成したので、今日はその罠がちゃんと作動するか確認する為に来ていた。


「ニャー」


 敬太は地べたに胡坐をかき、股の間に入って来たゴルを撫でながら朝の4時が来るのをジッと待つ。


 10階層以降も罠を仕掛けられる階層の法則は同じだったようで、奇数階は罠を仕掛ける事ができ、偶数階はモンスターがあちこちにリポップしてしまうので罠が仕掛けられないようになっていた。なので、4時になり目の前の部屋に仕掛けた罠が正常に作動したのを確認したら、今日はこのまま13階層に罠を仕掛けに行く予定になっている。


 スマホの時計を確認すると3時59分になっていた。そろそろ時間の様だ。


「ん!」


 しかし、ここで敬太は思わず声をあげてしまった。

 何故なら11階層に取り付けた蛍光灯が突然、全部消灯してしまったからだ。

 辺りは真っ暗になってしまい、暗視スキル【梟の目】が働き出す。


 ダンジョンに来て「レベルアップボーナス」でコンセントを出してから、ずっと罠を設置し蛍光灯を付けていたのだが、こんな風に電気が消えてしまう事は初めてだったので、かなり動揺してしまう。


 原因を考えてみるが、断線なのか、漏電なのか、電気の使いすぎなのか、それとも単にコンセントが抜けてしまったのか、この場では特定する事が出来ない。


「グォーーー!」 


 敬太がそんな事を考えていると、目の前の部屋の中から11階層のモンスター、カンガルーの鳴き声が聞こえて来た。それと一緒に中で暴れる様な物音も聞こえる。


「ゴーさん、セット!」


 敬太はすぐに【亜空間庫】からゴーさんとゴーレム達を取り出し、暴れるカンガルーに対応をする準備をした。ゴーさんには鎧に変形してもらい、ゴーレム達は5体合体になってもらう。


 11階層の罠部屋の扉はアイアンゴーレムに変形してもらい「ゴーレムの核」を抜いた特別性なので、中のモンスターが暴れたぐらいではビクともしない。


 敬太は中の様子を伺いながら閂を外し、扉を開いていく。

 そして、素早く部屋の中を確認すると、罠として張り巡らせた電線が滅茶苦茶になっており、電線に絡まったカンガルー達が地面で藻掻いているのが目に入った。


「くそっ!」


 それらの電線は敬太が2日がかりで罠として張り巡らした物だったのだ。思わず悪態をついてしまうのも仕方が無い事だろう。


 敬太は5体合体ゴーレム達と部屋の中に入り、ミスリルの槍を使ってカンガルー達を殲滅していった。




「ゴル、行くよ」

「ニャー」


 カンガルー達を倒し終えると、破壊された罠の残骸を片付けもせずに部屋から出ていく。何だか嫌な予感がしてたまらないのだ。


 敬太は5体合体ゴーレム達を引き連れて、ダンジョンの中を歩いていった。



 

 11階層からボス部屋を通り抜け、9階層まで戻って来た。

 この階層も蛍光灯が消えている。


 罠が仕掛けられる奇数階なので、何もいないダンジョンを歩き、いつもの様に罠部屋の前までやって来ると、中から何か削る様な音が聞こえて来た。

 嫌な予感とは当たるものらしく、電気が来てない罠部屋はその役割を果たせていなかったようだ。


 9階層のモンスターはモールという大きなもぐらだ。

 ゴーレム達と部屋の中に入ると、ガリガリと大きな爪で敬太が作ったコンクリートレンガの壁を削っていた。しかし、壁は三重構造で作っていた為、破られるまでには至って無く、罠の電線は切断されモール達は自由に歩き回っているが、何とか閉じ込める部屋という体制は保っていた。

 

 モール自体の動きは大した事ないが、その大きな爪にはチカラがあり、また身を守る盾の様な役割もしていて、中々厄介な奴だったのを思い出す。

 木刀時代にモーブと共闘し、ひぃひぃ言いながら大きな爪から逃げ回り、何とか倒していたものだ。


 だが、今や木刀時代とは違い戦力は上がっている。装備はミスリル製になり、ゴーさんの鎧を纏い、5体合体ゴーレム達を引き連れている。


 5体合体ゴーレム達に阻まれ、押さえつけられ、身動きが取れなくなっているモールにミスリルの槍を繰り出せば、大きな爪もろとも砕いて行く事が出来た。




「ただいまー」

「おっちゃん」

「おかえり~」

「うむ。戻ったか」

「・・・」


 その後、偶数階のモンスターを殲滅させ、奇数階の罠部屋を見て来たのだが、全ての階層で電気が止まっており、1階層以外は罠が破壊されてしまっていた。その為、罠部屋の中のモンスターも始末してきたので、いつもより大分遅くなってから改札部屋に戻って来たのだが、モーブ達は揃って出迎えてくれた。


「ここは、明るいままだったんですね」

「うむ。この部屋の中は変わりなかったのじゃが『電力不足』とかいうものでダンジョンの中は真っ暗になってしまったな。わしじゃと、その『電力不足』っていうものが何なのか理解出来んかったが、ケイタは何か分かるか?」

「『電力不足』が原因だったんですね・・・って、どうしてモーブがそんな事を・・・」


 改札部屋の中はいつも通りの様子で、天井に開いている拳大の丸い穴から明かりが差し込んで来ていて、ATMの待機画面も普通に映っている。改札機の緑の矢印も点灯しているし、変わった所は見当たらない。


 モーブ達は部屋から出て見て、そこで初めて電気が消えている事に気が付き、改札部屋に籠る事になったのだろう。そして、「電力不足」という単語がモーブの口から出て来たことを考えると、「ダンジョン端末機ヨシオ」に何かしら事情を聞いたのだろう。

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