第181話 他力本願4

「いいんですか?」

「うむ。子供らでも役に立つならば使ってやってくれ。小さなチカラしかないかもしれんが、土壇場で身を助けるのは、その小さなチカラって事もあろう」

「やらせてー!」

「やる~?」


 確かにモーブが言う事も一理あるし、何よりも子供達が自主的に言い出してくれた事が嬉しい。


「それじゃあ、お願いしようかな」

「はーい」

「は~い」


 元気よく返事をしてくれた2人に【鑑定】をかけ、元の状態を記憶しておく。



『鑑定』

クルルン(犬族)男 5歳

レベル  6

HP  28/28

MP   4/4


『鑑定』

テンシン(狸族)女 4歳

レベル  3

HP  19/19

MP   3/3



 さすがに子供なのでステータスは低いが、それでも嬉しい。


「はい、じゃクルルンから」

「はーい」


 子供達の背では、ATMの画面の高さまで届かないので、後ろから敬太が抱え上げて、画面に手が届くようにしてやる。


 クルルンが懸命に伸ばした手がATMの画面に触れると、また敬太に糸が繋がった感覚がした。念の為、こっそりとクルルンの顔を盗み見たが、楽しそうにしている顔に変わりはなかったので、不具合は無かったのだろうと判断した。


 同じようにテンシンも抱え上げ、画面に触ってもらい、最後に【鑑定】で2人のステータスを見たが、数値に変化は見られなかった。


 きっとこの糸が繋がる感覚は仕様なのだろうとひとりで納得する事にした。


「クルルン、テンシン。ありがとね。凄く助かったよ」

「えへへ」

「は~い」


 自ら申し出、敬太を助けようとしてくれた子供達には少し大げさにお礼を言い、たっぷりと頭を撫でてあげた。

 2人合わせて敬太の最大MPは更に9上がり、モーブと比べてしまうと微々たるものなのだが、おかげで最大MPは合計で118となっていた。


「ニャー」


 敬太は最大MPがドンと増えたので機嫌が良く、みんなで仲良くワチャワチャしてると、後ろから「ゴルもー」と言う訴えが聞こえて来た。


「あはは、ゴルもやるのか?そ~れ」

「ニャーン」


 敬太の足元にすり寄って来たゴルを抱え上げ、ATMの画面の前に冗談で持って行くと、ゴルは理解しているのか自分から前脚をテシっと画面にくっ付けた。


 すると敬太に糸が繋がる感覚がした。


「えっ?」

「ニャー」


 驚いた敬太は、抱えているゴルを抱き直し、真っ直ぐに目を見つめてやると、ゴルは満足そうに「ニャ」っと一鳴きした。



『鑑定』

ゴル(ゴルベ)オス 1歳

レベル  16

HP  35/35

MP  16/16



 一応ゴルも鑑定するが、元のステータスが分からないので、変化したかどうかが分からない。ちょっと心配したが、当の本人は嬉しそうにしているので、問題は無さそうなのだが・・・まぁいいか。


 結局、敬太の最大MPは更に増え、合計で134になっていた。



 ちなみに、ゴルが出来るならゴーさんもと思い、後でこっそりと試したが、流石にゴーさんではダメだった。





 

「明日は、あのラーメンとかいうやつがいいっすね」

「あっ・・・そう」

「しかし、このしょうが焼きってのも美味いっすね~モグモグ」

「そうですか・・・」


 敬太は、子供達が寝てから、改札部屋の近くの小屋で捕えているサミーの世話をしにやって来ていた。毎日のご飯は当然なのだが、2日に1回は大きなタライにお湯を張り、頭と体を洗わせたりもしている。結構面倒なのだが、敬太が汚れているのが嫌なので仕方が無い。


 ダンジョンの入口の門と崖の門が完成してからは、逃げる事が出来ないだろうと、足に付けていた手錠は外し、スウェットだが服も着せている。ただ、まだ手首の手錠は付けたままにしていた。なんだかんだ言ってもサミーはレベルが56もあり、敬太とモーブよりも高いのだ。暴れられてもモーブと2人がかりなら抑えられるかもしれないが、子供を人質にでも取られてしまったらお手上げになってしまうだろう。


 最早、何のために捕らえ、活かしてるのか分からなくなりつつあるが、今更どうする事も出来ない。何もかもタイミングを逃してしまった気がする。

 改札部屋のデリバリーから出てきた現実世界の美味しいご飯を食べて、1日ゴロゴロとしているらしいサミーは、顔をふっくらとさせ、捕えた時より元気そうだから困る。


「サミー。お前レベル56あるんだよな?」

「モグモグ・・・えっと確かそんなもんすっね」


 ギフトの「他力本願」を知っていると、なかなかに勿体無い素材に感じてしまう。


「俺の言う事をちゃんと聞いてくれたら、ここから出してもいいんだぞ」

「え~~~。何処に行けって言うんすか?仕事をへましたウチが今更帰れる場所なんて無いっすよ。モグモグ・・・」


 毎日3食の食事が与えられ、空いた時間はゴロゴロしていればいい生活。

 何だか、味を占めて居座っている感さえある。


「お前さ、子供には手を出さないよな?」


 もう、出て行って欲しいまである敬太は、毎日の世話が面倒なので、ダンジョン内で勝手に生活して欲しいのもあるし、「他力本願」に協力して欲しいのもあり、とりあえず、この小屋から出せるかどうか、鍵になるであろう子供達の事を聞いてみた。


「モグモグ・・・どうっすかね・・・モグモグ」


 子供の事を聞かれたサミーは、チラリと敬太の表情を盗み見てから、ニヤっと口の端を上げて答えた。


 これはあれだ。子供達に手を出すって事じゃない。前にサミーとは「正義」について話した事があるが、真面目に「正義」なんて口にする奴は、狂ってるかアホなだけだ。サミーはもちろん後者だが。だが、曲がりなりにも「正義」を掲げるならば弱い者、最低でも子供には手を出さないと思う。なので、あのニヤけた答えは、「小屋から出せなくさせたろ」っていう魂胆だと思う。ニートまっしぐらですか・・・。


「そうか・・・」


 敬太は酷く疲れた気分になり、何とか一言だけ返すと、さっさと改札部屋へと帰って行った。

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