第180話 他力本願3
現実世界に戻った敬太は、隣駅にある中古車屋に真っ直ぐ向かった。
前回、事故処理の話し合いに行った時に、欲しい軽トラの条件を言ってあったので、店員さんがピックアップしてくれていた数台の軽トラの中から選んだだけで、直ぐに本契約に移っていく事が出来た。
敬太は【亜空間庫】の中に印鑑やら住民票やらと、契約に必要な物を入れっぱなしにしているのでその辺の問題はなかった。
過失が100対0に近い追突事故の被害者でも、車が廃車となってしまうと、同等の新しい車が買える程、保険金が出ないと聞いていたのだが、
ダンジョンに罠を仕掛け、毎日リポップしたモンスターを狩っているので、1日に700万円ぐらい稼いでいる敬太だが、元が貧乏で更に性格も貧乏性なので、車の支払いが保険金で済むとなったのは嬉しく、昼食包にお礼の電話でもしようかと思ったが、それは違う様な気がしたので止めておいた。
数枚の書類に名前と判を機械的に押していき、出されたコーヒーを飲み終える頃には契約書作りは終わり、軽トラは3,4日の間には納車出来る様にしておくとの事だった。
帰宅ラッシュの時間の電車に乗り、改札部屋へと戻ってくると、モーブ達は既に帰って来ていた。出掛けにテーブルに置いていったローストビーフサンドが見当たらないので、ちゃんと夕食として食べたのだろう。
敬太もお腹が空いていたのでデリバリーで牛丼を頼み、今日手に入れたギフト「他力本願」の説明をモーブにしながら、急いで飯を搔き込んだ。
「うん。だから、モーブに協力して欲しいんですよ」
「うむ。それぐらいなら構わんぞ」
一通り、敬太が知る限りの「他力本願」についての説明をすると、モーブは何の躊躇いも無く、快く引き受けてくれた。
牛丼を食べ終えた器を、テーブルに付いているデリバリーの白い箱に戻したら、早速、「他力本願」の手続きに入る事にする。
協力者にATMの画面に触れさせる必要があるので、先にATMの画面を見てみると、待機画面に「ギフト」と言う新しい項目が増えてた。
チャージ お引き出し
スキル ネットショップ
魔法 デリバリー
ギフト
新しい授かりものには、新しい項目か。
ギフトの項目にタッチすると、他力本願と出てきて、そこもタッチして画面を進めると、手の形をした枠が出て来た。なるほど、ここに触れさせればいい訳か。
「モーブ。早速だけど、ここに手を付けてもらえますか?」
「うむ。分かった」
テーブルに座り、敬太の姿を目で追っていたモーブは直ぐに立ち上がり、ATMの前までやって来た。
「ここじゃな?」
「そうです・・・あっ!ちょっと待って下さい」
「うむ。なんじゃ?」
「あ、どれぐらいMPが増えるのか確認しようかと思って・・・【鑑定】」
『鑑定』
森田 敬太 38歳
レベル 30
HP 70/70
MP 4/60
スキル 鑑定LV3 探索LV3 強打LV4 剛打LV3 通牙LV3
転牙LV2 連刃LV2 タールベルクLV1 石心LV2 鉄心LV1
瞬歩LV3 剛力LV3 金剛力LV1
見切りLV3 梟の目⋯
魔法 クイックLV1 土玉LV4 亜空間庫LV3 火玉LV2 風玉LV1
ギフト 他力本願
契約獣 ゴル(コンビ)
『鑑定』
モーブ(猪族)男 52歳
レベル 49
HP 157/157
MP 24/24
なるほど。鑑定のレベルが3に上がったからか、モーブのレベル以外にもHPやMPも見れるようになっている。
さあ、このステータスのモーブが協力してくれると、どうなるんだろうか。
「それじゃ、モーブお願いします。画面に触ってみて下さい」
「うむ」
【鑑定】が終わったのでモーブを促すと、片方しか無い左手をすっと伸ばし画面に手の平を付けた。すると見えない糸がモーブから伸びてきて、敬太の体に繋がった様な感覚があった。
「あっ!」
「うむ?どうした、これでいいのか?」
しかし、どうやらモーブの方は何も感じなかった様で、敬太が糸が繋がった感覚に驚いていると、それに釣られる様にして敬太に顔を向けて来た。
「はい、多分。これで良いと思います。ありがとうございました」
「うむ。そうか」
「モーブは何かありませんでしたか?」
「うむ。・・・何も無かったぞ」
敬太はモーブに影響が無かったか顔色を確認したのだが、モーブは画面に触れた手を見つめ、首を傾げていた。
ATMでギフトを得た時に頭に流れ込んできた知識でも問題ないとあったし、ダンジョン端末機ヨシオの説明でも、協力者に影響は無いとなっていたので心配はしてないが、初めての事なので慎重になってしまう。
直ぐにモーブの方から【鑑定】をかけ、ステータスが減ってないか確認をしたが、さっき見た数値と変わりは無く、問題は無さそうだった。
次に自分のステータスを見る。すると、驚くことに最大MPが49も増えていて、109となっていた。予想以上の増え方だ。
どうやら、与えられた「他力本願」の知識に、「レベルに応じて」との一文があったのだが、それはレベル49なら最大MPが49増えるって事だったようだ。
「す、凄いです・・・。一気に最大MPが49も増えました」
「うむ。それは凄いのう」
「モーブは気持ち悪いとか、ダルいとか、本当に何も不調はないですか?」
「うむ。・・・いや、特に何もない。いつも通りじゃぞ」
ちょっと予想以上のMPの増え方だったので、もう一度モーブに異変はないか聞いてみたが、モーブは少し首や肩を回したりしてから、自分に問いかける様に時間を取ってから、やっぱり何もないとの答えが返って来た。
モーブは嘘を言う様な性格では無いので、本当に何も無いのだろう。
しかし、相手に不都合は無いのに、これだけのチカラが得られてしまうギフト。
上限は無く、人のレベルの数だけMPを増やせるとか最強じゃないか?
「モーブ、ありがとうございました」
「うむ。役に立てたなら良かった」
「オレもやってみたい!」
「テンシンもやる~?」
ATMの前でモーブに改めてお礼をしていると、何故か子供達から声がかかった。
一瞬、「何言ってんだよ」と思ったが、子供達も改札部屋に入れる数少ない人なので、協力してくれるなら、ありがたいかもしれない。
敬太は、伺う様にモーブの方を見ると、モーブは黙って頷いていた。
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