第179話 他力本願2

 モーブ達は、まだ外から帰って来てないので、初めてのギフトにテンションが上がった敬太は、傍にあったヨシオに話しかけていた。


「ヨシオ、『他力本願』ってギフトが当たったよ」

「良いのが当たっただシンな」

「そうなの?これって良い奴なの?」

「そうだシン。かなり使えるギフトだシン」


 確かに最大MPがいくらか増えれば、1日に作れる「ゴーレムの核」の数も増えるし、魔法やスキルも、もう少し気楽に使えるだろう。それらは直ぐに思いつく良い点だった。


 だが、言ってもその程度なので、敬太の中ではそこまで評価は高くなく「まぁまぁ使える」って感じだったのだが、ヨシオは「かなり使える」と評しているのが気になった。 


 あの画面の中をグルグルと回っていた沢山の文字の中から選ばれたギフト。そのいくつもあった文字の中で、「他力本願」とはどれぐらいのランクの物なのか気になるのはしょうがない事だろう。


「かなり使える?」

「そうだシンよ。なんせ上限が無いだシン。10人協力してくれれば10人分、100人協力してくれれば100人分の最大MPが上がるだシン」

「え?・・・あっ」

「それに、この世界には奴隷という身分のお金で買える人達がいるだシン。人を集めるって事がかなりイージーになっているだシン」


 なるほど。奴隷云々の話は置いといて、上限無しってのは凄いかもしれない。

 例えば1人につき最大MPが1上がったとして、1,000人に協力してもらえれば最大MPが1,000も上がるって事になるのだ。


 ただ、この改札部屋に入ってもらって、ATMに触れさせるって事のハードルが凄く高い。なんせ改札部屋へは、敬太が「入っていいよ」と思わなければ、入る事が出来ないし、また、ダンジョン側からは改札部屋の扉さえ見えないと言う最強の守りなのだ。

 一度部屋に入れてしまったら敬太達を守る最後の砦が無くなってしまうので、人選はしっかりやらないと、寝首を搔かれてしまうだろう。


「なるほどね、参考になったよ」

「それは良かっただシン」


 まぁ、焦って考えても仕方がない。そこそこ使える良いギフトだって事は分かった。落ち着いてから、出来る範囲でやって行けばいい事だろう。




 さて、もう一つの「レベルアップボーナス」を忘れては行けない。敬太が選んだオートリペアショップの方はどんな感じになっているのだろうか。


 期待を込めて、改札部屋から繋がっているガーレージのドアを開けると、そこそこ広かったガレージが更に広くなっていた。

 何もない駐車場の様な空間で、広さは50m四方ぐらいはあるだろうか、壁際の隅にはシャッターが付いた車庫っぽい建物があり、他にはポツンと敷地の中央に置かれた自動販売機みたいな物しか見当たらない。


 敬太が予想していたリフトとかの設備は、あの車庫の中だろうか?


 とりあえず、中央に1台だけ置かれている自動販売機も気になるので、近づいてみると、何と自動販売機だと思ったそれは給油機だった。

 ガソリンスタンドにあって、ホースみたいのが付いていて、そこからガソリンや軽油が出てくる、あの給油機だ。支払いは現金の他にススイカにも対応している。


「そっちか~」


 正直、ジープやモトクロスバイクのガソリンを、毎回、現実世界に戻って給油してくるのが面倒に感じていたのは確かだ。

 軽トラでの追突事故もガソリンスタンドに行こうとしている最中にやられたし、携行缶にガソリンを入れてもらうのも、物騒になっている昨今、目立っていたので止めようかと思っていたのだ。

 

 今回のレベルアップボーナスは、両方当たりを引けた様だ。


 

 一応、隅にある車庫の様子も見ておこうとシャッターに手をかけたのだが、鍵がかかっているのか、持ち上げようとしてもガチッっと動かずシャッターはびくともしなかった。


 開かないとかあるのか?と疑問に思いつつ、何処かに鍵置きでもあるかと辺りを見回すと、車庫の壁にパネルがあるのに気が付いた。

 そのパネルは「レベルアップボーナス」適応前のガレージの時にもあったもので、パネルに並ぶ項目を見てみると、「車両登録」「車両呼び出し」「車両戻し」と車両を現実世界から呼び出したり、戻したり、と操作する項目が続き、その後に「車両点検」「車両修理」とあった。


 点検に修理か。流石オートリペアショップだな。

 車庫の中の仕組みは分からないけど、パネルの下にススイカ対応のマークと黒い四角があるので、まぁ間違いないだろう。

 ススイカ払いをして車庫に壊れた車を入れると、不思議なチカラで車を直してくれるんだろう。改札部屋のテーブルに付いている「デリバリー」や、モンスターのドロップ品を物置に集めてくれる、あの不思議なチカラで。


 それから車庫のシャッターもパネル操作だった様で、シャッターの開閉ボタンも見つける事が出来た。

 試しに「開く」ボタンを押すと、ググググっとシャッターが自動で上がって行き、車庫の中が見えてくる。


 中に何が入っているのかと、好奇心丸出しでシャッターが上がっていくのを待っていたのだが、車庫の中は空っぽだった。工具類や車を持ち上げるリフトも無く、何にも無い空間が広がっているだけだった。


 少し肩透かしを喰らったが、デリバリーの箱も普段は空っぽなので、そんなものかと、ひとりで納得してしまった。



 一通り、新しくなったオートリペアショップを見て回ったので、改札部屋へと戻り、一人お茶を啜っていると、ふと軽トラの事を思い出した。

 

 そう言えば、事故に遭ってから、廃車と新しい中古車を車屋に頼んだままずっと足を運んでいなかったのだ。

 事故から日も経っているし、そろそろ保険屋の話し合いも終わっているだろう。もう新しく車を買っても大丈夫なはずだ。


 スマホの時計を覗くと17時5分。そろそろモーブ達が帰ってきそうだが、その前に車の処理を済ませて来よう。


「ヨシオ、ちょっと出かけてくるよ。モーブ達には先にご飯食べててって伝えて」

「分かったシン」


 出掛ける前にダンジョン端末機ヨシオに伝言を頼み、「デリバリー」で冷めても美味しいローストビーフサンドを人数分頼んでテーブルに置いておく。


 それから、改札にススイカ(改)をタッチすると、敬太は現実世界へと帰って行ったのだった。

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