第182話 11階層再び

 敬太は再び11階層へと続く扉の前にやって来ていた。

 前回訪れた時は、あまりにもカンガルーの数が多いので、逃げ出してしまったのだった。


 1匹1匹のカンガルーの強さは、敬太が持っているミスリルの槍で十分対応出来るぐらいの強さなのだが、11階層の中が朝の通勤ラッシュの電車の中の様な状態で、数えられないぐらい、みっしりと部屋や通路にカンガルーが詰まっていたので、戦略的退却を選んだのだ。


 今日は、この状態を何とかして、なるべく早く先に進みたい所だ。


 敬太はチカラを込め、10階層のボス部屋にある両開きの扉を開けて、下へと続く階段を慎重に下りて行った。



「グォーー!」


 ゆっくりと階段の踊り場付近まで下りてくると、すでにカンガルーの鳴き声がそう遠くない位置から聞こえてくる。


「ゴーさん、セット!」


 カンガルーは打撃攻撃が強いので、早々にゴーさんに鎧になってもらい、プレートアーマーの戦士の姿になる。ちなみにこの鎧は、ゴーさんに【同期】スキルを使ってもらっているので、敬太が曲げたい、動かしたいと思っている方向がゴーさんに瞬時に伝わるようになっているので、パワードスーツの様に全くもって重さを感じない仕様となっている。



 それから【亜空間庫】を開き、既に5体ずつで合体しているアイアンゴーレムを8体取り出し、前衛として少し前に出てもらう。


 今から行う作戦は、非常に危険な為、ゴルには改札部屋でお留守番をしてもらっている。ゴルは産まれてからずっと敬太と一緒に居たもんだから、なかなか留守番に承諾してもらえず、改札部屋を出る時は、「ゴルも一緒に行く~~~」ってなって大変だったのは、本人の名誉の為に伏せておく事にする。


 さて、次に取り出したのは赤いポリタンク。本来は灯油しか入れちゃいけない入れ物なのだが、異世界なので法律を無視してガソリンを満タンに入れて来てある。その数30個。約540ℓものガソリンになる計算だ。

 これは「レベルアップボーナス」で、新しくガレージからオートリペアショップに進化した際に、ガソリンの給油機が備えられていたので出来る荒業だ。現実世界では、これだけの量を売ってくれる場所は存在しないだろう。


 【亜空間庫】から取り出したポリタンクを踊り場に並べ置いたら、ひとまずは準備完了だ。


 【探索】を使い、カンガルーの位置を探ると、既に敬太達に気が付き動き出してるのが何体か見え、動いてないカンガルーも鮨詰め状態で通路に溢れ出しているのが分かる。


「そろそろ何匹か来そうだから、しっかり止めてね」


 階段から通路にかけては車が1台だけ通れるぐらいの広さなので、5体合体している3mクラスのゴーレムが横に並ぶと、最早、蟻の子1匹通れないだろう。

 今回はその狭さを利用して、なるべく密集地帯を作り出す様に、カンガルーを押しながら進んでいかせる。


「そのまま前進!」

「「「グォーー!」」」


 スクラムを組み、じりじりと前進するゴーレム達に押され、階段を上って来ていたカンガルー達が鳴き声を上げながら後退していく。


「はい、ストップ!」


 そして、ゴーレム達がちょうど階段を下り切った辺りで前進を止めさせ、その場に壁として留まらせる。壁の前には早くも50体近くのカンガルーが集まりだし、アイアンゴーレムに向かってキックやパンチを繰り出しているが、壁となっているアイアンゴーレム達は微動だにしない。


 【亜空間庫】から普通のアイアンゴーレムを10体取り出して、階段に一列でバケツリレーの形で並んでもらう。階段の踊り場で敬太がポリタンクの蓋を開けたら、アイアンゴーレム達にポリタンクをバケツリレーをしてもらい前衛達に送ってもらう。


 3-2-3の隊形で壁になっている5体合体ゴーレム達の中で後ろに居る3体に、バケツリレーで届けたポリタンクを、どんどんとカンガルー達が密集している通路に向かって投げ入れてもらう。ポリタンクは地面に叩きつけられた衝撃で割れたり、蓋の部分から中身が飛び散ったりして、通路にガソリンが充満していく。


 やがて持って来た30個のポリタンクが全て投げ入れられると、辺りは噎せ返る様にガソリン臭く、嫌な雰囲気が漂っていた。


「いくぞ~!【火玉】!」


 最後に敬太が魔法を使い、アイアンゴーレムの壁の隙間を狙って、通路の方に【火玉】を投げ入れようとしたが、敬太の手の近くで魔法が発動した瞬間にボワアアアァァッっと言う轟音と共に、猛烈な爆風が襲ってきて、重い鎧を着ていたはずなのに吹き飛ばされてしまった。


 背中に強い衝撃を受け、何処かを転がり、ようやく体が止まったが、息が詰まってしまい立ち上がれず、倒れたままの状態で何とか階段の方を探し、階段の下を見ると、轟轟と燃え盛る炎の中で仁王立ちする壁となっているゴーレム達と、苦しそうな鳴き声を上げ転がり、のた打ち回るカンガルー達の姿が見えた。この炎では、ひとたまりも無いだろう。


 予想以上の爆発の威力で、敬太もダメージを負ってしまったが、何とか階段を這い上がり、鎧の中の酸素が無くなってしまう前に11階層から脱出した。


 このまま10階層のボス部屋の扉の前で座り込み、中がこんがり焼けるのを待ってても良いのだが、繋がっている空間だと何処まで酸素が無くなってしまうのか分からないので、気合いを入れて立ち上がり、改札部屋へと戻って行った。


 なお、ゴーレム達にはずっと壁として立っている様にと言いつけてあるので、きっと今頃凄い光景を目にしている事だろう。酷いと思うかもしれないが、酸素を必要としないゴーレムにしか出来ない任務だ。もし、炎でダメージを受けてしまったなら戻って来いとも言ってあるので、その辺は心配しないで大丈夫だと思う。

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