第177話 11階層2

 敬太達の準備が整うと、タイミング良くモンスターが階段を上ってきて踊り場の傍までやって来たのが見えた。なんだか見た事がある動物なのだが・・・。


「ゴーレム達で押さえて!【鑑定】!」



『鑑定』

カンガルー

そのまんまのカンガルー

観光客相手に愛想を振りまいているイメージがあるが、毛皮の下は筋肉の塊

時速70kmで飛び跳ね、1日に100kmも移動するぐらい健脚

発情期の争いの時は、尻尾で体を支えた両足での前蹴りで、殴り合いをする

その威力は人間ならば内臓破裂しかねない程の破壊力を持っている



 うへぇ・・・案外凶暴なんだねカンガルー。


 打撃能力が高そうなので、ゴーさん達に鎧になってもらう事にした。


「ゴーさん、セット!」


 ゴーさんとアイアンゴーレムを5体【亜空間庫】から取り出した途端、敬太の足元でドロリと溶け、敬太の体を包むように形を変えていく。


 その姿はプレートアーマーに身を包んだ戦士。頭から首辺りまではミスリルゴーレムのゴーさんが担当し、残った体の部分はアイアンゴーレムで変形した為、顔周りだけが青みがかった色が付いていて、きっとちぐはぐな感じに見えるだろう。


 カンガルーの方を見ると、狭い階段と言う場所も良かったのか、5体合体したアイアンゴーレム達が上手い事抑え込んでカンガルーの突進を阻んでいる。


 それを見た敬太は【亜空間庫】からミスリルソードを取り出して、戦いに加わって行く。


「行くぞ!それっ!」


 カンガルーを抑え込んでいるゴーレム達の隙間を狙い、上段から切りつける。すると、カンガルーの皮が裂け、出血が見られたが、怯む様な様子は無かった。


 ならばと、続けざまに2回、3回と通常攻撃で切りつけていったが、カンガルーが煙に変わる事は無かった。


 どうも素人剣術だと「切る」事が出来ず、単に殴りつけている感じになっている気がする。現にカンガルーを見ると薄皮は切れているが、ブンブンと元気に切られている腕を振り回している。

 本当は刃物で切りつける為の体の使い方を覚えたいのだが、何処で教わればいいのか、今の平和な現実世界にガチ系の剣術教室などあるのだろうか?


 この辺も今後の課題としたい所だ。


 ダメージが小さそうなミスリルソードは早々に見切りをつけて、今度はサミー達から奪ったミスリルの槍を取り出した。これならば「突く」だけでいいので、素人にも扱えるだろう。


「そいっ!」


 ゴーレム達の隙間からカンガルーに向けて槍を突き入れた。


「グォーーー!」


 手応えあり!


 狙った場所からは逸れてしまったが、カンガルーの肩に深々と穂先が突き刺さっている。まるで地面に突き刺したように重い手応えだったが、刺されたカンガルーが鳴いている所を見ても確実にダメージが入っているだろう。


「ふぅ~~~【通牙】!」


 カンガルーの体から槍を引き抜き、勢いそのまま、今度はスキルを使って攻撃をする。刺突系最初のスキルで小手調べだ。


 すると、パツンと弾ける様な音がし、先程とは違う手応えが返って来た。

 槍の行方を見ると、カンガルーの袋のちょっと上、鳩尾辺りに深々と槍が突き刺さっており、刺されたカンガルーは放心した様に動きが止まっている。


 ヌルリと槍を引き抜くと、大きな傷口から紫黒の煙が噴き出して来た。


 どうやら、アメダラーとの戦いの後だったからか、必要以上に警戒してしまっていた様だ。【通牙】一発で倒せるぐらいなら、そこまで強くないだろう。


 敬太は残る2匹のカンガルーにもスキルを放ち、あっけなく倒していった。

 ゴーレムの守りと、敬太の攻撃。噛み合えばここまで一方的に戦う事が出来るのだ。

 


 カンガルーを倒し終えてからスキルの【探索】を使って、もう一度辺りを伺ったが、やっぱり凄い数のカンガルーが部屋や通路に徘徊している様だ。


 1匹1匹がそこまで強くなくても、この数は頂けない。

 何か対策を考えなくてはならないだろう。


 1階層にいた大量のニードルビーを倒した時の様に、燃える物を投げ込んで焼く尽くすか、3階層に居たブレイドラビットの時の様に、少量をおびき寄せ地道に少量ずつ叩いて行くか。


 とりあえず、考えを纏めたいので一旦11階層からは出る事にした。






 ボス部屋にまで戻り、しばらく考えていたのだが、今すぐにカンガルーの群れを倒せる様な妙案が浮かんでこなかったので、まだ早い時間だが改札部屋へと戻る事にした。すると、これまた珍しく、ダンジョン端末機ヨシオが敬太に話しかけて来た。


「ケイタ、レベルが上がってるだシンよ。ATMで見てみるだシン」


 なるほど、レベルアップのお知らせか。

 ここの所、余計な事が多かったので、かなり久しぶりのレベルアップは素直に嬉しい。


 早速、ヨシオに言われた通り改札部屋の隅にあるATMの様な箱の前まで進んで行った。ちなみにこのATMと呼んでいる謎の箱は、卵が出てきたり、札束がガバッと出てきたりと、普通のコンビニにある様な一般的なATMとは全然違う謎に包まれた箱なのだ。



『レベルアップおめでとうございます』


 ATMの前まで来ると、画面には懐かしい言葉が映し出されていた。


『レベルアップボーナス』


駐車場➡ガレージ➡オートリペアショップ

洗濯機置き場➡洗面所➡サウナ

キッチン➡パントリー

部屋拡張 0/2



 久々過ぎて、画面に出ている物の意味が分からず一瞬固まってしまったが、これはあれだな、改札部屋の改造系ボーナスだろう。


 初めてこの改札部屋に来た時は、改札とATMしか無くて、そこからリクライニングチェアだのロッカーだの、物置、テーブル、トイレ、お風呂と、今快適に過ごせている数々の設備はこうやって増やしていった物なのだ。


 それで、今回はオートリペアショップ、サウナ、パントリーと来て最後に部屋拡張となっていて、その中の1個だけを選ぶことが出来る仕組みだ。要は4択だな。


 モーブ達が改札部屋で寝起きするようになってから、少々手狭に感じていたので部屋拡張は魅力的だが、文字の後にある0/2ってのが気になる。


 う~んどれにしようかな~。


 何気に、久々のボーナスを楽しんでいる敬太であった。

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