第176話 11階層

 敬太がアメダラーとの激闘を終えて、改札部屋へと戻ってくるとモーブ達が部屋に居て、丁度お昼ご飯に置いていっていたサンドイッチを食べ終えた所だった。


「ただいま~、疲れちゃったよ」

「お帰りー」

「おかえり~」

「うむ。戻ったか」


 敬太はみんなの挨拶に適当に返事し、装備品を身に着けたまま【亜空間庫】にしまい、タオルで汗を拭く。

 チカチカと物が入っている合図が出ている物置が目に入ったので、アメダラーから得た「尊師の聖水」を取り出し【亜空間庫】に入れておく。もっと効果がある薬だったら嬉しいのだが・・・。

 

「なんじゃ、大変そうじゃな」

「ええ、ちょっと油断してしまって、ギリギリでしたよ」

「うむ。手伝いが必要か?」

「う~ん、これから新しい階層に行くつもりなんですが、そこで無理そうだったらお願いするかもしれません」

「うむ。そうか」


 なんだろう?敬太が物置の前でハァと息を吐いていたら、珍しくモーブの方から敬太に声を掛けて来た。

 普段は無口で、あまり敬太がやる事に干渉しない様にしている雰囲気があって、何をして来たのかと聞いてきた事など殆ど記憶に無いのだが・・・。


「もしかして、ウサギの子の調子悪いんですか?」

「うむ。そうじゃな、あまり良くないな。ケイタが用意してくれた塗り薬を使ってはいるんじゃが、どうもあまり芳しくない様じゃ」

「そうですか・・・」


 そんな気がした。


 モーブは既に50を過ぎ、戦闘奴隷をやらされていた影響もあってか、自ら戦闘行為を買って出る様な事は、身内に危険が迫ったりしないと買って出ないのだ。その代わり、一旦スイッチが入ると容赦無い殺人マシーンと化すのだが・・・。


 そんなモーブが急に「手伝おう」なんて言ってきたもんだから、何かあったと思ったのだが、どうやら「なるはや」でハイポーションを手にれないとまずい状況らしい。

 

「何かあったら、直ぐに教えて下さい。私もなるべく早く先に進んでみますので」

「うむ。そうしてやってくれ・・・手足が欠けるのは不便じゃからな・・・」


 そう言って、モーブは自分の無くなっている右肘の辺りを撫でていた。

 なるほどね、そんな思いもあったのか・・・。手足を失ってしまった本人にしか分からない事が沢山あるんだろう。


「ね~ね~。テンシンさ~、リンと絵本読んでていい?」

「うむ?よいぞ。しっかり看てるんじゃぞ」

「は~い」

「ん?テンシン、リンってウサギの子の名前かな?」

「そうだよ~」

「そうか、ケイタには伝えてなかったか。つい先日の事なんじゃが、いつもの様にテンシンが寝室で絵本を読んでいると、兎族の子が傍でずっと看ててくれるからって名前を教えてくれたみたいなのじゃ」

「そうだったんですね。偉いねテンシン」

「えへへ~」


 ウサギの子の名前は「リン」か。

 いつの間にやら、しっかりと関係を作りつつあったのだな。

 ウサギの子を助けるなら、ちゃんと助けてあげたいって思いは敬太にだってあるし、これは少し頑張らないといけないな。



 話が終わると、モーブとクルルンは外に行ってくると言って部屋を出て行ってしまい、テンシンは寝室に入って行ってしまったので、敬太は一人寂しく、ちょっと遅めの昼食を済ませた。




 それから、1時間ぐらいの昼休憩を済ませ、敬太は再び10階層のボス部屋へとやって来ていた。


 ボス部屋は、先程の激戦が嘘の様に静まり返っている。


 ボスのアメダラーを倒したので、11階層への扉が開く様になっているはずなので、先に進むとしよう。


 グッと両開きの扉を押して開くと、直ぐに下りの階段が現れた。

 この階段も埋めてスロープにすれば車が通れるぐらいの幅があるだろう。

 真っ暗な階段を、暗視スキル【梟の目】を使い、キョロキョロと周りを見ながら下りて行く。


「グォーー」


 階段の踊り場まで下りてくると、何か動物の鳴き声の様な物が聞こえて来た。

 直ぐに敬太は警戒の体勢を取り、スキルの【探索】を使うと、頭の中の地図に赤い光点が数え切れない程広がった。


「なっ・・・」


 今までに見た事が無い程の数で固まっているモンスター達。

 この階層全体がモンスターハウスの様になっている。


 これは困った。今日の分のマジックポーション5本の内4本はアメダラーと戦った時に既に飲んでしまっている。

 残り1本分だと、何かあった時に心許ない。


 階段の踊り場で、先の様子を見てみようか、潔く撤退して出直そうか迷っていると、頭の中にある地図の赤い光点のうち3つの光点が急激に敬太の方に移動して来ているのに気が付いた。


「「「グォーー!」」」


 一瞬、逃げ出そうかと思ったが、先程、改札部屋で時間が無いと言う話を聞いたのを思い出し、3匹だけならと、思いとどまった。


 ゴーさん達に守ってもらえばなんとかなるだろう。やばそうなら階段を駆け上がって逃げればいいんだ。


 急いで【亜空間庫】からアイアンゴーレムを20体取り出し、指示を出す。


「5体ずつで合体して!モンスターが来るから迎え撃つよ!」


 アメダラーと戦った時は10体合体だったのだが、あれだと今いる場所では大きすぎると判断した。


 敬太の指示に、アイアンゴーレム達はすぐにドロリと溶けだし、3mぐらいの大きさのゴーレムに変形していった。

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