第175話 合体

 10階層のボス部屋には、まだ電気を通してないので部屋の中は真っ暗なのだが、敬太には暗視スキル【梟の目】があるので動き回るのには何の問題も無かった。ただ、暗い部屋の中で轟轟と燃え盛る炎を体に纏わりつかせているものに、後ろから追いかけられるのは、結構恐ろしかった。


 一日に5本が限度のマジックポーションの4本目を飲み、湧き出て来たMPを魔法に変えて、追いかけて来るアメダラーに解き放つ。


「はぁはぁはぁ・・・・・【火玉】【火玉】【風玉】っ・・・はぁはぁ・・・」


 マジックポーションを1本飲むとMPは30回復し、【火玉】【風玉】は共に消費MPは10になるので1本飲むと3発の魔法が放てるのだが、火玉2発に風玉1発の割合で放つと、いい感じで燃え上がってくれるので、この2対1の割合で決め打ちしている。


 【火玉】の上位魔法。1億円の【火槍】だと、どれぐらいのMPを使い、どれぐらいの威力があり、アメダラーを何発で倒せるかは分からないけど、あのヨシオが勧めて来るぐらいなのだから、ここまで必死に走って逃げ回らなくても済んだかもしれない。


 後悔先に立たずだな。


 敬太はアゴが上がり始め、息も絶え絶え、明らかに走る速度が落ちて来てしまっていた。後ろから迫るアメダラーは全身を炎に包まれているのに敬太を追いかけるスピードは落ちず、いつまでも敬太の背中に張り付いて来ている。


 背中に迫りくるジリジリとした炎の熱さを感じながらも、懸命に走り、もう一度アイアンゴーレムの固まりに目を向ける。何とかゴーレム達に足止めしてもらわないと・・・。


 しかし、こんな土壇場で敬太は閃きを得た。


 ゴーレム達は変形して大きな門や砦の様な物まで作れるのだから、変形して大きなゴーレムになれるのではないだろうか。


「ゴーさん!・・・10体ぐらいで・・・合体・・・出来ない?・・・」


 咄嗟にアイアンゴーレムに混ざり、アメダラーに追いつこうと走っているゴーさんに向かって大声を出した。


 1体だけ青みがかった体をしているミスリルゴーレムのゴーさん。

 ミスリルゴーレムになれて嬉しそうにしていたので、以前の様に、小さい体になってアクセサリーに変形してと欲しいと言えなかったのが裏目に出た。

 まさか、こんな所でピンチになると思っていなかったし、ゴーレム達が必要になるとも思っていなかったのだ。


 体力の限界が近いので余裕が無く、敬太の叫び声がゴーさんに届いたのか確認が出来ないまま、真っ直ぐ走っていた所から急旋回して、ゴーレム達にぶつかる様にコースを変えた。


 すると、どうやら敬太の声はゴーさんに届いていた様で、ゴーレム達が天井にぶつかりそうな位の大きな塊となって蠢いているのが目に入った。


 敬太は最後の力を振り絞り、スライムの様に蠢いている変形途中のゴーレムに向かって走り続ける。

 もつれそうになる足を必死に回転させ、後ろから迫る炎の熱から逃げ回った。


 目の前に迫る、蠢くゴーレム達は、次第に形が整っていき、敬太の言いつけ通り、大きなゴーレムと姿を変えつつあった。


「はぁはぁ、頼むっ・・・止めてくれ!」


 酸素を求め喘ぎながら、必死にゴーレム達に指示を出すと、天井に頭を擦りながら少し腰を曲げ、大きなゴーレムがゆらりと敬礼ポーズをした。


 敬太は止まらずに大きなゴーレムの脇を駆け抜け、言いたい事が伝わったのが確認出来たので、徐々に速度を緩めると、足を止めた。


 すると、ズドン!と後ろで大きな物がぶつかる鈍い音が響き渡った。


 敬太が息を整えながら振り返ると、そこには大きくなった5体のゴーレムが前かがみ気味で、これまた大きな炎に包まれているアメダラーを囲む様にして掴みかかっている所だった。


 お互いが4m~5mぐらいの体の大きさで、そいつらがワチャワチャと動いている様は、まるで妖怪大戦争だなと、子供の様な感想が自然とこぼれて来た。


 気が付くとミスリルゴーレムのゴーさんが、敬太の隣までテコテコと歩いて来ていて、一緒になって大物同士の戦いの行方を見守っていた。



 敬太の息が整い始めた頃、地面に押し付けられる形で身動きが取れなくなっていたアメダラーからパキッパキッっと硬い物が割れる音がし始め、硬い鱗甲板が割れた隙間から紫黒の煙が噴き出していた。


 前回アメダラーを戦った時も死にかけたが、なんだか今回も結構危なかった。

 これは敬太自身の強さが変わってないって事なのだろうか?

 毎日、リポップしたモンスターを狩っているのだが、それだけでは足らないという事なのだろうか?


 進歩してないと言う現実が突き刺さり、少しへこんでしまったが、その分ゴーさん達を使いこなせるようになってきているじゃないか、と自分を言い聞かせ、なんとか気持ちを持ち直す。


「はぁ~、もう少し考えてやっていかないとな・・・」


 グルグルと部屋の中を必死に走り回った為、大汗を掻き、疲れてしまったので、一度、改札部屋に戻る事にした。

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