ダンジョン探索再開

第174話 探索再開

「はぁはぁ・・・ゴクゴク・・・クッはぁはぁ・・・【火玉】【火玉】【風玉】!」


 敬太は今、全力疾走しながら、マジックポーションを飲み、後ろに向かって魔法を乱射していた。


 久々に対面したボスは、思いの外足が速く、全力で走る敬太の後ろをドシンドシンと大きな音を立てながら追いかけて来ている。


 もし、追いつかれ、あんな巨体に踏み潰されてしまったら、怪我では済まないのが容易に想像が出来てしまい、前回倒した時と同様に命からがら逃げ回る事になってしまっていた。


 魔法を撃ちながら走り続け、早くも息が上がって来てしまった敬太は、準備不足で挑んでしまった事を後悔し始めていた。





 ダンジョンの外に広がる雑木林の外側を、円形に囲む様に連なっている高い崖があり、その一部の崩れてしまっていた場所に、アイアンゴーレムで門を作ったのだが、崩れた崖と同等の規模でしっかりとした門を作りたいと思ってしまったもんだから、作っていくうちに、あれよあれよと大きな建物となってきてしまい、気が付いたらアイアンゴーレムを55体も使った大きな砦の様な物になってしまっていた。


 おかげで、敬太の手元に残ったアイアンゴーレムは20体ばかりと、心もとない数にまで減ってしまい、その後に行った「呪いの森」と呼ばれている雑木林の中に隠れて残っている追っ手がいないかを調べるのにえらく時間がかかってしまった。


 頑丈で大きな「崖の門」、いや「崖の砦」と呼べる程の物が出来たのは満足はしているが、もう少し自重しても良かったのではないかと、アイアンゴーレム達と一緒に雑木林の中で追っ手を探し回っている時には思ったもんだ。


 結局、雑木林の中を隈なく探し回り、他に追っ手は潜んでないと確認が取れるまでに3日の時間を要してしまい、それから、ようやく引き篭もらせてしまっていたモーブ達に「安全宣言」を告げる事が出来たって訳だ。



 そして今日は、みんなで朝ご飯を食べている時に、モーブ達には自由にしていいよと告げ、敬太は寝室で匿っているウサギの子の手足が腐り落ちてしまう前に、ハイポーション探しに本腰を入れる事にしたのだった。


 いつもの様に偶数階層にリポップしたモンスターを狩って行き、そのまま10階層に新たに湧いているボス的なモンスター、銃弾を跳ね返す程の硬い鱗甲板を持つアルマジロ型のアメダラーに挑んでいたのだ。


 敬太の素人同然の剣の腕では、ミスリルソードを以ってしてもダメージを与えられなかったのだが、【火玉】と【風玉】を合わせた時に発生する火炎旋風の様な現象で倒す事が出来た相手だ。


 交通事故やらゴールドランクPTの襲撃など、色々とゴタゴタがあって、2週間近く間が空いてしまったので、前に戦った時の苦戦した記憶が薄れ、一度倒せた相手だからと言って少し油断していたのかもしれない。



 10階層のボス部屋の扉を開けて、学校の校庭ぐらいの大きさの部屋に入り、手持ちのアイアンゴーレム50体を全て放ち、11階層への扉を守る様にその場から動かない4m~5mはある大きな岩みたいなアメダラーに意気揚々と魔法を撃ち込んで行った。


 始めの頃は、放ったアイアンゴーレム軍団が、いい足止めとなって一方的に魔法を撃ち込め、着実にダメージを与えていっていたのだが、しばらくするとアメダラーがその巨体を活かし、アイアンゴーレムを押しのけ、一瞬の隙を突き、跨ぐようにしてアイアンゴーレムの包囲を抜け出し、走り出すと、動きが早い方ではないアイアンゴーレムはもうアメダラーに追い付く事が出来なくなり、敬太とアメダラーの1対1の追いかけっこが始まってしまったって訳だ。


「はぁはぁはぁ・・・・・クソッ!」


 ボスの部屋は学校の校庭ぐらいある広い部屋なのだが、そこには50体ものアイアンゴーレムが放たれていて、小学生のサッカーでボールに群がる様にアメダラーの後を追い続けているのが見える。

 敬太は上手く誘導するようにして、そのアイアンゴーレムが固まっている場所に向かって走って行き、アイアンゴーレム達にアメダラーを擦り付ける様にして時間を稼ぎ出していた。


 

 実は今朝方、このアメダラーと再戦するのは分かっていたので、前にダンジョン端末機ヨシオにアドバイスされた【火槍】の魔法を取ってしまおうかと思ったのだが、ススイカ(改)に入っている残高が、丁度【火槍】を取ったらスッカラカンに無くなってしまうぐらいしか貯まっていなかった。


 今は、既にアイアンゴーレムの残骸を使い切ってしまっていて、新しいアイアンゴーレムを作り出すのに、材料が無い状態なので1枚8万円の敷鉄板を毎日10枚買わなけらばならないし、近々軽トラを買い直す予定もある。そんな状態なので、無理すると辛いかなと思い、代わりにアメダラーを倒すのにも使える【風玉】を買っていたのだ。


「【火玉】!【火玉】!【風玉】!」


 アメダラーが僅かにアイアンゴーレムに引っかかり、出来た時間で、本日3本目になるマジックポーションを飲み干し、追加の魔法を撃っていく。

 

 4m~5m程ある大きな的なので、3連打の魔法の玉は吸い込まれるようにアメダラーに着弾するが、効いているのかいないのか、アメダラーは立ちはだかるアイアンゴーレムを弾き飛ばすと、再び敬太に向かって突っ込んで来るのが見えた。


 それを見た敬太は、チッと舌打ちをし、再び走り始めるしかなかったのだった。

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