第130話 好み

 一通りATMをいじり終わったのでテーブルに戻り、新しいお茶を淹れているとモーブ達が寝室から出て来た。


「ありがとうモーブ。奴隷の子は食べましたか?」

「うむ。美味そうに食べておったぞ」


 病み上がりでいきなりハンバーグ食べるんだ。獣人って凄いね・・・。


「そうですか・・・良かったです。モーブもお茶飲みます?」

「うむ。頂こう」

「クルルンとテンシンは?」

「オレりんごのやつがいい」

「テンシンも~」


 全員飲むとの事で、それぞれに配るとテーブルの席に着いたので、丁度いいと思い少し真面目な話をした。


「モーブ、それからクルルンとテンシンも聞いて。近いうちにまた追っ手が来ると思う。だからしばらくの間は、なるべく外に出ない様にして欲しい。それで、もし何かあったらゴーレム達が教えてくれると思うから、そしたら急いでこの部屋まで戻ってきて」

「うむ。まぁ大丈夫じゃろうが、備えておくのは悪くないな」

「はーい」

「は~い」


 ダンジョンの入口を中心に囲むように連なっている20m以上ある崖。そこに監視の為に置いているゴーレムがいるので、もし追っ手が来てもゴーさんの【通信】を使ってすぐに教えてもらえれば、モーブ達が改札部屋に逃げ込む時間は稼げるだろう。

 子供達をあまり脅し過ぎても良くないし、ずっと閉じ籠ってろとも言えない。

 モーブ任せな所が大きいけれど、追っ手が来るかもしれないと頭の片隅に置いておけば大丈夫だろう。

 

「うむ。そう気を詰めるな、ワシらは大丈夫じゃ」

「そう・・・ですか・・・。どうも、こういう事は慣れてないもので」


 どうやら顔に出ていたようで、逆にモーブから励まされてしまった。

 そう言えば、モーブ達は逃げる生活を続けて来ていた、いわばプロだったのだ。彼らに助言なんてものは今更必要無いのだろう。


「うむ。テンシン、ウサギの子を見ててくれんか?」

「は~い。絵本読んでていい?」

「うむ。構わんよ。ケイタ、この部屋の中は安全なんじゃろ?」

「はい」

「うむ。それじゃクルルンは部屋の前で弓の練習でもしとれ」

「はーい」

「助かります」

「なーに、いつもわしらの方が助けてもらってるんじゃ、ケイタが気にする事じゃないわい」


 流石、子供達と付き合い長いモーブだ。子供達にやりたい事をやらせながらダンジョンの外に出ないように誘導してくれた。


 クルルンは弓が好きで、お小遣いを貯めて子供用の1mぐらいのロングボウをネットショップで買って、いつもそれで遊んでいる。

 テンシンは日本語が読めないのに絵本が好きで、お小遣いの全てをつぎ込んで気に入った絵の絵本を買っている。

 もちろん、敬太がススイカ(改)を使ってネットショップで買ってあげているので、2人がそれらを好きな事は知ってはいたが、こういうやり方は頭に浮かんでこなかった。


 人間関係が希薄な職場で働き、ずっと籠っていた弊害だな。


「それじゃあモーブにはこれを渡しておきます」


 子供達の安全策が取れたので、今度はモーブだなと思い、敬太が殺してしまった冒険者達が持っていたミスリルソードを【亜空間庫】から取り出して見せた。


「うむ。ケイタ、わしは剣なぞ振れんぞ」


 アイアンゴーレムを切り裂いて見せたミスリルソードなら、持っているだけでチカラになるだろうと思ったのだが、モーブはちらりと見ただけで断って来た。

 確かにモーブの片腕だと扱いにくそうに見えるが、このミスリルソードはかなり軽いので大丈夫だと思ったのだ。だが、そう言う問題ではないらしい。


「それじゃったら、こっちの方がまだ戦えるわい」


 モーブは腰に下げている鉈を持ち上げ敬太に見せて来た。

 1年前に追っ手から剥ぎ取った槍が壊れてから、モーブの武器としてネットショップで買った何処にでもある普通の鉈。他にも武器として使えそうな鉄パイプやサバイバルナイフとかもあったのだが、何故かモーブはこの鉈を好んで使っている。

 まぁ本人がそう言うなら、押し付けがましくなってしまうのも嫌なので、ここは敬太が折れようと思う。


「そうですか、分かりました。でも、何か必要になったら言って下さいね」

「うむ。その時はお願いする」


 

 この後、モーブは外に出て開墾した畑をいじって来ると言って部屋を後にした。

 クルルンは子供用のロングボウを持って、部屋の扉の前で練習するらしい。

 テンシンもモーブに言われた通り、何冊か絵本を抱えて寝室に入って行った。


 さて、残った敬太は何をするかと言うと、先日ヨシオに教えてもらったゴルとコンビを組む方法を試そうかと思う。ゴルがレベルを上げるのに手っ取り早い方法らしいのだが・・・。


「ゴル、ちょっと来て」

「ニャー」


 敬太が呼ぶと、お気に入りのダンボール箱の中でくつろいでいたが、ぴょこんと飛んで側まで走って来てくれた。


「ゴル『コンビ』って分かる?」

「ニャー」


 ゴルを抱え上げ、目を合わせて尋ねてみたが、いつも通りのお返事で言葉が通じているのか、いないのか判断が出来ない。


 ヨシオの話だと、ゴルの方が敬太を主と認めると契約獣の本能でコンビを組んでくれるらしいのだが、果たして敬太を認めてくれるのだろうか?

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