第127話 色々な話

 敬太が長い事無視してしまっていた「ダンジョン端末機ヨシオ」と和解し、ダンジョンの仕組みを聞きだそうとしていた、ちょうどその頃、敬太の父親が入院している病院ではちょっとした騒ぎが起きようとしていた。


「おはようございま~す。森田さん体温測っちゃいますね~」


 いつもの様に、敬太の父親の個室に入り、朝の様子を見に来た担当の女の看護師が、最初に敬太の父親の異変に気が付いた。


「あれ?36度2分。平熱になってる・・・」


 父親の体温を測り、熱が下がってる事に気が付き、そこで呼吸も穏やかになっている事にも気が付いたようだった。

 通常、重度の肺炎ともなると、1日でパッと治る事など無く、徐々に症状が良くなっていくものなのだが、敬太の父親は一晩で治ってしまっていたのだ。

 もちろんそれは敬太がハイポーションを飲ませたせいなのだが、多くの患者を診てきている看護師にとっては、信じられないものとして目に映っていた。


「せ、先生~!」


 女の看護師は、一晩で回復してしまうと言う異様な光景に駆け出し、担当医の元に走り出していた。


「山田先生!大変です。302号室の森田さんがおかしいんです」

「どうした?」

「熱が下がっていて呼吸も落ち着いてるんです!」

「は?」


 この報告に担当医の山田は耳を疑った。

 何故なら302号室の森田さんは、重度の肺炎で、2日~3日中には集中治療室に移そうかと考えていたほど悪い状態だったのだ。年齢や体力から考えても、このまま治らず死んでしまうだろうと思っていたぐらいだった。


「本当に302号室の森田さんの事?」

「そうです、だからこうやって先生に言いに来たんですよ!」



 結局、看護師の報告を信じきれなかった担当医の山田は、敬太の父親の部屋まで行き、症状を診察しても、まだその異常さに首を傾げていた。


 最終的に、色々な検査をし、上がって来た検査結果を見てやっと納得がいったが、今度は太ももの手術痕が綺麗に消えているのを見つけて、更に首を傾げている始末だった。


  

 この話は、山田先生が自分のブログに書き記してしまい、瞬く間に世界中に拡散されてしまうかと思われたが、山田先生のブログを読んでいる人は非常に少なく、眉唾物の話が信じられる事も無かったようで、ネットに良くある作り話として、少ないブログのフォロワーを喜ばせるに留まった。




 一方その頃、異世界にあるマシュハドの街でも一部の人間が騒ぎ出していた。


 夜の帳が下り、すっかり暗くなった執務室で、魔道具の明かりも点けずに何かを待っている男がいた。


「遅い、遅すぎる・・・」


 黒髪のゴーレム使いの行方を追って街を出ていたシルバーランクPT「飛揚する魔法銀」が定時連絡の時間を過ぎても来ないのだった。

 乱暴な言葉使いで礼儀がなってない連中だが、依頼に関しては間違いがなかった。今まで定時連絡に遅れた事など無かったし、そもそもそんなに難しい依頼ではないはずなのだ。


「先に上がるぞ」

「はい。お疲れ様でした」


 痺れを切らした男は、ローブを羽織り南門から近い建物から出ると、街の反対側にある北門まで暗い夜道を歩いて行った。本来ならば街中を走る乗合馬車に乗っていく距離なのだが、男にも立場があり今はあまり人目につきたくないのだ。


 北門に居るトワレなら街の出入りを把握しているはずなので、何かしらの話が聞けるだろう。

 ひしひしと感じる、面倒事になりそうな嫌な予感をごまかす様に、足を速めて闇に紛れていった。




「おい、トワレはいるか?」

「えっ?あっはい。門番頭は部屋におられるかと思います」

「分かった。入るぞ」

「はい、どうぞお入り下さい」


 北門に辿り着いた男はローブから顔を出し、夜番をしていた門番に横柄な態度で声をかけ、トワレがいる部屋に我が物顔で向かって行った。


 大きな街の門の側には、人々の出入りの際に必要な書類を審査したり、税金を徴収したりする時に使う取調室の様な部屋が何個かあり、その奥には不審な人物を捕らえておく牢屋があったり、一言に「門」と言っても、その周辺にはそれなりに施設の様な建物があるのだ。

 門番たちが食事をとる部屋、休憩をとれるような部屋、はたまた有事の際に備えて武具などを置いてある倉庫の様な部屋もある。そして門番頭ともなると自分の個室が与えられるようになり、男が向かっているのは正にその個室だった。

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