第128話 色々な話2

「トワレ入るぞ」


 男は目的の部屋へと辿り着くと、乱暴にノックをし、中からの返事も待たずにドアを開け、勝手に中に入っていった。


「おお、ナベージュであったか。こんな夜更けにどうしたのであるか?」


 この北門の長に対してずいぶんな態度の来訪者なのだが、部屋の主であるトワレはそれに気にする様子は無く、自分が飲んでいたワインを新しい金属製のカップに注いで、訪れて来たナベージュに差し出し、迎え入れていた。


「悪いな。ングング・・・ふっー」


 夜道を速足で歩いてきたナベージュは勧められた椅子に腰を掛け、喉の渇きを癒してから話をし始めた。


「実はな、ヘイス達が定時連絡の時間になってもウチに来なかったんだ」

「なんと、帰って来る予定であったか・・・」

「その様子じゃ、街に戻って来てないようだな」

「そうである。吾輩も先日ナベージュから追っ手として使ったと話を聞いていたのでな、ヘイス達を気にかけていたのであるが、まだ門を通っていないのである」

「そうか・・・」


 これで追っ手として放った「飛揚する魔法銀」は、もう使えない事が確定した。

 十中八九、黒髪のゴーレム使いに倒されてしまったのだろうが、もし生きていたとしても定時連絡と言う大事な約束をすっぽかす様な連中は、もう信用が無くなってしまったので、この先使う事が出来ない。

 シルバーランクPTと言う、一般的な強さを持ち、小金を掴ませれば動いてくれる便利な連中だったが仕方があるまい。


「それで、どうするであるか?」

「ジャガ様に大口を叩いてしまっているんだ、面倒だがゴールドランクPTの『不動の山』を動かすしかあるまい」

「奴等であるか」


 マシュハドの街を拠点としている冒険者の中で一番ランクが高いのはゴールドランクとなる。そして、そんな強い冒険者が集まりPTを組んでいるのが、街に1組だけ存在するゴールドランクPTの「不動の山」だった。


「金がかかるが背に腹は代えられん。何よりジャガ様の機嫌を損ねる方が恐ろしいよ。あれでもマシュハドの街の代官を務める貴族様だからな。簡単に俺らの首なんか跳ね飛ばされちまう」

「そうであるな。下っ端は辛いのである」


 執務机に座り、同じ様な金属製のカップでちびりとワインを飲んでいたトワレが、苦笑いを浮かべながら自分の机の引き出しを開き、中から小さな巾着袋を取り出した。


「これも使うである。先日黒髪のゴーレム使いから取り上げた、車輪の付いた魔道具の褒美としてジャガ様から頂いたものであるが」


 ジャラっと硬貨の独特の音が鳴り、机の上に置かれた。


「悪いな、助かるよ」

「何、持ちつ持たれつである。足りないと思うが足しにはなるであろう」


 トワレに渡された巾着袋を覗くと金貨が10枚入っていた。確かにゴールドランクPTに依頼を出すには足らないが、大分楽になる。


「これで、ジャガ様から催促が来る前に捕まえられるな」

「ちゃんと生きたまま連れて来られるかが心配であるな」

「ハハハ、違いねぇ」



 ナベージュは手にした金貨を合わせて使い、夜のうちに手配を済ませた。

 そうして翌日には、マシュハドの街からゴールドランクPTが敬太を追って出て行ったのだった。





 そして、狙われているとも知らない敬太はダンジョンでヨシオに聞いた事をどんどんと取り入れて行ってる最中であった。


 例えば、改札部屋はセーフティゾーン扱いで、敬太が認めた者しか入れないらしいとか、ゴルのレベル上げをするにはコンビを組めばいいとか、ハイポーションもダンジョンから出るとか、更に強いエクスポーションって言うのも下の方に行けば出てくるとか。何気に凄い情報を与えられていた。


 ただ、何でススイカでダンジョンに飛べるのかとか、次に出るレベルアップボーナスの項目とか、11階層以降に出るモンスターとか。何の基準があるのかは知らないが、教えてくれない物も多くあった。


「ダメだシン。教えられないシン」


 今も、ヨシオに【火槍】の次に出てくる魔法の項目を聞いたのだが教えてくれなかった。

 この教える、教えないの線引きも何かあるんだろうか?

 色々考え、あれもこれも知りたくなってしまうが、時間は有限なのでこの辺で切り上げなくてはならない。何故なら敬太には追っ手がかかっている可能性があって、それに対して防衛策を練らなければならないからだ。

 死んでしまっては元も子もないだろう。こういう時は最悪の結果を予想して備えるのが一番良いのだ。

 


 そんな訳で、とりあえず今は改札部屋がセフティーゾーンだと分かったのが大きく、皆で改札部屋に住もうと大改装中だった。

 敬太が寝起きしていた寝室を、奴隷の女に明け渡し病室としてもらい、残ったモーブ達と敬太は改札部屋で寝起きするようにする。そうすれば万が一、突然攻められたとしてもセフティーゾーンでいくらでも立て籠もれるのだ。まずは本拠地を固める事から始めよう。


 子供達は二段ベッドをネットショップで買って組み立て中。モーブと敬太はそれぞれ普通のベッドを買って組み立てている。おかげで改札部屋の中は、あちこちから電動ドライバーの音が鳴り響いていて、ちょっとした工場の様になっていた。

 それぞれベッドを置く位置を決めて、散らばって作業をしているが、これだけの生活空間が大きくなると、あれだけ広く感じていた改札部屋も一気に手狭に感じてしまう。


 ベッドの組み立てが終わると、今度はみんなの服をしまっているタンスや棚なんかをモーブ達が生活していた、外に建てた小屋から運び入れる。

 この1年の間、お小遣いとしてモーブには月に3万円、子供達はそれぞれに5千円渡していて、その金額内でネットショップで買っていた私物が思ったよりも増えていて、ビックリした。


 大きなテーブルが部屋の中央に陣取り、傍らにはネットカフェにあるような黒いリクライニングチェア。部屋の隅にはATM、他にも改札機があり、壁際にはロッカー、自動取得で拾った物を保管する物置。

 この辺はレベルアップボーナスで手に入れたもので、位置を動かす事が出来ない物だ。残されたスペースを上手く活用していくしかない。



 家具の配置を決め、掃除なんかをしていたら、いつの間にかまる1日使ってしまっていた。

 部屋の中はごじゃっと物が増え、狭くなってしまったが、これでとりあえずの安全が確保出来たので良しとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る