第126話 ヨシオ2
「魔法はどうしたんだシン。アメダラーぐらい【火槍】でも覚えれば倒せるだシン。それなのにいきなり【亜空間庫】なんか覚えて、商人にでもなるつもりなのシンか?」
「いや、そんな気は・・・」
「なら、どうしてヨっちゃんがあげた『ゴルベ』も育ててないんだシンか?信じられないだシンよ」
なんだか大事な事をポンポンとしゃべりだして来たので、敬太の頭が追い付かない。
あれだけ硬く、武器を破壊する様なアメダラーでも魔法なら倒せるのか?
一度喰らった事があるが【火槍】程度の魔法が通じるのだろうか?
ヨシオの喋り方が胡散臭いのも相まって、にわかには信じられない話だが、ダンジョン探索に行き詰まっていた敬太にとっては試してみたくなるような話だった。
次にヨシオが口にした、ゴルを育ててない事。
卵から孵り、赤ちゃんの時から育てていたので、ペットの様にただ可愛がる事しかしてきていなかった。育てていると言えば育てているのだが、今回の意味は多分そう言う事では無いだろう。きっとレベルを上げてないって意味だと思う。
ゴルは【鑑定】で見ると敬太の契約獣となっている。普通のペットとは違う何かなのは知っていた。だが戦闘に参加させ、戦わせるのは可哀想だと思い遠ざけていたのは確かだ。
「ゴル・・・『ゴルベ』のレベルを上げろって事なのか?」
「そうだシンよ。契約獣だシンよ。一緒に戦い、一緒に強くなっていくものだシン」
「そうだったのか・・・」
「も~まったく何も知らないだシンね。だからヨっちゃんを最初に選べば良かっただシン。そうすれば未だに初心者の様に稼ぎも少なく、弱いままじゃなかったはずだシン」
確かに「知識」はチカラだ。
正しいやり方を知っての努力と、ずれている努力とでは、後に現れる成果が雲泥の差となるだろう。
少しうざったい奴だが「レベルアップボーナス」の獲得順番を間違えていたと言わざるを得ない情報だった。
敬太が落ち込み考えていると、暗い空気の改札部屋にタイミグ良くモーブが入って来た。
「おはようー」
「おはよう~」
「うむ。おはよう」
「お、おはよう」
「あれは、モーブだシンね。おはようだシン」
「おっちゃんご飯ー」
「ごはん~」
それに伴い子供達が「ご飯ー」っと騒ぎ出したので、気持ちを切り替えて、とりあえず皆で朝ご飯を食べる事にした。
「それじゃ食べたい物をヨっちゃんに言うだシンよ」
「それじゃオレは、夜に食べたパンに肉が挟んであるやつがいい」
「テンシンも~」
「え~っと。分かっただシン。ハンバーガーセットだシンね。モーブとケイタはどうするだシンか?」
「うむ。わしも同じのでええ」
「じゃあ俺もそれでいいや」
「了解だシン。ハンバーガーセット4つだシン。ケイタはススイカ(改)でヨっちゃんにタッチするだシン」
どういう仕組みか分からないけど、音声認識でデリバリーを使ってくれるようだ。
「ピピッ」
ススイカをヨシオの何処に反応させればいいのか分からないので、迷うようにカードを筒に近づけただけなのに、ススイカ(改)は反応しテーブルの上のデリバリーの白い箱が開いた。
「「「「いただきます」」」」
「召し上がれだシン」
普通にワクドナルドのハンバーガーセットが出て来たので、いつも通りの朝食が始まった。
ゴルも敬太の足元で美味しそうにカリカリを食べている。
「【鑑定】」
先程のレベルの話が気になったので、ゴルに【鑑定】をかけてみた。
敬太の記憶が確かならば、ゴルにレベルの表記は無かったはずなのだ。
『鑑定』
ゴル(ゴルベ)オス
レベル 1
HP 10/10
MP 1/1
スキル なし
森田敬太の契約獣
見てみると、レベルやHPなんかも見える様になっていた。
そういえば【鑑定】のレベルが上がってからゴルの事を見るのは初めてだったかもしれない。というか、ゴルはペット枠だったので、そこに強さは求めていなかった。なので見る必要もなかっただけっていう話だが。
『鑑定』
森田 敬太 38歳
レベル 26
HP 62/62
MP 52/52
スキル 鑑定LV2 強打LV4 剛打LV3 通牙LV3 転牙LV2
連刃LV2 タールベルクLV1 石心LV2 鉄心LV1
瞬歩LV3 剛力LV3 金剛力LV1
見切りLV3 梟の目⋯
魔法 クイックLV1 土玉LV4 亜空間庫LV2
契約獣 ゴル
朝ご飯のフライドポテトをモグモグと食べながら、何となく自分のステータスも見てみた。
HP、MPがしっかりと増え、ATMでお金を払って取ったスキルが全部表記されている。
100万円と300万円のスキルは全部取ってあって、種類だけはそこそこある様に見える。普段から使っているスキルはレベルも上がっているようだし、悪くない感じだと思う。
魔法は【亜空間庫】が増えただけで、変わっていない。そもそも値段が高いし、ガチャ要素も強いので敬遠していた所がある。
それが今陥っている、探索の行き詰まりの原因だったとは思いもよらなかったが。
スキルの項目の方でもそうだが、値段が高い奴の方が強いので、ちまちまと火水風土の安い方の魔法を取る気にはなれず、どうせ取るならと一番高くて人生を変えるような空間魔法を選んで突き進んでしまった。憧れがあったのは否定しない。だが、【亜空間庫】で楽になったのも間違いないだろう。
しかし、それだけでは上手くいかない事もあるようだ。
もう少しヨシオに話を聞いて、考えなくてはいけないと思った。
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