第120話 逃走
考えがまとまり「逃げ」の結論が出てから敬太の行動は早かった。
殺人現場の証拠品を次から次へと【亜空間庫】にしまっていく。
飛び散る肉塊、男達の装備品、持ち物。あちこちにぶっ刺さっている敷鉄板、切られて地面に転がるアイアンゴーレム。最後にコンテナハウスをしまおうとして気が付いた。中にまだ奴隷の女がいるんだった。
コンテナハウスの中に入りボロボロの女の子を抱えて外に出した。どうやらこの子は男達に危害を加えられていなかったようで、死んではいなかった。一定のリズムで胸が動いているので、生きている事が分かる。
あの時の様に全力で敬太を拒否し、泣き叫ぶよりはマシなのだが、意識が無いと、このまま死んでしまうのではないかと不安になってしまう。
仕方が無いのでポーションを1本、喉の奥に流し込んでおいた。目の前で死なれると、目覚めが悪くなりそうなのだから、しょうがないだろう。
コンテナハウスをしまい、もう一度周りを見て忘れ物が無いか確認する。
次に【亜空間庫】から4WDの国産ジープを取り出す。車は軽トラを持っているのだが、怪我人を乗せるのには適さないだろう。現実世界と兼用でもう1台買っておいたのが役に立ったようだ。
中古車で5年落ち、車体価格299万円で込み込みになると332万円もしたものだ。4600cc、色は黒。本当は新車で買ってしまおうかと思ったのだが700万円~900万円もするので諦めたのだ。どうも半額弁当を買っていた時の貧乏性が抜けないようで、消耗品にそこまでのお金を出す事が出来なかった。
後部座席に毛布を敷いて、そこに奴隷の女を寝かせる。ちょっと狭いかもしれないが、座席を倒して広くしてしまうと、段差や曲がった時なんかに転がってしまうので、あえて狭くしたまま乗せたのだ。
「ゴル、行くよ」
「ニャー」
最後にゴルを乗せ車を出発させた。
時刻は午前2時ちょい過ぎ、もう少しすると日が昇り明るくなってきてしまうので、その前に街周辺からは遠ざかっておきたい。
異世界には街灯なんか無いので車のライトだけでは光量が足りず、スキル【梟の目】でカバーして土の道を走って行く。
拠点としているダンジョンまでは車で10時間ぐらいかかるので、かなりのロングドライブになるだろう。早速ポーションを一飲みし、気合いを入れてハンドルを握った。
それから約10時間後、ようやくダンジョンの周りを取り囲むように佇む、20mぐらいの高さの崖の側まで辿り着いていた。
道中は特に問題はなく、トイレ休憩の度に、意識の戻らない奴隷の女の子にポーションを飲ませるぐらいだった。
「ゴーさん。お願い」
ハンドルを握りながら、バングルに擬態したゴーさんに話しかけるとカチカチと了解の合図が返ってくる。
ダンジョンの周りには、ダンジョンを中心にぐるりと取り囲む高い崖があった。それはカルデラの様に切り立った崖で、天然の壁の様になっている。
火山の噴火口にダンジョンが出来たのか、ダンジョンが出来たから地盤沈下して一帯が沈み、それが崖となったのかは知らないけれど、すっぽりと一つの都市が入りそうな規模で盆地が出来上がっており、世界と隔離した場所を作り出している。
崖の中にある雑木林は、モーブ曰く「呪いの森」と呼ばれていて誰も近づかない場所だったようで、追っ手ぐらいしか近くで人を見た事は無い。
そんな理由からもモーブ達を囲い込むのには丁度いいと思い、一部崩れていて出入り出来ていた崖をゴーレム達総動員で修復し、10tトラックでも出入りできそうなぐらいに大きく、頑丈な門も作っていた。
崖の上には見張りにストーンゴーレムを配置し、門の開閉もストーンゴーレムの役割にしている。
そんな訳で、門を開けてもらう為にゴーさんに【通信】で連絡を取ってもらうと、ゆっくりと門が開き始めた。
4WDのジープに乗ったまま門を通ると、開けてくれたストーンゴーレムがシュタっと敬礼ポーズをして敬太達を出迎えてくれる。敬太もお返しに窓を開けながら敬礼ポーズを取って「ありがとう」と声をかけた。
門を抜け開閉の邪魔にならない所に車を止めて外に出た。ゆっくりと閉まっていく門を横目に【亜空間庫】からストーンゴーレムを100体程取り出す。
「追っ手が来るかもしれないから、見張りの強化お願いね」
今までは30体程のストーンゴーレムで見張りをしてもらっていたのだが、崖の範囲は広いので、とてもじゃないが追いつかないだろうと思い追加のストーンゴーレムを置くことにした。
都市が収まる程の広さなので100体程度で何処までカバー出来るか分からないけど、とりあえずキリがいい数にしておいた。
ここからは、軽トラやモトクロスバイクで何度も行き来した道になる。
勝手知ったる雑木林の中、何処が走りやすいか、どのルートが早いか大体把握している。クネクネと木を避け、段差を回り込み、時速20km~30kmのスピードでダンジョン目指して走って行く。このペースなら後3時間もすれば入口まで行けるだろう。
すでに、かなり長い時間運転して疲れていたが、もう少しでダンジョンに着くので、最後の気力を振り絞り車を走らせていった。
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